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記憶と思い出のちがいについて

会社から帰る電車の中で、不意に思い出したフレーズがあった。

「ゾンビみつき!腕前は確かだ!」

小学生のときのことである。たしか四年生のとき。
そのころ僕はスポーツ少年団という、学外のコーチが土日に学校に来て練習させてくれる、小学校の部活みたいなやつでバスケットボールをやっていた。
日記書くかバスケやるかコミックボンボンを読むかしかしてなかったときのことである。ゲームボーイとかもしてはいたが。

スポーツ少年団(以下、スポ少)のバスケ部にわきたみつき君という少年がいた。
僕はその当時、スポ少のキャプテンで、しかも試合で誰を使うかとかの采配まで任せてもらっていて(スラダンでいうと藤真だ)、わきたみつき君は背が大きいしよく頑張るので4クォーターずっとゴール下に置いて、シュートするやつの邪魔をさせて、リバウンドも取らせていて、守備の要として重宝していた。(おれは藤真だった)

みつきくんはみっくんとみんなから呼ばれていた。おっとりした性格で、スポーツはそんなに得意ではなかった。でも僕はみっくん以外をセンターに置くことは考えられなかった。それくらいゴール下の守備はうまかった。僕のチームに欠くことのできない存在、それがみっくんであった。

大きくて、気は優しくて、ゴール下の力持ち。頼りになる男。穏やかなる守護神。そんなみっくんが何故自分のことをゾンビと名乗ったのか。
それは今でもわからないがきっとみっくんは何かの漫画に影響されたに違いない。

前兆はあった。ある日突然、みっくんは自分のことを「カエルみつき」と言いはじめたのだ。
チームはとうぜんザワっとした。「なにそれ?」とかぐらいは言ったが、とりあえずその後もみっくんと呼ぶようにした。みんなそうした。

そしてそのカエルみつきから何週間かして、とうとうみっくんがあの名乗りをあげたのだ。今度はポーズ付きで、

「ゾンビみつき!腕前は確かだ!」

試合中よりも少し張ったくらいの声でそう言ったのだ。

もう、僕の(もしかしたら僕らの)人生の上半期で一番ぐらい笑った。

まず、「腕前は確かだ!」が完全にツボだった。その頃の僕らの気分に完全にフィットするキラーフレーズだった。
漫画で、初登場のキャラクターの横の小さい枠に書いてある解説みたいなのを、ポーズ→名乗り→から続けざまに自分で言ったのだ。それが面白くてしょうがなかった。
おれたちもみんな謎めいた新キャラクターとして漫画に華々しく登場して、「腕前は確かだ」って横に書かれたいと思ったことがあった。でも自分で言うのは恥ずかしい。みっくんはそれをやってのけたのだ。みっくんの気持ちが恥ずかしいくらいよくわかって、今でも思い出して少し変な汗をかいているぐらいだ。
原作・作画・主演、全部がおれの漫画だった。それが全部その5秒ぐらいで伝わってきた。

そして、「ゾンビみつき」というなんとも蠱惑的な名前に僕らは食いついた。「ねえなんでゾンビなの!?」「なにそれ!?なに!?」「ねえみっくん!なんでゾンビにしたの!?」「みっくん!ねえみっくん!」

小学校を卒業するまで、何かあるたびに僕らは「ゾンビみつき!」と叫んで笑いあった。みっくんはそのたびに顔を真っ赤にして、「やめてくれよ!」と言っていた。

記憶と思い出の違いについて、それはどうでもよくなったのですが、僕らの人生の上半期で一番ぐらい流行ったこれを、忘れていて、不意に思い出したからもう忘れないように書いた。

そしてこれは全世界に発信しなければならないと思い、ここに公開する。

#ゾンビ #思い出

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