絶対浮気しない男 第14話 10年後の再会
季節は巡り、10年の歳月が流れた。 あきらの元に、高校の同窓会の案内状が届く。
馴染みのメンバーの名前が所狭しと連ねられているのを見て、あきらは複雑な心境になった。 楽しかった想い出、悔やまれる過去。 10年の時を経ても、忘れ難い記憶の数々が色濃く残っている。
とりわけ、あの春の出来事は忘れようと思っても忘れられない。 恋のいたずらに翻弄されて、あきらは四人の女性を傷つけてしまったのだ。 満身創痍で迎えた卒業式。 あれから彼女たちとは一度も会っていない。
(今さら会って、なんて言えばいいんだろう...) あきらは葛藤した。 素直に謝罪すべきなのは分かっている。 けれど、相手の傷を思い出させるだけなのかもしれない。
逡巡の末、あきらは同窓会に参加することを決めた。 この十年間ずっと、彼女たちへの後悔が心の奥底でくすぶり続けていた。 いつかはちゃんと謝らなければ。 そう思い続けてきたのだ。
同窓会当日。 久しぶりに母校を訪れたあきらは、感慨にふけりながら体育館に足を踏み入れた。
華やかな装飾に彩られた会場。 どこからともなくBGMが流れ、歓談の声が満ちている。 照明に照らされたスクリーンには、朋輩文字のメッセージ。
(みんな、大人になったんだな...) 昔はまだあどけなかった顔も、いまや逞しさを増している。
目を凝らせば、見覚えのある顔もちらほら見つかる。 おもむろに同級生たちと挨拶を交わすあきら。 「よお、久しぶり!」 「ひさしぶりー!」
歓迎ムードの中、ふとあきらは視線を感じた。 ゆっくりと振り返ると、そこにはまどかが立っていた。
月日を隔てても、そのあどけない笑顔は健在だった。 「あきらくん、久しぶり!元気にしてた?」
「ああ、まあな。お前は?旦那は?」 「えへへ、三年前に結婚したの。子供も生まれたよ」
幸せそうに語るまどかを見て、あきらは心からの祝福を告げた。 「そうか、おめでとう。お前も母親になったんだな」
「あきらくんは?結婚とかは...」 「いや、俺はソロだな。仕事が忙しくてそっちは全然」
「そっか。でもちゃんと幸せになってね」 話の途中、まどかは一瞬寂しげな顔をした。 けれどすぐに笑顔を取り戻す。
(幸せ、か...) あきらは心の中で呟いた。 確かに寂しさを感じることはある。 でも、まどかを傷つけた自分には幸せになる資格はないのかもしれない。
そのとき、葵、聖子、沙織が三人揃って近づいてきた。
「あきら、私たち、あなたのおかげでちゃんと大人になれたわ」 葵が口火を切る。
「私なんて、あきらに振られたおかげで真面目になれたのよ」 聖子もつけ加えた。
「私も、あきらとの恋が私を変えてくれた。感謝してるの」 沙織も微笑む。
三人三様の告白に、あきらは驚きを隠せない。 自分が彼女たちを傷つけたはずなのに、恨みの感情はないようだ。
「みんな...俺のことを許してくれたのか?」 あきらが尋ねると、三人は顔を見合わせて頷いた。
「もちろん。あの頃は皆、未熟だったんだもの」 葵が代表して言う。
「今のあなたを責めたりしないわ。過去はもう水に流しましょ」 聖子も同意する。
「これからは、仲良くやっていけたらいいな」 沙織の提案に、全員が賛成した。
あきらは感無量だった。 自分の過ちを反省し、許しを請うつもりが、逆に励まされてしまった。
「みんな、本当にありがとう。俺、この十年ずっと後悔してたんだ...」
あきらの言葉に、四人の女性たちは優しく微笑んだ。
「もういいのよ、あきら。私たちだって、あなたに救われた部分があるんだから」
葵の言葉に、聖子と沙織も深く頷く。 まどかも口元に笑みを浮かべている。
そのとき、あきらの親友・いおりが現れた。
「よお、あきら!久しぶりだな!」 いおりは爽やかに手を上げる。
「いおり...お前もか」 「ああ、同窓会だからな。みんなに会いたくてよ」
そう言ういおりに、あきらは熱いものが込み上げてくるのを感じた。 昔も今も、変わらない親友の存在。
「それで、聞いた話だとお前、沙織と再び付き合い始めたんだってな?」 いおりが茶化すように言う。
「え?そ、それは...」 あきらが言葉に詰まると、沙織が顔を赤らめた。
「もう、いおりったら!言わないでよそんなこと!」 慌てふためく沙織に、一同は大笑いした。
葵と聖子は嬉しそうに二人を見守り、まどかもくすくす笑っている。 いおりはあきらの肩をがしっと叩いた。
「お前も立派になったもんだ。まさか沙織と結ばれるなんてな」 「いおり...昔はなにもわかってなかったけど、今は違うんだ」
あきらは沙織の手を握り、真剣な眼差しで言葉を紡ぐ。
「沙織、俺はお前を一生かけて幸せにする。 二度と傷つけたりしない。信じてくれ」
「...ええ、信じてる。私もあなたを幸せにするわ」
じっと見つめ合い、あきらと沙織は固く手を握り合った。
「おめでとう二人とも!」 「末長くお幸せに!」 「いつまでもラブラブでいてね!」
葵や聖子、まどかが口々に祝福の言葉を述べる。 いおりも「お似合いの夫婦だぜ」と太鼓判を押した。
こうして、かつての恋のライバルたちに見守られながら、あきらと沙織は婚約の誓いを立てたのだった。
そして、いおりがあきらに向かって言った。
「それにしても、お前も絶対浮気しない男になったんだな。昔の面影ないぜ」
「ああ、沙織には死ぬまで尽くすつもりだ。俺はもう、昔みたいな男じゃない」
あきらの力強い言葉に、いおりは満足げに頷いた。
「そうこなくちゃな。これからは一家の大黒柱として、しっかり妻を支えるんだぞ」
「任せとけ。仕事も頑張って、沙織と子供たちを養っていくつもりだ」
「子供?まさかもう...」
「バカ!まだだよ。でもいつかは欲しいと思ってる。沙織もそう言ってたしな」
あきらの顔は少し赤くなっていた。いおりはそんな親友を見て、微笑ましく感じた。
(あきらも、ようやく本物の大人になったんだな...)
誰もが予想しなかった展開だが、これが人生というものなのだろう。
かつてはプレイボーイだったあきらが、真面目で一途な男に変わるなんて。
「まあ、頑張れよ。子だくさんになったら、叔父さん役はオレに任せろ」
「ああ、そのときは頼むよ。いおり叔父さん」
親友同士、わちゃわちゃとじゃれ合う。周りの女性陣も、和やかな笑顔で見守っている。
そのとき、沙織がスタスタとあきらの元へ歩み寄ってきた。
「あのね、あきら。私、考えたの」
「ん?なんだ?」
「今日は同窓会だから、皆の前で改めてプロポーズしてほしいな」
「え!?い、今ここで!?」
あきらが驚いて声を上げると、沙織は頬を膨らませた。
「もう、いいじゃない。せっかくみんな揃ってるんだから」
「で、でもそんな急に言われても...」
あきらが困惑していると、いおりがニヤリと笑った。
「いいじゃねえか、あきら。男なら度胸見せろよ」
いおりに後押しされ、あきらは観念した。
「...わかったよ。やるよ、プロポーズ」
「本当!?やった!」
沙織が小躍りして喜ぶ。葵や聖子、まどかも目を輝かせている。
「みんな、ちょっと聞いてくれ!」
あきらが大声で叫ぶと、会場内がざわついた。
「俺、沙織にプロポーズします!」
どよめきが起こる。あきらは改めて沙織と向き合い、右手を取った。
「沙織、十年前はお前を深く傷つけてしまった。本当に申し訳なかった」
「あきら...」
「けど、今は違う。心から愛していると言える。だからお前に聞きたい」
あきらは深呼吸をすると、真摯な眼差しで言葉を紡いだ。
「沙織、俺と結婚してくれ。一生、幸せにするから」
その瞬間、会場から大歓声と拍手が沸き起こった。
沙織の瞳からは、大粒の涙がこぼれ落ちる。
「ええ...!私、あなたの妻になります!」
二人は抱き合い、キスを交わした。
まどかと葵、聖子も涙を流して喜んでいる。いおりに至っては、泣きながら「おめでとう!」と叫んでいた。
あきらと沙織の婚約は、同窓会の大ニュースとなった。
みんなから祝福され、二人の顔は終始笑顔だった。
「あきら、沙織、本当におめでとう。末永くお幸せに」
まどかが二人を抱きしめながら言う。
「ありがとう、まどか。お前にはなんと言って謝ればいいか...」
「もういいの。過去のことは全部水に流して。今日からは新しい人生のスタートよ」
優しく諭すまどかに、あきらは感謝の気持ちでいっぱいだった。
葵と聖子も、あきらと沙織に祝福の言葉を贈る。
「あきら、沙織のことを大切にしてあげてね。絶対幸せにするんだよ」
「ええ、任せて。俺、沙織を一生愛し続けるから」
葵の言葉に、あきらは力強く頷いた。
「沙織も、あきらを支えてあげてね。二人で力を合わせれば、どんな困難も乗り越えられるわ」
「聖子...ありがとう。あきらと一緒なら、私はもう何も怖くない」
聖子に励まされ、沙織は幸せそうに微笑む。
こうして、同窓会は大団円を迎えた。
かつての恋のもつれも、今となっては昔の思い出。
みんな、それぞれの人生を歩んでいく。
再会を喜び合い、固い絆を確かめ合った仲間たち。
その笑顔が、会場に満ちあふれていた。