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【小説】鋼の詩(うた) 〜現場百回〜 2-1
第2章:失敗から学ぶこと
1.はじめての仕事
春の気配が少しずつ感じられる頃、若杉和也は初めて大きな仕事を任された。
新型装置の部品設計。
これまでにも、いくつかの小さなパーツは設計してきた。しかし、今回は違う。
この部品は、装置全体の中核を担う重要なパーツだ。
(とうとう、ここまで来たか……。)
期待と不安が入り混じる中、若杉はデスクに向かい、図面を何度も見返しながら慎重に作業を進めた。
この部品において最も重要なところは、「強度」「軽さ」「コスト」のバランスだ。
軽量化すれば、強度が落ちる。強度を上げれば、コストも上がる。
そのせめぎ合いの中で、最適な設計を導き出すのが、エンジニアの腕の見せどころだった。
若杉は何度も試行錯誤しながら、CAD画面に向き合う。
(荷重分散すれば、剛性を保ちつつ軽量化もできる……。)
(そのためには、ここにリブを追加して……。)
そうやって、若杉は一つ一つ丁寧に自分なりの答えを出していった。
「よし、これで完璧だ。」
PCモニターに映る3DCADのモデルを見つめ、若杉は満足げにうなずいた。
CAE(構造解析)のシミュレーション結果も問題なし。強度もクリア。軽量化も成功。
理論上は申し分ない仕上がりだった。
設計者として、これ以上ないほど自信を持てる図面が完成した。
(ついに、俺も一人前の設計者になれたかもしれん。)胸が高鳴る。
「若杉、図面できたか?」
デスクの向かいで書類をまとめていた福山正人が声をかけた。
「はい!完璧です!」
まっすぐな自信に満ちた表情で、若杉は答えた。
しかし、数日後──。
その図面が現場に渡された瞬間、若杉の自信はあっけなく打ち砕かれることになる。