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宙組トップスター・芹香斗亜さんの退団発表に寄せて
この知らせを目にした時に思ったのは
ただただ残念だ。
もう少し夢を見せて欲しかった。
トップスターの退団のセオリーとしては「フラグ」となる作品やイベントが発表される。次期その位置に立つ人も何かしらの「フラグ」(別箱が話題作や単独で全国ツアーなど)があり、それぞれに世代交代の心構えをしながら、いよいよかと腹を括り迎える退団の知らせ。発表されたら待ってはくれなくて、ただただノンストップ。公演の合間に様々なメモリアルを挟みながら、お祭りのような喧騒に包まれながら嵐のように去っていく。
全てが去った後、私はいつも台風や猛暑を乗り越えたカラッと秋空のようだと感じる。ひんやりとした爽やかな風は、あの纏わりつく熱気や照り付ける日差しが恋しく感じる。熱狂の日々を終え、夏から秋、秋から冬へ移ろうかのような感覚だ。
そんな心の移ろいすら感じられないのは、とても寂しいなと感じた。
3組を渡り歩き、2組にわたる長期の2番手を経て。やっと、やっと背負った大きな羽根だった。お披露目の初日、「宙組の芹香斗亜です」のアナウンスに起きる大きな拍手。大きな羽を背負う満面の笑顔。誰もが望んでいた瞬間を共有出来た日を思い出すと、切なくて悲しい思いが込み上げてくる。
だけど、反面
本当によく頑張ったな、とも思う。
トップ就任後に起きた、カンパニーの仲間に起きた痛ましい事件による公演の中止。
110年の歴史上、同じ経験をしたトップスターは居ないだろう大きな出来事。
彼女達が幼い頃から目標とし心身を捧げてきた場。アイデンティティ。ファンを超えて国民が関心を寄せる程の大きな事件。日々、自分達のカンパニーに対し否定的な言葉が飛び交う。組の存続や進退についても日々様々な思いが頭を過ぎる。SNSを避けても、たまたま付けたTVや目にしたもの、ふとした瞬間に飛び込むであろうネガティブな言葉たち。どれだけの辛い思いをして来たか。
トップスターはその矢面に立つ、立場的に立たざるを得なかった。
再会の大劇場初日。幕が開く瞬間の表情。トップスターの輝きとは違う。トップスターとして立たなければいけない、でも怖い。その狭間にあっただろう。その心の葛藤が垣間見えた気がして、見ている私もその不安を打ち消すかのように拍手を送り続けた。
トップ自らが退く事が、謝罪の言葉を発信し、頭を下げる姿を見せた方が「世の中」には禊となりアピールとなったかもしれない。
でも、舞台を立つ事を選んだ。選んでくれた。
それでも、トップスターで居続けた。
どれだけの批判を浴びるかは想像がついただろうに、それでも舞台に立つと決めてくれたのは芹香斗亜としての責任で誠意だと思った。私は舞台の上に立つトップスターとしての誠意を受け取ったし、芹香斗亜と宙組と共に歩もうと誓った。
今振り返ると、公演を再開させるか否かも、劇団内でも生徒さん達の中でも葛藤があっただろう。舞台に立ちたいけれども怖かっただろう。
大劇場の10日間は、探り探り。あくまでも「舞台人として」の笑顔「舞台人として」のあり方で立たれていた印象だった。生徒さん達の多くは受け入れられるかの不安を抱えながら、拍手や手応えに少しずつ「舞台人として」のアイデンティティを取り戻していく。そんな印象を抱いた。我々ファンも、宙組を応援し続けていいのか?の不安を解きほぐしていく、そんな10日間だったと私は思っていた。
ご縁があり、東京公演にもお邪魔した。
最後の観劇が8月20日、公演の終盤だった。日々伝わってくる公演の評判にワクワクしながら足を運んだ。大劇場の印象は随分と変わり、漲るパワーと何よりも楽しそうな姿にこちらも元気を貰った。自然と惹きつけられるオーラは、これぞトップスターだと言う輝きとパワーがあった。
私達が、芹香斗亜さんに出来た事は
あなたがトップスターで居てくれて良かった。
「ここ(宙組)はトップスター芹香斗亜を必要とする場所だよ」
と、言う事を観客として示せた事。ここに居ていいし、いや、ここに居て欲しい。劇場こそが宙組が芹香斗亜が生きる場所だし、その気持ちを客席から拍手で届けられたのだ。
それと同時に、私達は宙組のファンでいい。
その気持ちも取り戻せた。
公演期間中に、宙組のご縁で知り合った方達と沢山会って沢山語り合った。初めて会う方もいた。宙組が好きだ、ただその共通点だけで旧知の仲のように打ち解けた。
その中で亡き彼女を偲ぶ機会もあった。
どんなに長く親しい間柄でも言えなかった。SNS上では余りにも刺激的な言葉ばかりが飛び交っていたから尚更だ。様々な思いを抱えている仲間達と、亡き彼女を思う気持ちも話せたし、大切な娘役を失った悲しみを共有し涙した事もあった。ずーっと抱えてた辛い胸の内は、公演が始まったからこそ話せた。
生徒さん達も、針を進める事でしか乗り越えられない・癒せない思いがあると思っている。
あの件については、私達ファンは事実を知る術はない。
もし、ジャッジをするなれば「観に行くか行かないか」しかない。今の宙組は観に行けない、楽しめなかった。そうやって胸の内を明かして下さった方もいたが、それはそれでいいと思う。様々な思いを抱えながらそれでも応援し続ける。でもいい。
私は、最後の1日まで宙組トップスター芹香斗亜を応援し続けるし、それからの宙組も応援し続けるだろう。それ以上でも以下でもないし、私がそうする事は誰にも否定される事でもない。
芹香さんの会見記事を読んだ。今日って9月3日やん。この日を選んだのか、たまたまこの日になったのか定かじゃないけれども。2004年9月3日。芹香さんが語った事は
3作で終えるつもりでいた。
他のトップスターと変わらず、晴れやかな表情で語っていたが、今はあぁ良かったねと胸を撫で下ろす事は出来ない。だけど、今はそう出来なくても、最後の日にそうなればいいなと願っている。