友だちだった関係から変わった夏
涼しい風が吹き始めた今日の朝。
何げなく歩いていると、
列車が通過するのを報せる音が鳴り響き、
踏切の遮断機が降りた。
〇〇:ふ〜…
ぽんっ
?:〇〜〇!
振り返ると、
菜緒が居た。
〇〇:菜緒…
菜緒:ほら、行くよ。
手を繋がれ引っ張られて駅に走っていく。
菜緒:楽しみだな〜、博物館の展示会。
〇〇:本当、菜緒は恐竜好きだよな。
菜緒:だって面白いんだもん。
菜緒:ねぇ知ってる?ステゴサウルスってさ…
電車の車窓に外からの太陽の光が、俺と菜緒の間に差し込んでいた。
小さい頃から恐竜のことが好きな菜緒に誘われて、一緒に恐竜の展示会が開催されている博物館に行くことになった。
恐竜が好きな理由が、
見た目が好きだからかと今まで思っていた。
例えば、
あの獰猛な目をしたティラノサウルスとかの
巨大な生物の迫力が好きだからとか。
でも菜緒の場合は…
菜緒:ステゴサウルスってさ、背中に板みたいなのあるじゃん?
〇〇:うん。
菜緒:あれなんであるか知っている?
〇〇:いや、知らない。
菜緒:ステゴサウルスが体温調節を行う為にあるんだって。
菜緒:あの板みたいなのの中に毛細血管が沢山あって、その板をね日光にたくさん当てて血液を温めたり、風に当てて血液を冷ましたりして体温の調節をするんだってさ。
〇〇:へ〜、なるほど〜
菜緒の場合は、恐竜の生態とかをずっと調べていくうちにそれが面白くて恐竜が好きになったという。
菜緒:着いたー!
博物館の最寄駅について改札を出ると、恐竜のモニュメントに抱きついていた。
菜緒:うは〜、トリケラトプスくん可愛い!
〇〇:すぐ抱きつくな菜緒は。
菜緒:だって、このツノのフォルムが最高でさ〜この顔の周りについているのも…
菜緒の恐竜ヲタクっぷりを見せられつけてから、博物館に向かった。
菜緒:うわ〜、ブラキオサウルスでっか〜!
博物館の入り口を通ると、巨大な恐竜のレプリカが僕たちを出迎えた。
〇〇:確かにデカいね。
菜緒:でも、これでも実際よりは小さいんだって。
〇〇:え?そうなの?
菜緒:うん。だってこのブラキオサウルスのレプリカ多分高さ8mとかでしょ?本当は18mとか有ったんだよ。
〇〇:へ〜、倍違うんだ。
菜緒:そう、だからさティラノサウルスを追っ払えたのも分かるな〜って。
〇〇:え?そうなの?
菜緒:そうだって言われてるよ〜ブラキオサウルスって長い尻尾で敵を追い払ってたみたい。
〇〇:なるほど〜、流石のティラノサウルスも結構痛がるのかな〜
菜緒:鞭で叩かれる感覚みたいだとかの話もあるし。
〇〇:ひえ、そう聞くと痛そう…
そして、2人で展示されている恐竜たちを見て周り始めた。
〇〇:へ〜、イグアノドンのドンって歯って意味なんだ。
元々こういう博物館に行ったりするのは好きではあったからか、菜緒ほどではないが展示を見ていくうちに、いつの間にか楽しくなっている自分がいた。
〇〇:翼竜は骨が薄いため、完全系での保存が難しい…と。
菜緒:おっ、〇〇も恐竜の魅力にハマったかな?
そんな俺を、隣から嬉しそうに眺めていた。
〇〇:まぁ、こういうの見るの好きだし。
菜緒:へ〜、意外。
〇〇:なんで?
菜緒:だって、いつもゲームしかしていないイメージだから。
〇〇:んぐっ…
〇〇:でも、歴史とか好きだし。
菜緒:へ〜、だから戦〇BA〇〇RAとかするんだ〜
〇〇:まぁ〜な。
〇〇:いつか行きたいんだよな〜、戦国武将たちの城。
菜緒:じゃあさ、来年2人で旅行しようよ。
〇〇:え?
菜緒:ほら、来年から高校生になるしさ。
〇〇:でも、別に菜緒歴史好きってわけじゃ…
菜緒:ううん、菜緒も最近ちょっと興味湧いてるよ。お城とかカッコいいって思うし。
〇〇:本当?
菜緒:うん。だから一緒に行こうよ。
〇〇:なんか、ありがとう。
菜緒:良いって。今日は〇〇に一緒に長い時間電車乗って、展示会ついて来てもらったしさ。
そして次の年の夏になった。
高校生になった俺と菜緒は2人で新幹線に乗り、2泊3日で愛知と岐阜に旅行しに行った。
〇〇:おおー、名古屋城でっけえええ‼️
写真でしか見たことがなかった城を目の前にして、興奮が湧き上がり両腕を思わず広げていた。
パシャッ
〇〇:?
菜緒:ふふっ。
〇〇:何笑ってるの?
菜緒:撮ったの、今の〇〇。
〇〇:へ?
菜緒:名古屋城前にして、腕広げて仰いでいる〇〇を。
〇〇:なっ、撮るなぁああ‼️
菜緒:あはは!
写真を撮ったスマホを片手に逃げ出す菜緒を追いかけ出した。
〇〇:今すぐ消せぇええ‼️
菜緒:なんでー、良いじゃん!すっごく面白いリアクションだし。
〇〇:恥ずかしいから消せぇええ❗️
菜緒:恥ずかしくなんかないでしょ?好きなものに全力なのは。
〇〇:え?
菜緒:好きなことして恥ずかしさなんか感じなくて良くない?
〇〇:お、おう…
急ハンドル切るなと思ったが、言われてみればその通りだと少し菜緒に感心した。
菜緒:ほら、名古屋城の中入ろうよ。
〇〇:う、うん。
城の中に入ると、順路に沿って中を見学して行った。
菜緒:なぁ、なんかあの屏風怖いね…
〇〇:え、ああ。あの虎のね。
〇〇:あれはこの城に来た来客に対して威厳を示すのと、城の中で勝手なことをさせないように恐怖を植え付ける為に虎の絵をああやって描いているとからしいよ。
菜緒:そっか、お城を守るための仕掛けみたいなのなんだね。
〇〇:まぁ…そういうことかな。
菜緒:〇〇の話聞いていたら、ちょっとは怖くなくなったかも。
〇〇:そっか、良かった。
菜緒:あっ!
〇〇:ん?
ギュッ
視線が俺の顔から屏風に移った瞬間、菜緒がまた腕にしがみついてきた。
菜緒:やっぱ…怖い…
その瞬間、心臓の鼓動が激しくなった。
〇〇:(ち、近ッ)
菜緒:ふ〜、涼しい。
見学が終わり、出口付近に置いてある冷却の風が出る機械の前に立った。
〇〇:天国だね、ここ。
菜緒:うん、ずっといられる。
真夏日ということもあるのと、見学の通路のところは扇風機が数カ所に置いてあるだけで暑さが地味に凄かったので、余計にそう思えた。
菜緒:ふふ、ちょっと怖いのもあったけど面白かったな〜
〇〇:うん。
それから、休憩しに近くのカフェに入った。
菜緒:このシャチホコのクッキー可愛い。
〇〇:ね。
菜緒:明日は岐阜城だっけ?
〇〇:うん、信長の城だよ。
〇〇:天下統一を夢見た信長の城、早く見たいな〜
菜緒:ふふ。
〇〇:なんで笑ってるの?
菜緒:〇〇すっごく目キラキラしてるな〜って。
菜緒:恋でもしてるのかな〜って。
〇〇:こ、恋?
〇〇:いやいや違うって‼️そういう意味じゃないから。
菜緒:あはは、冗談だって。
信長には恋してはいないけど、
そんなことを菜緒から言われたせいか、
菜緒の顔を見るたびに、
さっきの城内の見学していた時みたいに、
胸の奥が煩くなった。
次の日、岐阜に移動して岐阜城を拝んできた。
本当なら終始こっちが喜びのあまり叫びまくっているはずなのに、
菜緒と一緒にいるだけでどんどん胸が締め付けられていった。
菜緒:ねぇ、具合悪い?
〇〇:いや、別に。
菜緒:じゃあ、なんでさっきから話しても顔逸らしてるの?
〇〇:そ、それは…
正直に言わないとこの悪い雰囲気は治らないだろう。
けど…
〇〇:ああ、無理!
〇〇:言ったら、切○したいくらい恥ずかしくなる‼️
菜緒:はぁ???
菜緒:何それ、まさか…
〇〇:何?
菜緒:さっきの案内してくれたスタッフさんが可愛くて惚れたとか?
〇〇:ガクッ‼️
盛大に転んだ。
菜緒:〇〇?
〇〇:ん、何?
ベンチで隣になって座っている菜緒に聞かれた。
菜緒:ほ、本当はさ…私といるの嫌だった?
〇〇:え?
菜緒:だって、この旅行…私が勝手に一緒に行こうって言ったから、無理させたかなって。
〇〇:それは違うよ❗️
菜緒:!
〇〇:!
自分でもビックリするくらい、声が大きくなった。
〇〇:ごめん、急に大声出して。
菜緒:ううん、良いけど。
〇〇:俺、こうして菜緒と一緒に居られるの楽しいよ。
〇〇:本当に。
〇〇:昨日だってさ、一緒に名古屋城周って、それからシャチホコのクッキーがついたメロンソーダを一緒に飲んで、あとはすっごく美味しい蕎麦屋さんで夕飯食べたのとか…
〇〇:菜緒が一緒に行こうって言ってくれたおかげで、今楽しいんだよ。
菜緒:そ、そっか。
菜緒:えへへ、なんか照れちゃうな。
少し顔を逸らして見える菜緒の横からの笑顔。
それを見た瞬間、抑えていたものが外れた。
〇〇:でも、だからかな…菜緒のこと見ているとドキドキしてさ…
菜緒:え?
〇〇:菜緒のこと、ずっと友だちだと思っていたのに…それなのに…
〇〇:好きって気持ちが強くなっちゃって…
菜緒:〇〇…
〇〇:❗️
ふと我に帰った瞬間、身体中が熱くなっていた。
〇〇:ご、ごめん‼️
〇〇:やっぱ俺、体調悪いかも笑
菜緒:え、あっ…ちょっと〇〇!
〇〇:すまん、トイレに…
菜緒:待てッ!
ガシッ
菜緒に強く腕を掴まれ、足を止められた。
〇〇:痛ただっ❗️
菜緒:もう、嘘下手なんだから笑
菜緒:離れないでよ。
〇〇:え?
菜緒:あんな嬉しいこと言ってくれたのに。
〇〇:菜緒…
即興のウソはバレて、再びベンチに引き戻された。
菜緒:もう、変に心配して損した。
〇〇:ごめん、本当に。
菜緒:やだ、タダじゃ許さないから。
〇〇:わ、分かった…今日の夜ご飯は俺が奢るから…
菜緒:そんなことしないで良いから。
菜緒:これからも一緒にいて。
〇〇:え?
菜緒:〇〇のこと好きだから。
2泊3日の旅の帰り、
新幹線の中で菜緒からのスキンシップがいつもより増えて、終始イチャついていたのはよく覚えていた。
次の年の夏になると、菜緒と海に出かけた。
バシャッ
菜緒:きゃっ!
〇〇:うぇーい、1ポイント。
菜緒:卑怯だぞー
スンッ ザバァ!
〇〇:ぎゃああっ⁉️
〇〇:ぶほぉ!ぶほぉ!
〇〇:おま…押すのは無しだろー!
菜緒:知らないも〜ん。
菜緒:彼女にズルするのが悪いんだから笑
〇〇:だったら…
菜緒:きゃっ!
〇〇:うわっ!?
ザバーンッ
不意打ちを狙ったつもりが、綺麗にかわされてまた海にダイブした。
菜緒:ちょっと、大丈夫⁉️
〇〇:ぶはぁ、げほっ…
〇〇:くそ…何故そんな避けるの上手いのだ…
菜緒:えへへ、凄いでしょ〜
〇〇:かー、ムカつく!
菜緒:あはは、落ち着いてって笑
余裕かまして逃げる菜緒を追いかけていた。
阿保みたいに騒いで、笑って。
〇〇:⁉️
気がつくと、踏切の前に立っていた。
渡ろうとした瞬間、電車が近づくのを報せる音が鳴り始め遮断機が降りたので、諦めて待つことにした。
〇〇:もう夏も終わりか…
空に向かって右腕を伸ばし、手を広げて何かを
掴むような動作をした。
ぽんっ
〇〇:!?
菜緒:何してんの?
〇〇:菜緒。
菜緒:手なんか伸ばして。
〇〇:いや、別に…
〇〇:今年はどこも行けなかったな〜って。
菜緒:ふふ、そうだね。
菜緒:でも仕方ないじゃん、受験生だし。
〇〇:だよな…
〇〇:はぁ〜、頑張らないとか。
踏切の遮断機があがり、2人で踏切を渡った。
菜緒:でも、今年もどこか行きたかったな…〇〇と。
〇〇:…
〇〇:そうだ、今日塾終わったらさ祭り行かない?
菜緒:え?
〇〇:まぁ、9時に祭り終わっちゃうからそんな遊べないけど。
菜緒:…うん、行こう!
〇〇:よし、決まりだな。
友だちから恋人同士になった2人は、
夏の終わりを少しだけ先延ばしにする
楽しみを持って塾までの道のりを歩いた。
菜緒:絶対受かろうね、一緒の大学。
〇〇:あったり前だろ。
それから半年後…
受験した校舎の掲示板に貼られた
合格者の番号一覧から
2人はそれぞれ自分の番号を見つけて
抱き合った。
fin.