【歌詞解釈】空も飛べるはず【スピッツ】

はじめに

この記事を書く動機は、普段僕が曲を聴きながら考えていることを何かしらの形で発散したいと思ったからだ。「厳密に、徹底的に、考察をしてやろう」なんて、堅苦しいことは思っていないので、読者のみなさんは意見・感想あれば気軽にコメントをしていただきたい。では、次の項からさっそく僕の歌詞解釈を説明していきたいと思う。

歌詞解釈①

① 幼い微熱を下げられないまま 神様の影を恐れて

まず最初の一文だが、「幼い微熱を下げられないまま」というのは、若さゆえの攻撃性(幼稚さともいえる)を自分の中で消化しきれていない状態を表していると思う。なお、曲全体からも感じ取れることだが、この時点でこの歌の主人公の年齢はさほど高くない、おおよそ思春期の年齢とみて間違いないだろう。
次に、「神様の影を恐れて」について。とある有名な芸能人さんがここの歌詞について、「大きなものの影響下にあって、自分が望んでいる事と違う事が起こる怖さ」を表しているとおっしゃっていたが、僕は少し違う解釈をしている。僕は"神様"という言葉をわざわざ使うところにひっかかった。すなわち、「大きなもの」の代表として”神様”を用いることに違和感を感じてしまうのだ。これが外国ならばまだしも、これは日本人が書いた日本語の詞だ。"神様"が恐れるべきものの代名詞というのは、どこか一般の感覚に対しズレを感じてしまう。
まず、僕の出した結論はこうだ。「"僕"は自分自身をクズな人間だと思っており、そんなクズな"僕"にバチが当たるのではないかと恐れている。」
これはつまり、"神様"は何か比喩ではなく、まさに神様そのものとして捉えているということだ。ここで注目してほしいのは、"僕"が恐れているのは、「神様」ではなく「神様の影」なのだ。これの表現するところは、"僕"が神様に見つかりたくないと思っているということだ。なぜならば、自身のことをクズ人間だと思っているから。クズな"僕"はこそこそとバチが当たるのを恐れながら生きている。もしここの歌詞が「神様を恐れて」であれば、先に述べたような、GODによって統治される世界観が強まると思う。作者はこれを避けるためにも「影」という言葉を採用したのではないかと思われる。

歌詞解釈②

② 隠したナイフが似合わない僕を おどけた歌でなぐさめた

「隠したナイフが似合わない僕を」について、"隠したナイフ"というのは周りに知られていない自身の信念のようなものだと思う。ナイフというワードから攻撃性を連想することも可能だが、僕が思うに、このナイフという言葉はいわば、かっこいい物(情熱ある信念)の比喩だと思う。攻撃性ではなく。こう考える理由は2つある。1つは、"僕”が自信で似合わないと考えていること。もう1つは、”僕”は「幼い微熱」(=攻撃性)を下げようとしていること。すなわち、攻撃性は幼稚なものだと考えているということ。
もし、ナイフが攻撃性を示すのだとすれば、”僕”はそれが幼稚なものだと思っているので似合わないなどとは言わない。したがって、「隠したナイフ」は「幼い微熱」とは対照的に、自分自身に似合ってほしい、そんなもの(僕は情熱的な信念だと思っている)のはずだ。そして、自分で似合わないと言ってしまうのは、自信の無さの表れだろう。ここまでで、だいぶ主人公がどんな人物なのかが見えてきた。まとめると、「幼稚なフラストレーションをくすぶらせていて、自分自身をクズだと思いながらも、神様の罰を恐れるくらいにはクズになりきれない、自信の持てない思春期の男」といったところだろうか。
次に、「おどけた歌でなぐさめた」について。"僕"をなぐさめたとあるので、慰められたのは僕で確定だが、では、慰めたのは誰なのか。これは後ろの歌詞になってしまうが、十中八九、「君と出会った奇跡が この胸にあふれてる」の"君"であろう。しかし、”おどけた歌”でなぐさめているところを見ると、この"君"も"僕"と同様に、自信が持てない人間のように思う。またもや後ろの歌詞になるが、この2人はくっつくことになる。おそらく、この自信のない"君"は主人公と同年代で、自信が持てない思春期どうし、わかりあえる部分が多かったのだろう。

歌詞解釈③

③ 色褪せながら ひび割れながら 輝くすべを求めて

③では、自信の持てない思春期の男である主人公が、困難に苦しみながらも、成長しようとする様子が書かれている。
部分別で見ていくと、「ひび割れながら 輝くすべを求めて」というのはまさしく、”困難に苦しみながらも、成長しようとする様子”である。
では「色褪せながら」とは何なのか。この部分ははっきりと自信を持てないが、僕の解釈では、色褪せるのは「純真さ」である。すなわち、クズになりきれないような可愛らしい純真さは、成長を模索する中で失われていってしまった。しかし、一方でこの「純真さ」の色褪せというのは、「幼い微熱」を下げることにつながったのかもしれない。

歌詞解釈④

④ 君と出会った奇跡が この胸にあふれてる
きっと今は自由に空も飛べるはず

ストレートな表現の部分なので、あまりここは説明する必要はないかもしれない。
「君と出会った奇跡が この胸にあふれてる」は"君"と出会えたことの喜びを、少し仰々しいが、ゆえに若さを感じる"奇跡"という言葉で表現している。「きっと今は自由に空も飛べるはず」は、自信の無かった"僕"が"君"と出会い、成長したことで、広がる世界・社会(空)においてでさえ、前向きにやっていけるはずと思えるくらい自信を身に付けたことを表している。

歌詞解釈⑤

⑤ 夢を濡らした涙が 海原へ流れたら
ずっとそばで笑っていてほしい

「夢を濡らした涙が」というのは、将来の夢に対する過程で苦労により流す涙ということでいいと思う。問題は次に続く「海原へ流れたら」。この海原というのは一体何を表しているのか。そのあとに「ずっとそばで笑っていてほしい」と来るわけなので、僕はこれを「夢を叶えたら」という意味だと解釈する。まず、海原へ流れるものといえば、川。降り注いだ雨(涙)が時間をかけて海へ流れることにイメージを重ねて書いたのではないかと推測した。ちなみに、日本地下水学会のサイトによると、雨が降ってから海へ流れるまでには、年単位の時間を要するようだ。(参考 日本地下水学会)このことからも、涙が海原へ流れるというのは、夢を叶えるということなのではないのかと思う。
そして、そう解釈すると、「ずっとそばで笑っていてほしい」というのはプロポーズなのではないだろうか。必ず自身の夢を叶えるから、そうなった暁には僕と結婚してほしい、という意味で。これは少し夢見がちというか、あまり相手のことを考えられてないのではないかというセリフだが、君と出会った喜びを奇跡と表現するくらいには若いのだから、こういったセリフを言ってもおかしくはないだろう。

歌詞解釈⑥

⑥ 切り札にしてた見えすいた嘘は 満月の夜にやぶいた

この部分の解釈を考える際に、着目したのは「満月の夜」という言葉だ。なぜ満月の夜なのか。これを考え、僕は1つの結論を出した。すなわち、"狼男"だ。いきなりこれを言うと、「満月だから狼男というのは安直だろう」と思われるかもしれないが、僕はこの説に少しばかりの説得力を持たせることができる。僕がこの説を支持する理由は2つある。1つは前半の「切り札にしてた見えすいた嘘は」との繋がり。もう1つは、作詞者草野さんの"動物(アニマル)”に対するイメージ。まず前者から説明しよう。僕は、「満月の夜」から狼男の説を考えた後に、前半の歌詞を考え、1つの共通項を見出した。それは”狼”。すなわち、見え透いた嘘をつくのは、"オオカミ少年"。「切り札にしてた」ということから、僕は最初、この嘘は1回も"君"に見せていない、奥の手なのかと思ったのだが、どうやら"オオカミ少年"となれば、既に何回もついていて、ゆえに見透かされてる嘘のようだ。そして、"僕"はこの嘘が見透かされているとうすうす気づいておきながら、気づかないフリをしてくれる"君"に甘え、"切り札"として使っていたのではないだろうか。その切り札を自分で破いたのだから、「"君"に対して誠実であろう」という決心がうかがえる。
次に、作詞者草野さんの"動物(アニマル)”に対するイメージについて説明する。まず、草野さんは、"動物(アニマル)"に対して、人間の本能(もっといえば、性的な衝動)のイメージを持っている。根拠としては、いつのライブ映像だったか忘れてしまったが(知っている方がいたら教えていただきたい)たしか、「バニーガール」を歌う前のMCで、「夏の夜は悶々とする。自分の"アニマル"な部分が残ってると思うとうれしい。(大意)」という事をおっしゃっていたので、草野さんが"動物(アニマル)"に対して「本能」のイメージを持っているのはまず間違いない。これを前提とすれば、「満月の夜」というのは狼男が狼(獣、動物)になる時、すなわち、"僕"と"君"が交わる時(おそらく初めて?)ではないかと思う。おそらく、初体験を経て"君"を大切にしようという思いが強まったことで、切り札を破る決心をしたのではないかと思う。
以上で、「満月の夜」から"狼男"へと繋がる説明は終わりだが、少しでも僕の説に納得いただけただろうか。「満月の夜」→狼男、「見え透いた嘘」→オオカミ少年というのは、個人的にかなりハマっている解釈だと思うのだが、この⑥は抽象度が高いので、他に推測があればぜひコメントをお寄せいただきたい。

歌詞解釈⑦

⑦ はかなく揺れる 髪のにおいで 深い眠りから覚めて

⑦は⑥と同じようなことを言っていると思う。おそらく⑦は⑥の「満月の夜」と同じ時だ。「はかなく揺れる 髪のにおいで」というのは当然、"君"の髪の揺れ・においのことで、「深い眠りから覚めて」というのは、⑥で述べた通り、"君"への不誠実さからの目覚めだろう。
このことから、歌の中では⑥→⑦という順序だが、これは倒置的に書かれていて、本来は⑦→⑥という順番なのではないかと考える。すなわち、「はかなく揺れる 髪のにおいで 深い眠りから覚めて 切り札にしてた見えすいた嘘は 満月の夜にやぶいた」という方がしっくりくると思う。

歌詞解釈⑧

⑧君と出会った奇跡が この胸にあふれてる
きっと今は自由に空も飛べるはず
ゴミできらめく世界が 僕たちを拒んでも
ずっとそばで笑っていてほしい

前半は④と同じなので省略。後半、「ゴミできらめく世界が 僕たちを拒んでも ずっとそばで笑っていてほしい」は、もし仮に世界が僕たちにとって素晴らしいものでなくとも、一緒にいようという主旨で、これは読み取りやすいと思うが、僕が注目したいのはこの"僕"の態度だ。この歌は常に"僕"目線で描かれていて、"君"の気持ちに内情などについては全くでてこない。それに、"僕"は不誠実な嘘をつき続けていたわけだ。そんな人間に"君"はまだ愛想を尽かさないでいてくれてるのだろうか。"僕"は「僕たちを拒んでも」などと、一蓮托生のような言い方をしているが、こういう気持ちになっているのは"僕"だけではないのか。こういった相手の気持ちを考えていなさそうな"僕"の態度がかなり気になる。どうしてもこの2人が共に歩んでいく未来が想像できない。

歌詞解釈⑨

⑨君と出会った奇跡が この胸にあふれてる
きっと今は自由に空も飛べるはず
夢を濡らした涙が 海原へ流れたら
ずっとそばで笑っていてほしい

④・⑤と歌詞自体は同じだが、④・⑤とは少し受け取り方が変わってくる。つまり、不誠実な嘘をつくのをやめ、誠実であろうと決心したのに、まだ「夢を濡らした涙が 海原へ流れたら」などと言っているのかということだ。本当に"僕"は"君"を幸せにしようという気持ちがあるのか。やはり、この2人は長くは続かないだろうと思う。

最後に

この「空も飛べるはず」は、青春のワンシーンを切り取ったような歌だと思う。⑧・⑨で述べたが、2人の先行きは怪しい。しかし、破局という形になっても、これは完全な不幸というわけではないだろう。きっと身勝手な"僕"だけでなく、その身勝手さを放置していた"君"にも落ち度がある。お互いに未熟であるがゆえに、起こるべくして起こったようなものだ。こうした他人との関係を踏んで、人は学習していくのだから、こうした体験は人生の登竜門の1つなのかもしれない。

ここまで読んでいただきありがとうございます。こんなに書く気はなかったのですが、気づけば5000字を超えてしまいました。ぜひ、みなさんのご意見・ご感想、お待ちしております。

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