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soup-disk

所謂トリップホップ/アブストラクトと呼称されていた音楽群。ヒップホップ寄りではあるけれど、文字通り少々抽象度の高い(様な)ロウなビートでラップが入り込む余地があまりない様な、そんな音楽に傾倒していた時期はご多分に漏れずMo WaxやNinja Tuneといった、主にヨーロッパの音楽に浸っていた。そんな流れに呼応する様に日本のインディペンデントでもそのテのレーベルが幾つか生まれてきた。原雅明と虹釜太郎両氏が興したsoup-diskは、この2人が!という事でただただ期待しかなかったし、それは想像以上にしてやられる事に。


カタログ一番はコンピレーション、「Silverlization-銀化-」。AmephoneやMontage、Suzukiskiらがレーベルが標榜する「アブストラクト&ストリートジャズ」を聴かせてくれるわけだけど、ここではそこまでアブストラクト/ヒップホップを押し出すでもないのだけど、勿論そこかしこからその辺りが滲んだ素晴らしいコンパイルとなっており、コンパイラーお二人の耳と感性の鋭さに脱帽させられる事に。後に同レーベルからソロアルバムをリリースするMontageこと山道晃(CCI)が提供した3曲では禁欲的なインストゥルメンタルヒップホップを展開しており、これには心の臓を撃ち抜かれた。決して派手さのない、抑制されたビートではあるのに凄みを感じたと言うか。まさに自分が欲していた音達がここにあった。↓こちらリリースパーティー時のフライヤー。

2枚目は打って変わってノンビート、まさにパリペキンに集っていたであろう音/アーティストが参戦した音響コンピレーション。山道晃、ユタカワサキ、ノブオオタケ、Tamaru、永田一直(TRANSONIC/ZERO GRAVITY)角田俊也(Wrk)という布陣。以前自分が携わっていた企画でTamaruさんに出演頂いた際、このコンピの裏話(?)を教えてもらった事もあった。こうゆうリリースから、海外からAsh International発の日本人コンピレーション「Chiky(u)u」なんかも登場する流れになっただろうし(地球はマニュエラで買った事を思い出した)。



3枚目は先述したMontage。DJ KRUSHやDJ VADIMらと同列に並べて聴かれるべきインストゥルメンタルヒップホップの可能性を推し広げた一枚だと今でも思っている。因みにラスト13曲目はパリペキン〜ロスアプソンで暗躍した故・軍馬修さんへ捧げられたトラックで幕を閉じる。同レーベルからMontageはその後2枚目のアルバムをリリースするが、そちらはなんとドラムンベース作品となっており、SUB ROSAからライセンスリリースされる事にもなる。

Silverlizationの2番はDJ Vadim参戦、竹村延和のLollopから素晴らしいデビューアルバムをリリースしていた谷口兄弟(Reflection)が各々ソロトラックを提供という大きなトピックも話題であったコンピレーション二作目。ヴァディムは冒頭とラストに提供した2曲は共に素晴らしく、冒頭はまさに彼の音。骨組みのみのミニマムに展開するAndre Gurov名義に近い質感のもの。ラストが問題作で、ファーストでもドアの開閉音なんかもトラックに取り入れたりもしていた彼のもう一つの真骨頂。今度は水音をフィーチャーしたノンビートトラック。そうだ、cappablackの「犬の道」が収録されている事も付記しておかねば(どクラシック故)。

カタログ7枚目はそのcappablackによるデビューアルバム。レーベルがここまでヒップホップ(インストではあるが)を前面に押し出したのは初めての事じゃないだろうか?個人的にはアブストラクトと言われる作品の中でも特にクラシックの一枚(他DJ KRUSHのセカンドや覚醒、DJ Vadimのファーストなんかがある)。アートワークや曲タイトル、全体を覆う雰囲気からは独特の侘び寂び感とでも言おうか、和の質感もそこかしこに感じるのだけど、それはDJ KRUSHが和楽器の人とコラボするトラックとはまた異なるものなんだけど、そんなところも琴線に触れたところ。その後彼等はMCと共に作り上げた12インチ、「The Opposition EP」も紛う事なきである。

SuzukiskiはTRANSONIC/ZERO GRAVITYなどからもリリースしていたが、soupからは相当数の作品を発表する事になる。パル・ジョイなんかとも比較されたりもするけれど、「Message」での軽やかなビート探求は、それまでの作品と一線を画した内容だったと思うし、それは12インチを切った事でもわかるかと思う。最初期に自主でリリースしていた「Big Tomorrow」「Thought」のリイシューという(そちらのライナーはレイハラカミが執筆している)素晴らしい仕事もsoupはやってくれていた。

Riow AraiもSuzukiski同様別レーベルからリリースしていたが、soupからリリースした「Mind Edit」「Beat Bracelet」には度肝を抜かされた。そこらの軟弱なビートを軽く一蹴する様なぶっといビートの凄み。ヒップホップ以上にヒップホップしているとでも言いたくなる様な、自然と首を振ってしまうビートジャンキーにはたまらない瞬間がたっぷりと詰まっている。


soup-diskの別軌道レーベルも幾つかあり、その中でも幾つもの名義を使い分ける杉本卓也が凪(Nagi)名義でリリースした一枚も忘れられない。普段テクノ/ハウス的な作品を発表してきた氏がブレイクビーツに絞り込んでみせた一枚。cappaclackのアルバムに侘び寂び感が、みたいな事を先程書いたけれど、凪のアルバムからもそれを存分に感じ取れる。まあその辺りは曲名からも如実に伺えるんだけど、この路線でまた一枚作り上げて欲しいなと、最近活動を再開してるようですしちょっぴり期待していたりもする。

Computer Soup(以下コムス)の存在/音ったらばなかなかに奇妙なものがあり、それはぼんやりとした音の響きや佇まい。流動性や匿名性なんかも孕んだ音響?ジャズ?即興?なんかをカフェの一角や公園なんかで演奏したりJan Jelinekとのコラボ作品も発表、更にはOvalとライブで共演したりと神出鬼没であった。そうそう僭越ながらコムスが以前リリースした「Oldneo」を原雅明さんと並べてコメントを書かせて頂いた事もありました。針谷さんその節はありがとうございました。そうそうもう一つ。むかしLUNA SEAのSUGIZOが GROOVE誌で連載ページを持っており、ある号でコムスを愛聴しているとの記述を見つけた時は相当興奮した事を思い出した。彼はソロでDJ KRUSHやDJ Vadim、ドラムンベースのクリエーターなんかとも一緒にやったりしていたし、だからこそGROOVEで連載していたんだろうけど、しかしコムス聴いてただなんて、ですよね。

他にもKittaやTaichi、Ishimitu ProductionにILL SUONO(アルバムでは降神の志人が客演していた)など素晴らしい作品が存在しているけれど、また長々と書きすぎてしまったのでこの辺で。いつか不知火や360°Recordsなんかについても書きたいけど文量を抑えて書ける自信が…。

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