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減塩醤油にみる化学特許戦略


化学の特許出願戦略を「減塩醬油事件」から見ていきます。

数値限定特許のバリエーションをどのように取っているのか

共同開発のお土産だったという解説を含めてお伝えします。

まずは最初の出願をバリエーション含めてお伝えします。

【独立請求項1】食塩濃度9w/w%以下 / 減塩醤油において

から新しくなるにつれて

【独立請求項1】食塩濃度9w/w%以下 or 減塩醤油 (A)ナトリウム3.55質量%以下において

とバリエーションがあるものの骨子は変わらず

また、カリウムの含有量も最初のばらつきがあるのが2004年11月には「0.5~4.2質量%」に定まっています。

初期の出願

出願日が早いカリウム含有量主成分特徴部
特許第4542884号(2004.12.14)では
0.5~4.2質量%
酸性アミノ酸2質量%超及び/(D)E(F)窒素の含有量が1.6質量%未満

特許第4559344号(2005.11.11)
0.5~4.2質量%
酸性アミノ酸2質量%超D/塩化アンモニウム及び乳酸カルシウムを含有しない

特許第4559345号(2010.07.30)
0.5~4.2質量%
血圧降下作用を有する食品素材0.1~10質量%を含有+窒素の含有量が1.6質量%

こちらを含め発明者は

主導KSTの3名+SO2名の薬効になります。

ここでいうキー醬油調味料の頭文字KSTの3名が絨毯爆撃を主導しています。

後には製造現場、栃木県の発明者が参加してきます。


ちなみに後期には
【独立請求項1】食塩濃度9w/w%以下 or 減塩醤油 or ナトリウム3.55質量%以下において
と前提条件も少しバリエーションが生まれかつ本文も

これで特許の束を作った事が事業に結びついたという考察が有りましたよ。

アミノ酸といえば味の素ですよね。事業に結びつけるためには味の素の力が必要だ、彼らも特許をたくさん持っている。じゃあ、そこに向けて我々も何か持ってないと対等に勝負できない。手土産が必要ですよね。手土産持っていって、何とか丸く収めて一緒に減塩調味料を作りましょう、というストーリーだったかもしれません。

あくまでも僕の推測ですが、2012年に両社が健康ソリューションビジネスで事業提携しているので、あながち的外れではなさそうです。
(参照:味の素株式会社と花王株式会社、健康ソリューションビジネスにおいて事業提https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/presscenter/press/detail/2012_05_29.html

手土産持っていって、何とか丸く収めて一緒に減塩調味料を作りましょう、というストーリーだったかもしれません。というのは外部から見たらそうかもしれません。





以下はマルチマルチになりそうな記載事項対応、弁理士先生向け

「課題を解決するための手段」の記載を引き写して、先頭に「上記(1)~(3)のいずれかの装置」のように、マルチ/マルチマルチクレームと対応するような記載を挿入した例。

・最後に効果の記載を加えておくと、進歩性の議論に役立つ。

・効果の記載の仕方は色々あると思うが、一対一に見られると権利が小さく判断されるので注意する。

マルチマルチの明細書の記載

(1)・・・装置は、AとBとを備える。・・・これにより、・・・できる。

(2)上記(1)の装置は、Cをさらに備えてもよい。・・・これにより、・・・できる。

 (3)上記(1)又は(2)の装置は、Dをさらに備えてもよい。・・・これにより、・・・できる。

(4)上記(1)~(3)のいずれかの装置は、Eをさらに備えてもよい。・・・これにより、・・・できる

ヨーロッパだと厳しく主従関係を見られるので面倒でも段落を分けておく。追加の項目の特有な効果は「できる」の前に書いておくが.一対一でみなされることは理解した上で書くこと。

比較対象として補正を行うため構成を分離して記載していない駄目な例。

×【XXXX】 Aは、Bと、Cと、Dと、を備える。Bは、・・・。Cは、・・・。Dは、・・・。

代わりに教えて頂いた改善案では

 Aは、Bを備えてもよい。Bは、・・・・。

Aは、Cを備えてもよい。Cは、・・・・。

 Aは、Dを備えてもよい。Dは、・・・・

「A+B・・」の組み合わせが明細書等に記載されていない。「Aは、Dを備えてもよい。」とあくまで必須・メインとの関係で述べること。

図面には複数の特徴が組み合わされて記載されるのが一般的であるためここで効果をうたう。

*明細書等でA=a1、a2、B=b1、b2とされており、a1+b1の組み合わせがのみがある場合に、「A+B」とされているクレームを「a1+b2」と補正することもできない(シングリングアウト)


【必須の構成の別の例】

 Aは、Bと、Cと、を備える。Bは、・・・・。Cは、・・・。

【XXXY】任意の構成 他の要素は

 Aは、Dを備えてもよい。Dは、・・・・


裁判もみていきます。

以下に、審決取消訴訟
特に類似の特許なのにサポート要件違反の判断が異なった例を2件並べてお伝えします。
少し長いですが裁判官の判断が異なった内容をみてください。

まずは違反で無効となった

平成26年(行ケ)第10155号 審決取消請求事件 減塩醤油類 特願2004-122603号
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/206/086206_hanrei.pdf

【請求項1】
食塩濃度7~9w/w%,カリウム濃度1~3.7w/w%,窒素濃度1.9~2.2w/v%であり,かつ窒素/カリウムの重量比が0.44~1.62である減塩醤油。

(3) 審決について(平成24年6月6日に言い渡された当庁平成23年(行ケ)10254号事件判決の確定によって,既に確定した)
ア 審決は,カリウム濃度が上限値の3.7w/w%にある本件発明1に係る減塩醤油(実施例7,9及び11)の塩味の指標は5で,通常の醤油よりも強い
塩味であるから,当業者は,食塩濃度が7w/w%台の減塩醤油の場合には,カリウム濃度を本件発明1で特定される範囲の上限値近くにすることにより,減塩醤油
の塩味を強く感じさせることができると理解すると判断した。
しかしながら,本件明細書では,調味料や酸味料を添加しない状態で食塩濃度を9w/w%から下げた場合の塩味を何ら確認しておらず,食塩濃度が7w/w%の
場合の塩味がどの程度となるかに関する手がかりは全くないから,食塩濃度が7w/w%の場合にカリウム濃度を上限値近くにしたからといって,具体的な技術的裏
付けをもって,塩味が3以上となり,減塩醤油の塩味を強く感じさせることを理解できるとは認められない。
イ 審決は,「カリウム濃度」が塩味を付け,「窒素濃度」が塩味を増強し,苦みを低減させるという原理が本件明細書から読み取ることができ,食塩濃度が9
w/w%において観察された現象が,食塩濃度7w/w%で観察されないという合理的な理由はないと判断した。
しかしながら,上記原理だけから,食塩濃度を低下させた場合における具体的な塩味や苦みの程度を推測することはできないし,特定の味覚の強化,弱化が他の味
覚に影響を与えずに独立して感得されるという技術的知見を示す証拠も見当たらない。本件発明の課題が解決されたというためには,本件明細書において設定した,
塩味が3以上,苦みが3以下,総合評価が○以上という評価を達成しなければならないが,本件発明のうち食塩濃度が7.0w/w%の場合に,上記の評価を達成で
き課題が解決できることを,本件明細書の記載から認識することはできない。
被告の上記証拠をもって,サポート要件を充足するということはできない。
2 小括
以上によれば,取消事由2について判断するまでもなく,審決は違法なものとし
て取り消されるべきである。

当業者において,カリウム濃度の増加(1.1w/w%→3.7w/w%)による塩味の向上が,食塩濃度の減少(9.0w/w%
→7.0w/w%)による塩味の低下を補うに足りるものであることを認識するに足りる記載はないし,このことが技術常識であることを示す証拠も見当たらない。
そうすると,食塩濃度が9.0w/w%,カリウム濃度が下限値に近い1.1w/w%である実施例3(窒素濃度1.99w/v%,窒素/カリウムの重量比1.
62,塩味3,苦み1,総合評価○)において,食塩濃度を7.0w/w%に下げても,カリウム濃度を上限値の3.7w/w%まで増加させれば,塩味が3以上,
苦みは3以下となり,総合評価も○となるものと,推認することはできない。

食塩濃度が7w/w%まで低下した場合の塩味や苦みを推認するための技術的な根拠が,本件明細書に記載されておらず,また,どの程度になるかということについての技
術常識もない以上,【0009】の「7~9w/w%であることが好ましく」という一般的な記載のみをもって,食塩濃度の全範囲において発明の課題を解決できるこ
とについての技術的な裏付けある記載があると認めることはできない。
カリウム濃度を増加させれば塩味の強化が推測できるだけでは,本件発明の効果を奏することを明細書上記載したことにはならない。本件明細書に
は,調味料や酸味料を含まずに食塩濃度を9w/w%から減少させたときの塩味の評価については何ら示されていないし,食塩濃度が7w/w%の場合において,ど
の程度のカリウムを加えれば塩味の指標が3以上となり,かつ,苦みも3以下となるかということについて,予測する手がかりとなる記載も,また,それに関する技
術常識もないから,上限値のカリウム濃度は,2w/w%分の塩分濃度の減少を補うに足りるか,その場合の苦みはどうなるか不明というほかない。
したがって,被告の主張は,採用することができない。
,被告の主張は,食塩濃度と塩味評価(指標)との関係が正比例すること,塩味と苦みは相互に作用しないことを前提とするものであるところ,前記
(1)ウ(ウ)のとおり,塩味の官能評価の指標は,食塩濃度に正比例するように設定されていないし,各味覚が互いに干渉しないという技術常識を示す証拠も見当たらな
いから,被告の上記主張は,その前提において誤りがあり,採用できない。

平成28年10月19日判決言渡

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 清水 節


このようにサポート要件違反となりました。
逆に以下はサポート要件を満たすの例です。


平成23年(行ケ)第10254号 審決取消請求事件 減塩醤油類 特願2004-122603号
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/320/082320_hanrei.pdf

【裁判所の判断】
食塩濃度が本件発明で特定される範囲の下限値の7w/w%の減塩醤油の場合,カリウム濃度を本件発明で特定される範囲の上限値近く
にすることにより,塩味をより強く感じる減塩醤油とするものであることから,特許請求の範囲において特定された数値範囲の極限において発明の課題を解決できな
い場合があるとしても,本件発明がサポート要件を満たさないということは適切ではない
(5) 小括
以上のとおり,取消事由1(サポート要件に係る判断の誤り)は理由がない。

被告作成の試験結果報告書(乙8)によれば,食塩濃度7.0w/w%,カリウム濃度3.7w/w%の場合(試験品F),塩味の指標は3であって,
通常の醤油と比較して若干弱い程度の塩味が感じられる結果が示されており,食塩濃度が本件発明1の下限値である7w/w%付近で,カリウム濃度が本件発明1に
おいて特定された数値範囲の上限である3.7w/w%の減塩醤油は,本件発明1の課題が解決されている。
すなわち,本件発明1において食塩濃度が7w/w%台と本件発明が特定する食塩濃度の下限に近い場合であっても,塩化カリウムが食塩の塩味を代替する成分で
あるという技術常識に照らし,カリウム濃度を本件発明1が特定する数値範囲の上限付近とすることによって,本件発明1の課題を解決できると当業者が理解するこ
とができ,本件発明は,発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されているということができる。
・・・食塩濃度が7w/w%の場合に,カリウム濃度が本件発明1における上限値である3.7w/w%とした場合(試験品F)であっても,
食塩濃度が9w/w%の場合と同様に,苦味はわずかに感じる程度であって,苦味の低減という課題は解決されている(乙8)。
イ 本件発明3は本件発明1又は2と同一の発明であり,サポート要件を満たす。
本件発明では,食塩濃度,カリウム濃度,窒素濃度及び窒素/カリウム
の重量比を本件発明が特定する数値の範囲内とすることによって,カリウムを配合
することによる苦味に関する課題は解決されているので,本件発明の苦味等につい
ての課題に触れることなく判断したことは,本件発明のサポート要件の判断の結論
に影響を及ぼすものではない。

すなわち,本件発明1において食塩濃度が7w/w%台と本件発明が特定する食塩濃度の下限に近い場合であっても,塩化カリウムが食塩の塩味を代替する成分で
あるという技術常識に照らし,カリウム濃度を本件発明1が特定する数値範囲の限付近とすることによって,本件発明1の課題を解決できると当業者が理解するこ
とができ,本件発明は,発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されているということができる。

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣
裁判官 髙 部 眞 規 子
食塩濃度が7w/w%の場合に苦味はわずかに感じる程度であって,苦味の低減という課題は解決されている(乙8)

明細書の 発明が解決しようとする課題
特に食塩濃度の低下と塩味の両立という点で十分とはいえない。
本件発明の目的は,食塩濃度が低いにもかかわらず塩味のある減塩醤油類を提供
することにある(【0005】)。
本件発明の課題は,本件明細書の記載によれば,塩味がより強く感じられ,
味が良好であって,カリウム含量が増加した場合にも苦味が低減できる減塩醤油を
得ることであると認められる。


機械特許技術者なのに電気、ソフトウェア、意匠と分野は拡がり今では化学特許まで。
数値限定のサポートや実験データの必要性なども特有ですよね。
あまりの長文駄文失礼しました。


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