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“元フォント”の図鑑を作ってみた!

和文フリーフォントは沢山あります。ただ漢字入りのフォントをゼロから制作するのは困難を極めるでしょう。数千、あるいは数万種の文字をデザインする必要があるからです。
したがって、多くのフリーフォントの漢字部分は別のフォントを加工したものとなっています。元フォントの派生フォント、と言えるかもしれません。
この記事ではその「元フォント」を取り上げることにします。
フォントごとの書体見本PDFは各章にあります。また、終章で一括ダウンロード可能です。

掲載基準

1. 商用利用できる無料フォント
ライセンスは"#"を付したフォント以外、 SIL Open Font Licenseです。詳細は、この記事が分かりやすいです。

2. 標準的な和文角ゴシック
ポスター・スライド・書類等で使えるであろう和文角ゴシックに限定しました。日常見る漢字には対応していると思います。

3. フォントファミリー
つまり、太さにバリエーションがあるものです。

1. Noto Sans JP

概要

GoogleとAdobeがフォントメーカーと共同開発したフォント。「Noto Sans未収録の漢字に対応しているフォントは無い」と言えるくらい、多くの文字を収録しています。Adobeでは「源ノ角ゴシック」と呼ばれています。名前は違いますが、中身はほぼ同じです。
なお、書体見本では4種のウエイトしか取り上げていませんが、実際にはそれらの間に3種のウエイトがあり、計7ウエイトです。さらに、Adobe CCソフトを利用している場合は、下の動画のように、(ほぼ)無段階にウエイトを調整することができます(バリアブルフォント)。

Noto Sansは、Android端末のシステムフォントとなっていることが多いです。したがってAndroid端末でこの記事をご覧になっているなら、この文章のフォントがNoto Sansである可能性が「高い」です。

Noto Sans JP
ダウンロード:こちら(Google Fontsに遷移します)
派生フォント:源暎ゴシック、鉄瓶ゴシック、源真ゴシック、Mgen+ など

書体見本

掲載ウエイト:Thin, Regular, Bold, Black

2. LINE Seed JP

概要

LINEがFontworks、Fontrixと共同開発したコーポレートフォントです。2022年10月にリリースされました。

『LINE Seed JP』はベースとなる既存の日本語フォントが存在せず、ひらがな・カタカナ・漢字・数字・記号すべて合計すると、9,000字を超える日本語書体をすべて一からデザインしました。
これだけの量の日本語専用書体を一から開発・保有する例はあまりなく、日本の企業としてはかなり珍しい試みです。

LINE CREATIVE CENTERのnote記事より

ブランディングのためのフォントは(日本企業であっても)欧文しか制作しないのがベーシックでした。LINEでは既に制作していた「LINE Seed Sans」をベースに、日本語・韓国語・タイ語を追加したということです。
LINEのロゴのように全ての文字が丸みを帯びているのが特徴です(カドマル)。「優しい表情を見せる角ゴシック」だと私は思っています。
なお、「筑紫書体」を手がけるFontworks 藤田さんが監修しています。

モダンで高い視認性を持つLINE Seed JPは、プレゼンテーション資料などに活用しやすいのではないでしょうか。また、LINEはこのフォントを用いたフリー素材(店舗・施設用ポスター)も無料で配布しています。

LINE Seed JP
ダウンロード:こちら(オフィシャルページに遷移します)

書体見本

掲載ウエイト:Thin, Regular, Bold, ExtraBold

3. IBM Plex Sans JP

概要

2021年7月にIBMが公開したオープンソースフォントです。IBMがまず発表したのが、欧文フォント「IBM Plex」です。これは、Sans, Mono, Serif, Condensedを収録する、いわゆる「スーパーファミリー」です。そして、そのSansに日本語が対応したのがIBM Plex Sans JPというわけです。

「IBM Plexを社内でのみ使用することについては多くの議論がありました。その一方で、IBM Plexを、IBMが提供するすべてのエクスペリエンスの一部とするためには、オープンソースのフォントにする必要があると考えました。その結果、靴屋やコーヒーショップが、自分たちのアイデンティティーを伝える手段にIBMのフォントを用いることになれば、とても素晴らしいことです。その靴屋やコーヒーショップは、自分たちのアイデンティティーとIBMのアイデンティティーを結びつけているのです。IBM Plexを、自分たちのためだけに使っても、何の得にもなりませんからね」

IBMのブログ記事より

特徴はインクトラップが施されているということです。これは、「角の内側を削り込んで幅を細くし、印刷する際のインキのしみ出しを防止する」工夫です(Wikipedia)。といっても極端に、というわけではなく、きつい角度で交差している部分にのみ施されています。
また、この記事では4ウエイトしか取り上げていませんが、実際には8ウエイトもあります。

IBM Plex Sans
ダウンロード:こちら(Google Fontsに遷移します)
派生フォント:PlemolJP

書体見本

掲載ウエイト:Thin, Regular, Medium, Bold

4. M+ FONTS

概要

M+は「普段使いできる和文フォントファミリーを制作する」プロジェクトです。近年、Googleと連携してリニューアル版を公開しました(注)。
M+はスーパーファミリーとも言えます。通常の和文フォントファミリーが2種類あり、さらにプログラミングフォントファミリーがあります。


注:リニューアルにより、ファミリー構成が変化しています。以前は非常に複雑な構成でしたが、現在は非常に明瞭です。


ファミリーごとに紹介します。なお、プログラミングフォントは省略します。以下2つのフォントで異なるのは基本的にひらがな・カタカナの部分です。

M PLUS 1
直線的で、モダンな印象を与えます。Noto SansかLINE Seedで言ったら後者に近い感じです。ウエイト数は9種です。バリアブルフォント(無段階にウエイトを調整できる)にも対応しています。

M PLUS 1 Regular

M PLUS 2
曲線を多用したクラシックな印象を少し受けるフォントです。といっても、後に紹介するZEN角ゴシックほどではなく、逆にモダンな印象も受けます。Noto SansかLINE Seedで言えば前者に近い雰囲気です。こちらも9種のウエイト・バリアブルに対応しています。

M PLUS 2 Regular

M+ FONTS
ダウンロード:
M PLUS 1
M PLUS 2
M PLUS 1 Code
M PLUS Code Latin
(Google Fontsに遷移します。なお、それぞれのウエイト+バリアブルが同時にダウンロードされます。バリアブルが必要なければ、"static"フォルダに梱包されたファイルのみインストールすればよいと思います)
派生フォント:Mgen+、Rounded M+、Migフォント、やさしさゴシック、せのびゴシック、超極細ゴシック など

書体見本

M PLUS 1
掲載ウエイト:Thin, Regular, Bold, Black

M PLUS 2
掲載ウエイト:Thin, Regular, Bold, Black

5. ZEN角ゴシック

概要

有限会社エイワンの大平善道さんが制作したフォントで、近年ライセンスフリーとなりました。ZENシリーズには他に、丸ゴシック、明朝体などがあります。
さて、このZEN角ゴシックには2つの種類があります。それが、ZEN角ゴシック NewとZEN角ゴシックAntiqueです。2つのフォントで異なるのは基本的にひらがなとカタカナの部分です。それぞれ紹介します。

ZEN角ゴシック New
自然な形で、シンプルなデザインが特徴の角ゴシックです。遠くからでも見やすく、長文でも読みやすいフォントです。LINE Seed JPと同様に、ゲタ(例えば「日」の下のはみ出している部分)が一部省略されています。また、ひらがなは「クラシックに見えるが今まで見たことがない」新しいデザインです。私が特に好きなのは「を」の造形です。

ZEN角ゴシック New Regular

ZEN角ゴシック Antique
こちらは、言ってしまえば「クセ」のあるフォントです。本文に使用してもよいのですが、タイトルなど此処ぞという場面で使うと映えるフォントだと思っています。

ZEN角ゴシック Antique Regular

ZEN角ゴシック
ダウンロード:
ZEN角ゴシック New
ZEN角ゴシック Antique

(Google Fontsに遷移します)

書体見本

ZEN角ゴシック New
掲載ウエイト:Light, Regular, Bold, Black

ZEN角ゴシック Antique
掲載ウエイト:Light, Regular, Bold, Black

6. BIZ UDゴシック

概要

BIZ UDゴシックとは日本最大級のフォントベンダーであるモリサワのユニバーサルデザインフォントです。近年SIL Open Font Licenseとなったことが大きな注目を集めています。
ユニバーサルデザインフォント(UDフォント)とは、視認性・可読性が非常に高く、誰でも読めるように設計されたフォントのことです。例えば、上の見出し画像にある「ゴ」の濁点は大きくなっていることが分かります。
私は初めてこのフォントを見たとき、その読みやすさに感動したことを覚えています。このフォントは「ベーシック且つUD」という非常に使用場面の多いフォントだと思います。

Windows 10, 11 ユーザーであれば、デフォルトでこのフォントが収録されているので、ダウンロード不要で利用できます。
また、BIZ UDゴシックには"P"の付くものとそうでないものがあります。 "P"とはプロポーショナル(可変幅)を意味しています。すなわちBIZ UDPゴシックは文字によって文字幅が異なり、上手くトラッキングすれば綺麗に組版できます。ただし、文書によっては縦の位置を合わせるべきであるものも存在するので、そのような場合には無印を使用するべきでしょう(数字、表など)。

BIZ UDシリーズには明朝もあります。BIZ UDゴシック、BIZ UD明朝はどちらも2ウエイトでリリースされています。

BIZ UDゴシック
ダウンロード:
BIZ UDゴシック
BIZ UDPゴシック
(Google Fontsに遷移します)
派生フォント:UDEV Gothic など

書体見本

掲載ウエイト:Regular, Bold

#A. 游ゴシック体

概要

游ゴシック体は字游工房が開発し、Windows・Macにデフォルトでインストールされているフォントです(Macは手動インストールが必要な場合もあります)。商用利用可能です。ただし、オープンライセンスではないので、フォントを改変してフォントファイルを公開することはできません。
クラシックな印象も受けるフォントです。個人的にはBoldを大きく使うのが特にカッコいいと思っています。

紹介ページ:
http://www.jiyu-kobo.co.jp/library/ygf/

書体見本

掲載ウエイト:Medium, Bold

#B. ヒラギノ角ゴ

概要

ヒラギノ角ゴ(ヒラギノ角ゴシック)は、字游工房がデザインし、大日本スクリーン製造(後のSCREENホールディングス)が発売したフォントです。現在は、モリサワなどで販売されていますが、Macにはデフォルトでインストールされています。
言ってしまえば「中庸」でしょうか。モダンかつオーソドックスといったフォントで、大見出しで目立つし、本文でも読みやすいのが特徴です。Macの標準フォントであるということで、YouTubeのサムネイルで広く用いられています。また、iPhone、iPad、Macなど、Apple製品の日本語はほとんど全てがこのフォントですので、もしこの文章をApple製品で読んでいるのでしたら、そのフォントがヒラギノ角ゴです。

このフォントも先ほどの游ゴシック体と同様、商用利用は可能ですが、改変フォントを公開することはできません。

書体見本

掲載ウエイト:W3, W6

おわりに

紹介したフォントはどれも高品質で、「日常のデフォルトフォント」にできると思います。自分のフォントを選んで、自分の作成する資料等にそのフォントを用いるのは非常に楽しいです。ぜひ、ここで紹介した8つのフォント+その派生フォントから好みの角ゴシックを選んでみてはいかがでしょうか?

この記事で掲載したPDFをまとめました!↓


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