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アラサーからはじめる東大理系合格作戦

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 駒場キャンパスの授業に出ていると、私よりも30以上年が離れているであろう「同級生」に出会ったことがある。かれらは社会人になってから東大を受け直し(一度現役で東大に入って卒業したものの、学び直すために数十年の時を経て再入学した方も何人かいる)、入学したという、いわゆる再受験組だ。ネットニュースや、書籍などでも、40歳からの目指して東大合格、などという話をしばしば耳にする。

 ところで一つ気になるのは、こうした再受験での合格者のほとんどが、文系であるということだ。そこには、歴史学や文学など、学びなおしたい学問が文系学問である人が多いということが大きな理由として存在していると思う。
 しかし一方で、入試科目の特性も影響を与えてはいないだろうか。端的にいえば、文系科目が、年齢を重ねても大きく不利ではなく、場合によっては年齢を重ねたことで有利になりうる性質を持っているのに対して、理系科目は18歳前後をピークとして、年齢とともに次第に能力が落ちていくという性質があるように思える。

 このことを18歳の将来の名人と嘱望されている若手棋士と、40歳の名人経験のある棋士とが将棋で対戦した場合、どちらが勝つかという問題になぞらえて考えてみたい。
 まず読みのスピードという面では、おそらく18歳の若手棋士に軍配があがるだろう。もちろん若さゆえの粗削りな部分も多々あるだろうが、それでも読みの切れ味、とくに終盤で詰みの手順をパッと閃くのには、18歳の若手のほうが有利だ。
 いっぽう、40歳の元名人には大局観、あるいは経験の厚みといったものがあって、これは18歳の若手に勝る要素である。全体を見渡すような判断能力や、類型のあまりない局面に遭遇した際の対応能力は、40歳の元名人のほうが上だろう。
 こうしたことを考えると、18歳の若手は読みの早さを活かすべく、スピード感のある戦いにして終盤の斬りあいを望むだろうし、対する40歳の元名人は、じっくりとした展開、類例の少ない展開に持ち込んで、大局観を活かすことに勝機を見出そうとするはずだ。だから、この二人の対戦は、どちらにも充分勝機があると言ってよい。
 
 これを東大受験に置き換えるとこうなる。18歳が得意とする読みのスピードというのは、数学や物理などにおける、計算能力や解法を閃くスピードと似通ったものだろう。いっぽう40歳の持ち味である大局観というのは、国語や社会科目で発揮されるような、日本語を読み、考え、表現する力と対応するものだ。
 
 ここまで考えてみると、再受験組に理系がなぜ少ないのか、という問題の答えが浮かび上がってくる。文系受験では国語や社会などがメインとなり、年齢を重ねたことで、18歳に勝りうる場面も少なからず出てくるのに対し、理系受験では、数学や理科が中心で、18歳の持つスピード感との真っ向勝負となり、年齢を重ねたことのデメリットが如実に反映されてしまう展開になりやすい。

 しかし、ここから解説する戦略を身に付ければ、年齢を重ねてからの東大理系再受験であっても、勝機を見出し得るはずだ。
 その戦略をひとことでいうならば、「理系科目で失点を最小限に抑え、文系科目で勝負する」というものだ。なお、ここで解説する内容は、再受験生だけでなく、理系志望ではあるものの、理系科目が伸び悩む現役生や浪人生にも有意義だと思うので、ぜひ参考にしてもらいたい。

 

英語・国語の戦略


東大の理系の二次試験は、英語120点 数学120点 国語80点 理科(4科目から2科目を選択)120点という配点だ。
 合計440点のうち、国語、英語という文系科目が計200点を占めていることに注目したい。
 例年の理系でもっとも合格最低点が低い理科II類に合格するには、おおよそ230/440点が目標ラインなのだが、年齢を重ねたことで18歳に勝りうる点、すなわち国語的能力を活かすためには、この230点のうちの半分強を英語と国語で稼いでしまえばいい
 より具体的には、英語で80/120点、国語で50/80点を狙いたい。文系科目に特化する作戦としては、英語がやや低いかもしれないが、これは東大英語は言語運用能力にプラスして、処理スピードを求められるため、年齢を重ねたことがやや不利になる側面があり、あまり無理はできない、という理由からだ。そのしわ寄せとして、国語が50/80点と高くなっているが、国語対策で培われる表現力は、他の科目の底上げにもなるため、ここは重点的に対策したい。
 もっともここで英語+国語で130点になれば、その二科目の点数の取り方は自由だ。英語で90点取れるメドがつけば、国語は40点とかなり楽になる。中間をとって英語85点、国語45点もあり、現実的な選択肢という意味ではこちらがベストかもしれない。とくに現役生、浪人生ならば英語で80点超えを目指し、国語は40点強に留めるのが無難だ。

数学・理科の戦略

 さて残りの100点は数学と理科の240点のなかから稼いでいくことになる。
ここで鍵となるのが、理科の科目選択だ。一般的に東大理系受験では物理+化学が圧倒的に人気であり、生物+化学が少数、ごく稀に生物+物理や、物理+地学を選択する受験生がいる、という具合だ。
 ここまで読めばおわかりだとは思うが、ここで重要なのはまず物理を避けることだ。過去問の解答をひととおり見て頂ければわかるように、数式で埋め尽くされている。物理はほとんど数学と地続きで、ほんらいは数学が得意な受験生が選択すべきものだ。
 次に他の科目の模範解答を見てほしい。一科目、理科にもかかわらず、ほとんど数式が出てこないものがあるのに気づかされるはずだ。すなわち生物である。
 結論から述べると、数学+理科で残りの100点を集めるうえでは、生物を大きな得点源とするべきだ生物では論述がかなりのウエイトを占めており、文系的な能力で力を発揮しやすい再受験生と相性がよいのだ。じっさい東大生物は、解答をどのような文章構成にするかといった国語力がかなり問われる試験だ。生物の知識はもちろん必要だが、それ以上に、簡潔、的確な表現力が求められる。それが英語や国語を得点源とする戦略との相性がいい。
 具体的な点数として、生物で40/60点を目指したい。けっして簡単な目標ではないが、科目の性質上、ある程度の慣れと記述力を積み上げていけば、安定して取れるようになるはずだ。
 理科のもう一科目は、やはり計算が少ないという観点から化学を選択すべきだろう。ただし、こちらでは勝負せず、20/60点程度でよしとする。
 もっともさきの英語+国語同様、生物+化学で60点を満たせばよいため、化学で多少点が伸ばせそうなら、生物35点+化学25点というような組み合わせもあり得る。
 
 最後に残る数学だが、こちらも無理はせずに3割台の得点、40/120点を目標とする。合格者の中央値が70点前後だということを考えるとかなり低い目標設定であり、不合格者の平均点にも達していないが、全体で帳尻を合わせる戦略なので全く問題ない。理系数学は150分の試験時間で大問が6あるが、そのうちの1つを完答して20点を固めたうえで、残りはひたすら部分点をかき集めていく。
 東大文系数学でかなり部分点が来て救われた私の経験からアドバイスを挟むと、部分点狙いでは、ただ解き散らさないということがポイント。つまり乱雑に式だけが書いてあったり、途中式までが書かれているのでは、部分点は狙いづらいということだ。反対に、その式に至るまでのプロセスや、どの地点までは到達できたのかといったことを、式に加えて言葉で記述しておくと、部分点を貰える可能性はかなり高まる。このことを日ごろから意識して、数学に取り組むとよいだろう。

まとめ

 ある程度の年齢に達した東大理系再受験では、文系科目の英語+国語に加え、凖文系科目ともいえる生物を得点源とする戦略が、もっとも力を発揮しやすい。いっぽうの化学や数学は、3割を少し超える程度の得点を目標とし、無理はしない。
 もっともここに提示したのは一つのプランであって、再受験生でも数学力に自信があれば、数学と物理を得点源にする作戦でも構わない。
 いずれにせよ重要なのは、短所となる部分では徹底して戦うことを避け、長所となる部分を伸ばしてゆくことだ。それこそが真の意味での戦略であり、東大受験を勝ち抜くための最善の術なのである。
 
 
 

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