体育の先生と台上前転、そして早弁。
学校の先生に好かれたことはない。
絶対ない、と思う。
高校のとき、女子高の体育の時間。
うん、たぶん高校時代だったと思う。
跳び箱で台上前転をさせられた。
いかにも体育の先生ですという感じの筋肉が立派な男性教諭。
列に並んで、ひとりひとり跳び箱に向かって走っていく。
体育館の床板を走り、踏切板を蹴って、跳び箱の上でくるりと回り、マットに着地。
上手にできない人には、跳び箱の脇で先生が介助する。
おしりを持ち上げてくれるのだ。
それが、ものすごく嫌だった。
私は、ひとに体を触られるのがとても苦手。
それは今でもそうだけど、
「ねぇねぇ」とか言って肩にちょっと触れられるだけでも、ビクッとする。
ましてや、先生を意識している、お年頃の女子高生。
絶対やらないぞと、後ろの方でウダウダしていた。
結局、先生にみつかる。
「なんで言うとおりにやらないんだ。」
体育会系の、まっすぐな怒り方。
「別に・・・」
的な感じで反抗的な態度をとり続ける私。
グーパンチが飛んできた。
今の時代なら、絶対やらないであろうやり方で反省を促す。
口の中が切れて、少し血が出る。
多少の手加減は、したのだと思うが。
「やる気のないヤツは帰れ!来なくていい!」
「はい。」
痛いな、と思いながら教室に帰る。
確か4時間目だった。
ちょっと早かったけど、お弁当をひとりで食べた。
早弁ってやつ。
血の味がしたのを憶えている。
たぶん先生は、すぐに謝るだろうと思ったのだと思う。
でも、そんな気にはなれなかった。
何事もなかったように、次の日は、やってくる。
そして、廊下で先生とすれ違う。
少し困ったような恥ずかしそうな顔で、先生が近づいてきた。
「大丈夫だったか。」
私の顔を覗き込む。
こっちも照れるから、そんなに見ないで。
そう心の中で思いながら
「大丈夫です。」
少し日に焼けた笑顔が、カッコいい先生だった。
ac-illust.com イラストじろうさんのイラストを使わせていただきました。