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普段は強面で凶暴な彼女は、僕の前では嘘みたいに優しい。13話 (ハロウィン編)

10月31日、ハロウィンの日。

小さい子たちは可愛らしい仮装をして近所の家に訪れて、お菓子をもらって楽しんだり、

年がある程度いくとアニメや映画に登場するキャラなどに本格的な仮装をして楽しんだり、

元は異界の者の姿に似せることで魔除けになると信じられて始まったとされるこの行事は、日本でもかなり浸透した。


そして、その祭りに乗じてあの2人組も…



瑛紗:ふふ、ご主人様〜

瑛紗:夜のお散歩も素敵ですね♪

メイドの格好をした瑛紗が、コスプレのモチーフにしたキャラになりきって〇〇に言った。

〇〇:え、あぁ…

〇〇:離れちゃ…ダメだから…ね?

シルクハットを被って伯爵の格好をした〇〇も、そんな瑛紗に合わせてキャラになりきろうとしたが、上手く言えず辿々しい言葉使いになっていた。

瑛紗:きゃ〜、優しいですねご主人様!

瑛紗:私、ご主人様にお仕えさせていただけて光栄です。

恥ずかしがる〇〇とは反対に、瑛紗はキャラに更になりきってノリノリだった。


2人が今日仮装しているのには、訳があった。




〜1週間前〜


瑛紗:あ〜、退屈だぁ…

カーンッ

学校の帰り道、道端に転がっていた缶を蹴飛ばして瑛紗は溜め息をついていた。

〇〇:確かに暇だね。

瑛紗:はー、なんか面白いことないかな〜



ぼやいている2人のもとに、


不良1:おいオメーら、ちょいと金貸せや。

〇〇:あっ、それ無理だと思いますよ?

不良2:あ?何言ってんだテメー?

不良3:ぶん殴られてーのか?


いつものように不良たちが絡んできた。

がしかし、〇〇は前ほど怯まなくなっていた。


〇〇:いやほら、横…

不良1:あっ?

〇〇が指差す方に不良たちが目をやると、

不良たち:⁉️

殺気に満ちた鋭い眼光を放つ瑛紗が、指を鳴らして威嚇していた。




瑛紗:ハエどもが…

瑛紗:騒いでんじゃねーぞ…

静かめなトーンで、不良たちを睨みつけた。

不良たち:ひ、ひぃ…

不良たちは絡む相手を間違えたと思い退却しようとしたが、


シュンッ

ボゴッ‼️

不良2:んぐぉっ⁉️

ズシュッ‼️

不良3:ぐぇッ⁉️

バタンッ

先回りした瑛紗に1人は腹にパンチを喰らい、1人は顔面にキックを受け、最後の1人は…


ガシッ


不良1:あっ、あ…

服の襟を掴まれて身体を持ち上げられ、

瑛紗:っりゃああああああああ‼️

槍投げの槍のように瑛紗に投げ飛ばされた。


ガシャンッ



〇〇:(本当、なんで毎回こうなるのかな…)

あと何回こするつ…

ではなく、毎度の如く瑛紗による不良たちの処刑ショーが披露された。


瑛紗:あー、つまらん‼️

瑛紗:全然すっきりしない‼️


不良たちを成敗しても、瑛紗の気晴らしにもなっていなかったようだった。


そんな時だった…




?:ねぇ、そこの君たちー!

後ろから声を掛けられた〇〇と瑛紗が振り返ると、

同じ学校の制服を着た女の子が立っていた。


?:この大会出てみない?

その女の子から渡されたチラシを受け取り、チラシの中身を見た。


〇〇:「ハロウィン仮装グランプリ2024」?

瑛紗:「今年は最高のコンビを決めるぞー」?

?:そう、今年はウチの従兄弟が主催でやってるんだ〜

?:あ、名前言ってなかったね。私、井上和!

和:よろしくね。

〇〇:あ、野上〇〇。よろしくね。

〇〇:(仮装大会か、うーん…)

人前に出て何かをするのが苦手に感じていた〇〇は、断ろうとしていた。


〇〇:その…井上さん?

和:うん、何?

〇〇:ごめんね、その…

瑛紗:楽しそう…

〇〇:え?

〇〇が言うのを遮って、瑛紗が身を乗り出した。


瑛紗:これ、凄く楽しそう‼️

和:でしょ?

和:てことは、参加するで良いかな?

瑛紗:うん!するする!

〇〇:え、あぁ…

和:じゃあエントリー登録するから、名前教えてくれる?

瑛紗:うん、池田瑛紗!

和:い、け、だ…、あ、下の名前どんな漢字か書いてくれる?

瑛紗:良いよ〜

和がエントリー用紙を瑛紗に渡して名前を書かせた。


和:ありがとう瑛紗ちゃん!

和:あとは〇〇くんも書いてくれる?

〇〇:え、あぁ…

瑛紗:ごめん、嫌だった?

〇〇:いや、その…

和:ふふ、平気だよ。ただ仮装してくれれば良いから。

和:それに、〇〇くん結構いい感じだと思うな〜

〇〇:え?

和:コスプレしたら化けるタイプだよ、きっと。

〇〇:ほ、本当かな?

和:うん、信じて。

〇〇:じ、じゃあ…書くね。

〇〇もエントリー用紙に名前を書いた。

和:ありがとね、2人とも。

和:因みに、コスプレとかしたことある?

瑛紗:ないよ。

〇〇:う、うん…ないね。

和:よし、じゃあ私の知り合いのお店に行こうか!


和はそのままハロウィン仮装グランプリに登録した〇〇と瑛紗を連れて、知り合いのコスプレ専門店やって来た。

瑛紗:わ〜、色んなコスプレの服あるー!

和:ふふ、凄いでしょ?

〇〇:本当、凄いや…


和:因みに仮装グランプリには優勝景品もあるからね。

瑛紗:優勝景品?

和:うん、北海道旅行券付き。


〇〇・瑛紗:北海道旅行⁉️

瑛紗:〇〇、頑張ろ!

〇〇:でも、優勝って難しいんじゃ…

瑛紗:やってみなきゃ分かんないよ!



和:じゃあ〜、早速好きなの着てみて。

瑛紗:良いの?

和:うん。

瑛紗:やったぁああ。

〇〇:(凄い楽しそう…瑛紗が。)

〇〇が呆気に取られていると、


瑛紗:じゃーん、見て〜


瑛紗が魔女学校の制服姿になって現れた。

和:わー、凄く似合ってるよ!

瑛紗:えへへ、ありがと。

和:〇〇くんも着替えてきたら?

〇〇:え、あぁ…うん。

〇〇:(可愛かったな…今の瑛紗)

そう思いながら、〇〇も自分が仮装グランプリで着るものを選び始めた。


〇〇:どう…かな?


〇〇が最初に着たのは、宇宙飛行士の格好だった。

瑛紗:あはは、〇〇可愛い〜

〇〇:か、可愛い??

〇〇:そんなんで選んだわけじゃないけど…

瑛紗:だって、このガラスから見える顔小さいし。

和:まぁ〜良いと思うけど、それ一つしかないからな…ペアには向いてないかな?

〇〇:そっか、別のにするよ。


次に瑛紗が着たのは…

和:チャイナ服ね。

瑛紗:そう!

和:うん良いね〜


そこに、〇〇が別のものを着て現れた。

〇〇:さっきの瑛紗の感じに合わせて着てみたけど…



〇〇は杖を持った魔法使いの格好をしていた。

和:良いじゃん!似合ってるよ!

瑛紗:うんうん!

〇〇:ありがと。

和:他にもあるから、どんどん着てみてよ。


そうして、2人による仮装ショーが始まった。



(瑛紗サイド)

瑛紗:てへ、ぴょーん。ぴょーん


瑛紗:神様〜、神様〜、わらわにお力を〜


瑛紗:ご、ご主人さま。お怪我はありませんか?


(〇〇サイド)

〇〇:いざ…出陣なり…




〇〇:ほらー、そこの車止まりなさい!

〇〇:うらめしや〜うらめしや〜


色々試行錯誤していった結果…


〇〇は片眼鏡を付けた伯爵の格好に、

瑛紗はメイドの格好にして、

仮装グランプリに出ることにした。



和:うんうん、凄く良い組み合わせだよ!

瑛紗:えへへ、ありがとう。

和:じゃあ2人とも、当日頑張ってね!

〇〇:う、うん。




〜現在〜


〇〇:優勝…できるかな?

瑛紗:〇〇、それ心配していたの?

〇〇:う、うん…

〇〇:え?瑛紗は違うの?

瑛紗:んまぁ〜、優勝はしたいよ。

瑛紗:でもね、それよりコスプレ一度してみたかったんだ〜

〇〇:そうなの?

瑛紗:うん、だって楽しそうじゃん!

瑛紗:普段はなれない姿になってさ、自分が可愛くなったり、カッコよくなったりするのって良いな〜って。

〇〇:普段はなれない姿になって…可愛いくなったり、カッコよくなったり…か。

瑛紗の言葉で心に余裕が出来たのか、〇〇はうっすら笑みを浮かべた。


〇〇:なんか良いかも、そう聞くと。

瑛紗:ふふ、でしょ?

瑛紗:だから、〇〇も楽しんでよ。

〇〇:うん。

瑛紗:でも〇〇もなりきってたけどね〜

〇〇:へ?

瑛紗:私の理想のご主人様に…

ツンッ

指で〇〇の頬をほんの少し押して、瑛紗はニコニコしていた。 


暫くしてハロウィン仮装グランプリの会場に2人は着き、グランプリにエントリーした人たちの待機場所に向かった。



〇〇:(うわ…緊張してきた。)

〇〇:?

〇〇の胸の上に、瑛紗の手が置かれた。

瑛紗:ふふ、心臓バクバクしてるね。

〇〇:うん、凄くね…

瑛紗:大丈夫だよ、〇〇カッコいいし。

瑛紗が手を握って励ました。


実況:さぁ、いよいよ次でラストの組です!

実況:エントリーNo.20、伯爵&メイドカップルの登場でーす!


2人の番がやって来た。


〇〇:(うっ…緊張が更に…)

ステージの中央に向かって歩くと盛大な拍手が送られて、中央に立つと大勢の観客が2人の目に入った。


審査員:それでは、即興劇をお願いします。

〇〇:(うわ…なんて言うのかな、瑛紗。)

瑛紗:あ、ご主人様!見てください、こんなに大勢の方々が見に来てくれてますよ♪

〇〇:⁉️

観客たちからの声:おぉ〜

瑛紗:皆さ〜ん、こんにちは〜

観客たちからの声:こんにちは〜

瑛紗:ふふ、ありがとうございます♪

瑛紗:ご主人様、皆さんから元気な声をもらぇしたね〜

〇〇:あ…

観客の方に向かって演じていた瑛紗のペースに、〇〇は圧倒されていた。

しかし、その時…


〇〇:!

観客席の方に、和が笑顔で親指をあげて励ましているのが見えた。

〇〇:(井上さん!)

そして横を見ると、瑛紗が小さく頷いてウィンクした。  

そのおかげで、〇〇の顔にも笑顔が宿り出した。


〇〇:そうだね。

そして〇〇も観客の方に顔を向けた。

〇〇:皆んなありがとう!

観客たちからの声:おぉ〜

〇〇:でも、一つお願いがあるんだ。

瑛紗の方を向いて言った。

瑛紗:はい、ご主人様!

役に入り込もうとし、〇〇は周りにバレない程度深呼吸して口を開いた。



〇〇:今日はご主人様じゃなくて、名前で呼んでくれないか?

瑛紗:!

〇〇:折角の夜なんだし、瑛紗。

瑛紗:う、うん!

瑛紗:〇〇!


その瞬間から、会場全体から歓声が響いた。


実況:素晴らしい!最後に相応しい、なんとも
ドラマチックな即興劇です!



その後、審査員たちがそれぞれ出場したコスプレのカップルたちにポイントを入れた結果が発表された。



実況:第二位、40ポイントで龍の舞カップル!

(拍手)

実況:そして、栄えある第一位の発表です!

実況:第一位、46ポイントで…



伯爵&メイドカップルです‼️


〇〇・瑛紗:⁉️


瑛紗:やったよ〇〇❗️

瑛紗:優勝だよ‼️

〇〇:うん‼️

〇〇と瑛紗が抱き合って、泣きながら喜んでいた。



和:やったぁああ!

和:最高だったよ!瑛紗ちゃーん!〇〇くーん!

ステージにいる2人を見ながら、和も泣いて喜んでいた。



そして、賑わいが落ち着いた頃…


〇〇:瑛紗。

瑛紗:何?

〇〇:凄く楽しかったよ!

瑛紗:うん、私も!

和:おめでとう!

瑛紗:和ちゃん!

〇〇:井上さん!

和:本当に最高だったよ、2人とも!

和:今日来れない筈だったけど、時間出来たから寄ってみたの。

和:来て良かったよぉおお‼️


3人でハグし合って、優勝の喜びを分かち合った。



〇〇:本当、2人のおかげで最高に楽しいハロウィンだったよ。


瑛紗:〇〇。

和:ふふ、良かった。

〇〇:また、来年もやりたいね。

瑛紗:ぶふっ!

〇〇:な、なんで笑うの??

瑛紗:だ、だってあんなにぶるぶる震えてたのに
そんなこと言うからー笑

〇〇:それは、そうだっだけど…

和:仲良いね、2人とも。


〇〇・瑛紗:え?うん、まぁ…


魔除けになってたかはさておき、

ハロウィン仮装グランプリで、

また〇〇と瑛紗の距離は縮まっていった。


13話 完

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