ウォーキング・デッドに学ぶ、読者を掴むシナリオ構成術
『ウォーキング・デッド』というゾンビドラマにドはまりした。仕事は山積みだが、別にすぐに仕上げなくてはいけないわけではない。いささかの罪悪感を感じながら一気見した。
2010年の放送開始から、2023年のシーズン11で幕を閉じるまでの長きにわたり、多くの視聴者を虜にしたこのドラマ。スピンオフ作品の公開が2024年以降も予定されており、まだまだこの物語から目が離せない。
部屋に籠もり、音が漏れぬようへッドフォンをして、見続ける。画面を通じて、ゾンビが蔓延る荒廃した世界に引き込まれていると、外は別世界。へッドフォンを外せばまるで違う時間が流れているように感じた。
そして僕はこのドラマを見る「言い訳」を発見した。娯楽のために見ているのではない。学びのために見ている。エンターテイメントではなく、別のメッセージを受け取っている。そう言い聞かせないと、睡眠時間を削って夜更けにゾンビドラマを見る正当性を保てない。僕はめちゃくちゃ真面目なのだ。
冗談はさておき『ウォーキング・デッド』が視聴者を一瞬でその世界観に引き付け、一度見始めたら止まらない仕掛けはほんとうに凄い。極めて強力だ。時間軸の順番を緻密に入れ替えたり、何を画面に映し、何を移さないか。その切り取り方だけで、視聴者をハラハラ、ドキドキさせている。そしてそのシナリオは、見る者に多様な感情を抱かせ、考えさせもする。
マーケターとして『ウォーキング・デッド』から学べることは大きい。セールスライティングのテクニック、WEBサイトの構成、メルマガやLINE配信のヒント。まさに個人起業家にとって、宝の山だった。
中でも強力な3つのテクニックを共有しよう。
クリフハンガー、オープンループ、ティザー+4幕構成。この3つだ。これらの演出テクニックは、それに気づくかどうかの違いだけでもセールス文書を次のレベルへと押し上げる力を持っている。しかも実に応用が効く。
クリフハンガーという手法は、最も鬼気迫る場面や、盛り上がる場面で突然終わらせ、ユーザーの想像をかきたてる。気になって仕方なくさせる。ユーザーの大半が抱く感情を、はさみでブチッと切るようなこともする。この手法は、1910年代から1920年代にかけての映画で主人公が崖からぶら下がるシーンで終わることが多かったことに由来する。「その後、どうなるんだ?」と思わせるアメリカ映画の手法だ。
セールスライティングにおいても、この「クリフハンガー」は、読者の注意を引きつけ、次への期待感を高めるために効果的だ。『ウォーキング・デッド』の各エピソードは、まさにこの手法を多用し、視聴者を物語に引き込んでいく。
オープンループ、という手法についてはご存じだろうか。物語に「なぞかけ」をしておきながら、すぐには答えを示さずに別の情報を伝え、ユーザーの興味を引き続ける。「じらし」のテクニックの一種だ。ドラマのように1時間集中してみてもらいたいときにこのテクニックはうってつけだろう。
これがどのようにビジネスに応用できるか、ということだが、僕はあるセールス文書で下記のように活用したことがある。
これがオープンループ・テクニックだ。3つの秘密に興味を持ったユーザーは、自己紹介を読まざるを得ない。このテクニックは、複数回にわたって情報を発信するメルマガやステップメールにも有効といえる。
それから、ティザー+4幕構成は、物語の起伏を生み出し、視聴者を最後まで飽きさせない構成法だ。『ウォーキング・デッド』はこの構成を見事に使いこなしている。じゃないと、12年間もの長きにわたり、視聴者の心を掴み続けることはできなかったと思う。
手法自体は、新しいものではない。古くから伝わる手法で、瞬く間に読者の興味を捉え心の奥深くへと誘い込む、いわば麻薬的な構成法だ。冒頭に位置する「ティザー」は、静かな湖面に投げ入れられた小石のようなものといえるだろう。その一瞬の波紋が、これから展開される物語への期待と好奇心をかき立てる。
そして、物語は「起承転結」の4幕に分かれて展開される。まず「起」では、物語の背景が静かに描かれる。冬の朝のように、ゆっくりと日が昇り始める時間。読者は登場人物や設定に馴染み始め、物語の世界に足を踏み入れる。
次に「承」。ここでは物語が徐々に動き出し、登場人物たちの関係や物語の謎が深まっていく。『ウォーキング・デッド』の中では、日常と非日常。現在と過去、人物の視点が交錯するなど、視聴者は往々にして物語の世界に引き込まれていく。
「転」の段階では、物語に予期せぬ転機が訪れる。まるで遠くの雷鳴のように、静寂の中で予告なく打ち鳴らされる。登場人物たちは運命の岐路に立たされ、ユーザーもまた、その選択に息を呑む。
最後に「結」。物語はクライマックスへと向かい、すべての謎が解き明かされる。しかし『ウォーキング・デッド』では、終わりとは新たな始まりの予感を含み、視聴者に深い余韻を残すことが多い。冬の終わりに春を予感させる雪解けのように連続した営みと、わずかな不安を残す。
夜更けになり、画面から目を離し、窓の外を見る。多くの人が寝入っている静かな夜に『ウォーキング・デッド』から学んだことを思い返す。物語を紡ぐこと、人を引き付けること、そして何より、希望を持ち続けること。これらはすべて、僕たちの生きる上で忘れてはならない大切なことだ。
そして、それは僕たちがセールスライティングやシナリオ作成に取り組む上で、忘れてはならない教訓を与えてくれる。物語はただ語るだけではなく、聞き手、見る人の心に何かを残さなければならない。『ウォーキング・デッド』が僕たちに示してくれたのは、ただのサバイバルドラマの枠を超えた、深い人間ドラマの力だ。
物語の中で、人々が直面する困難、恐怖、絶望だけではなく、人間としての強さ、希望、愛情といった普遍的なテーマを描き出す。それは、ウェブサイトやセールス文書、メールマガジンを通じて、僕たちが伝えようとしているメッセージにも通じるものがある。僕たちは、読者や視聴者にただ情報を提供するだけではなく、彼らの心に響く何かを伝えなければならない。ほんの少しでいい。それが「提供価値」だ。
『ウォーキング・デッド』から学んだクリフハンガーやオープンループ、そしてティザー+4幕構成といったテクニックは、読者を物語に引き込むための強力な武器だ。しかし、それらを駆使する上で最も大切なのは、提供する価値やメッセージの核となる部分をしっかりと持つこと。そして、それを読者に伝えるための架け橋として、これらのテクニックを用いるのだ。
これらの教訓をどう活かしていくか、それを考えるだけで、ワクワクしてくる。今、構築中のWEBサイトやクライアントへのコンサルティング。広告運用。戦略のシナリオ設計。『ウォーキング・デッド』から得た学びを実際にビジネスに活用する瞬間が楽しみでならない。
そして、僕は改めて思う。物語を通じて人を動かすことの本質は、情報を伝えることではなく、心を動かすことにあると。『ウォーキング・デッド』の登場人物たちが見せた人間の強さ、弱さ、そして希望を、自分たちの物語にも反映させることができれば、それはユーザーにとって、顧客にとって忘れられない体験となるだろう。
この物語のように、僕たちの生活の中にも、予期せぬ困難や試練が訪れることがある。しかし、どんな状況でも人は希望を見出し、前に進む力を持っている。そして、それを物語る力が、僕たちをより強く、生き生きとさせるのだ。