Clearを語る
Clearというレーベルを今もこよなく愛しているのは、それまでロックやアヴァンギャルドに傾倒していた自分がテクノや電子音楽、ジャズやエレクトロの面白さを知らしめてもらったレーベルのひとつでありまして。場所は西新宿時代のロスアプソン店内の一角にまで遡る。今も鮮明なんですけど、あの当時扉を開けると右手にレジカウンターがあり、その前に平台の什器があってそこにはレコメンドされたカセットや CDが綺麗に並べられており、その下辺りに同じくレコメンドされたアナログが数枚並べられていたうちの一枚がDoctor Rockit(a.k.a. Matthew Herbert)の12インチ、「D For Doctor」であった。キャプションの有無は覚えてないけれど(多分あったから購入に至った筈)、買って帰り、針を落とした瞬間、そのスカスカ感にまずは戦慄と衝撃。それから繰り返し針を落とさずにはいられない中毒性を孕んだこの12インチを聴き、すぐにClearレーベルとDoctor Rockitの別のタイトルを目指して後日ロスアプソンへ向かわずにはいられなかった事を思い出した。この時はおそらく10インチ2枚組「Ready To Rockit ep」、それからHerbert名義のディープハウスの12インチを買って帰った記憶がある。
この2つの名義が同一人物と知ってか知らずか、どちらもどストライク過ぎてその後もClearとHerbertの快進撃は自分内で続いてゆく事に。後に色々知ってゆく訳だけど、ここからはRichard D. Jamesとのデュオ、Mike & Richやµ-Ziq名義等でも活動するMike ParadinasがJake Slazenger名義で、Kirk DegiorgioことAs One、テイ・トウワのレーベルからMorgan Geistの国内盤がリリースされたり竹村延和のLollopからのリリースで知られるReflectionのライセンスリリース等も行っていた。そんな面々を並べてみるだけでもこのレーベルの先鋭性がほんのりと伺えるかと思うのだ。その谷口兄弟によるReflectionのデビュー盤は正しく衝撃だった。彼等は竹村延和やDJ Vadimのリミックスを手掛けたり、ClearからもリリースしているMetamaticsとのTone Languageにてコラボレートをしたり、Clearからはリミックス盤もリリースされていた。
Asteroid Desert Songs(ADS)がMOODMAN主宰のM.O.O.D.よりリリースした「Pre-Main e.p.」ではマジアレさんによるセルフライナーを読む事が出来るのだけど、そこでマジアレさんはエレクトロリヴァイバルについてほんのり言及するテキストを残していて、そこにClearの名前を出して語ってもいて。Clearはエレクトロのレーベルというわけではないけれど、ClatterboxというDMX KREWとタメを張れる(?)オールドスクールエレクトロを馬鹿馬鹿しくも誇らしげに実践する猛者がいた。彼やDMX KREW、ADSなんかかこの時代のエレクトロリヴァイバルをゆるりと牽引していた様に思うのだ。そんなClatterboxやDoctor Rockit達の音に対して佐々木敦は「トイテクノ」なんて呼称で紹介していたり。