古き良き職人の世界
2008年、師匠の工房のある小さな100mほどの裏通りには10数件の修復工房が立ち並んでいました。
ストラディバリウスを修復するバイオリン職人やナポレオンの妹のデスクを修復する職人、Pitti宮殿の額縁を作る職人等とんでもない所に来てしまったなと思った記憶があります。
フィレンツェは職人の町らしく、通り単位でのコミュニケーションがとても強い。
一つの通りにいろいろな職種の職人がいることも多いのでその通りにある工房の分業で仕事が完結してしまう事も多い。
言葉も技術もゼロからのスタートでしたが次第に何とかコミュニケーションも取れるようになってきて若い外国人ということで珍しかったこともあり
とても可愛がってもらいました。
キリストの父ヨセフは家具職人の聖人でもあり、その聖人の日にはそれぞれの通りで家具修復職人が集まって昼食会をする習慣もあります。
師匠からの連絡でこの通りの最年長であるLuigiさんが今月一杯で工房を閉めるので昼食会をしようということになり今日は近くのレストランで昼食。
Luigiさんは今日が誕生日で88歳。
フィレンツェの職人も高齢化が進んでいて、この通りの工房も残り数件となってしまいました。
武井咲さんがフィレンツェにいらした時もLuigiさんと師匠の工房、そして自分の工房も取材をしてもらいました。
この職人の世界に憧れて自分もやっと工房オープンから今年で10年経ちましたが60年、70年という職人歴の方々の話は重みが違います。
帰り際、みんな少し寂しそうな表情をしていたのがとても印象的でした。
こういった古き良き職人の世界が終わりつつあるのを日々感じる中、
ギリギリのタイミングでほんの少しでもその中にいることが出来たのは
本当に運が良く幸せな事だなと改めて感じた一日でした。
-Fin-