短編小説:電車
電車に乗っていて、ふと思うことがある。
今、私は自宅の最寄駅に帰っている。ちょっと遠くの美術館に行って、いいもの食べて帰ってきた帰りだ。秋なのか冬なのかわからない気温の中、よく頑張ったと思う。
話が逸れた。ええとなんだっけ、そう〝最寄駅〟だ。もし最寄駅が違ったらどんな人生だったろうか。
今の最寄駅より市内の方に近ければ美味しいカフェとかに通っていたかもしれない。いや知らない駅が多いし、駅の近くに美味しいカフェとかクレープ屋さんとか居酒屋とかがあるかも。経由駅っていうものはそもそも降りないので、何があるか知らないものだ。……たまに知らないとこに行くのもいいかもね。
逆に市内の方から遠かったら? それもそれでいいかもしれない。市内の方に行くだけでちょっとした旅だ。駅の自販機の飲み物でさえ特別に感じるかも。大して変わらないと思うけど、旅の先で飲み食いするのは特別なのだ。田舎にあるチェーン店の居酒屋と、都会の方にあるチェーン店の居酒屋はなんか違うのだ。人も違うし、ご飯も違うし、お通しも違う。見るだけでお腹いっぱいになるタチにはとても刺激的な光景だ。
最寄駅というテーマ一つで色々と考えてしまう。1日歩き回って疲れたせいだろうか。美術館で見たあの有名画家の素敵な色使いと見え隠れする才能に嫉妬したのだろうか。……いやあの画家には勝てそうにもない。騙し絵のようなものを書いたり、構造はめちゃくちゃなのに人だとすぐわかる絵を描くのだ。勝てない、勝てない。
遠くの空が赤い。久々に夕陽を見たような気がする。ああ、もう夕方なんだな。いつも空を見上げる時はもっと暗いからなんだか新鮮だ。もう夜に切り替わってしまうんだな。
……冬、冬か。冬といえば、地元では雪が積もる場所なのだが、去年は全く積もらなかった。除雪する手間がなくてよかったが、だがいかんせん冬っぽくなかった。今年は緑色のカメムシがいっぱいいるから大雪だとか、気象庁の予報も雪が多めの予想だとかいろんな予報が『雪が積もるよ〜』と教えてくれている。ちょっとだけ楽しみ。雪だるまえを作ったりする余裕があるといいな。