緊張感ある現場
私が働いているICUでは、一般的に言われる病院のような、交通事故で強く外傷がある患者や心筋梗塞・脳梗塞のような救急医療を必要とする患者が常にいるわけではない。
侵襲性の高い術式の患者がいることが常で、もちろん術後の出血なんかはありますが、一般的な病院と比較するとゆるやかなICUと言われるのかもしれない。
そんな中でも、術後何度も出血を繰り返してだんだんと状況が悪くなっている患者もいます。または、院内で心停止や意識消失、出血などで急変が起き、病棟で看護することが難しいと判断された患者が入院しています。つまりは一般病棟と比較すると、多少なりとも高度な医療を提供しているわけです。
日記感覚で、でもどこかに自分の考えを残したくて、「note」という手段を取りました。
先日、自分が師長代行でリーダーを勤めていた夜勤。
敗血症を起こし、ARDSに移行して人工呼吸器管理中の患者でした。脱水や溢水を繰り返しており、常にHRは100前後を経過していましたが、夜0時をすぎたところでHR170台まで増加。脱水と判断され、Alb投与して水引きをしていましたが状況は変わらずHRは160〜170台のまま。主治医からはHR200超えない限りそのまま朝まで静観の指示……
そんなことってありますか?HR160なんていうと常に走り続けている状態。人間何時間も走り続けたらどうにかなってしまいそう。心臓だって疲れて止まってしまう。朝までこんな状態を見守れなんて…と、ICUの看護師が一度は経験するジレンマです。
そんな風に思っていたところで別の主治医がたまたまICUまで来てくれました。夜中の3時にですよ?本当に医者っていうものは仕事が好きじゃないとやっていられないと側から見てて思います。
血圧はなんとか昇圧剤(ノルアドレナリン)を使用して保ってはいましたが、さすがにこのタキっている(頻脈)状況はなんとかしたい。主治医の指示でワソランを1/2Aずつ投与。IVワンショット。
ワソラン→頻脈性不整脈に使用される。心房細動・粗動、発作性上室性頻拍など。細胞外液のカルシウムイオンが細胞内に流入することを阻止するカルシウム拮抗作用により、心臓の興奮電動を遅らせ、乱れた脈拍を整える他、冠動脈を広げて心臓への血流を増やし、抹消血管を広げて心臓にかかる負担を軽くして心筋虚血に伴う胸痛などの症状を抑える。
それでもHR160〜170から一向に脈が落ち着かない。血圧も頻繁に図る。Bp90前後。頭を悩ませながら先生が他剤使用しようとしたところ、HR100まで下がる。
「先生、レート落ち着きました!!」「ほんと?!?!」安堵の瞬間。
ただ、脈が落ち着いたとともにAF波形に変化したのでワソラン・サンリズムでリズムをコントロールしていきたい。ただ、ワソランだと血圧低下リスクがある…。そこで、ビソノテープの貼用に指示を切り替え。
ビソノテープ→βブロッカー。一般的には高血圧症によく使われる。主作用は心臓を興奮させる交感神経のβ受容体を遮断すること。これにより心臓の心拍数が減少し心拍出量が低下、結果的に血圧が下がる。さらに腎臓における昇圧物質レニンの分泌抑制作用、中枢でも交感神経抑制作用なども示す。副作用として高度の徐脈がある。
すでに4時を周り、先生が「今を逃すと帰れそうにないので今のうちに帰ります笑」先生、ほんとに帰ってくれ…そしてありがとう夜中にきてくれて…と心の中で思い、先生とはさよなら。ここから、看護師と患者だけの戦い。安全を守らなくては。
患者の部屋はICUのナースステーションからすぐ見える場所にありましたが、こういう状況でこの場を離れるのは勇気がいる。私はずっと部屋の前にPCをおいて陣取り、記録を書いたり環境を整備したり血圧を測ったりしていると…5時をすぎたところで、HR160まで急に上昇。持続で主治医に連絡の指示があったため、「先生起こすのは忍びないなあ。すぐに戻って…」と思っていたところ、いきなりブラッディ!HR30まで低下!!!
ブラッディになると、そのまま心停止なんてこともざらにあります。本当に、Nsの心臓が止まる、というほど心臓バクバク。すぐに「〇〇さん!!!」と周りの患者さんが寝てるのも気にせず大声で叩き起こす。心電図モニターのアラームを察知して、駆けつけてくるスタッフ。
白目をむきながら「なんだ?」といわんばかりの患者。そのままHRは50、80、100と回復。いつの間にかAF波形がサイナスに戻っている。サイナスタキの状況。
これがこの夜勤2度ほどありました。
ワソランはβ遮断薬と併用すると、徐脈や心機能低下、房室ブロックが怒るリスクがあります。
もちろん、声をかけて戻ってくるそれだけでよかったですが、そのまま心停止の可能性は十分すぎるほどにあるので、急変がおきた時、誰かEMRコールをかけるか、第一連絡の家族は誰か、第一連絡の主治医は誰か、胸骨圧迫はだれがするか、病棟の安全を守るのは誰か、EMRコールで集まったスタッフを采配するのはだれか。こと細かくシュミレーションをしました。救急カートとDCを準備しておくのも忘れずに。
8時を周り主治医が来棟。無事に朝を迎えられたことに安堵する。
部屋の前に置かれた救急カート、DCをみて「あれからなにがあったの?!」驚く主治医。笑
先生が帰ってからのことを細かく報告して、、、「寝てるのなんて気にしないで連絡してくれてもよかったのに。一人で診てて怖かったでしょう」と声をかけてくれた。
こんなこと、ざらにあります。こんなことがあるのがICUの現場。冒頭でも話したように、むしろ私の病棟は術後の患者が中心なので、他の病院と比較したら申し訳ないような甘ったれた環境なのかも。
一瞬も気を抜けない緊張感。自分の看護が患者の生死を左右する状況。まさにそんな現場に私たち看護師はいます。緊張を感じる時、自分の身体に、精神的に、すごいストレスだなと自分ながら感じることがある。
ただ、それ以上に、、なんとも言えない高揚感が自分を包む。
こんなことを言ったら急変楽しんでんのかって意見を言われたりするかもしれませんが、決してそうではなくて、なにをしてでも助けたい!っていう思いが身体の中を奥底から生まれて、駆け巡っていくような感覚。それが、身体から出ずにうずうずしている時もあれば、溢れ出て弾けて普段とは想像できないくらい大声が出たり表情が険しくなったり。バグバグと心臓を打ちつけてやまなくなったり、息ができなくなったり。
この感覚になるひとはそんなにいないと思う。
院内でもEMRコールがかかって患者の元にたどり着くと、状況に動揺して、なにをしたら良いのかわからなくて、呆然と立ちつくしている看護師も少なくはない。もちろん、自分もそちら側にいた時もある。
看護師ができることなんて限られてる。
だから、どうしてこうなってるんだろう、とか、自分なんてなにもできないなんて考えず、行動!
循環、呼吸の確保!
急変時に動ける人間になるかなれないかなんて、心持ちのただそれだけ。やること、やれることは限られている。自分が助けたいと思うかどうか。一歩踏み出さないとなにもできなかったと後悔のうずに飲み込まれて次の機会もどうせ逃す。
こんな風に気づかせてくれたのは、ICUの看護師になったから。一般病棟にいる時は、急変起きませんように、なんてそう願うだけだった。
どんな状況に自分をおくかで全然モチベーションが違うし、目標とするものも変わってくる。そう気づかせてくれた今の環境に本当に私は感謝している。
もしこれを読んでくれた看護師がいれば、救急看護の素晴らしさについて少しでも感じてくれたらなと思う。
一般の方がいたなら、医療者もこうやって怖さや緊張感と向き合いながらも看護していることを知ってくれたらなと思う。
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