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「動物園の工事ってどんなふうに進められているの?」

全国各地の動物園で新しい飼育施設の建設やリニューアル工事が行われていますが、工事中の動物たちの様子はあまり発信されないものです。イベントでお会いしたファンの方や、取材に来てくださったマスメディアの方からも、「工事中の動物たちはどこにいるのですか?」「他の動物園で飼育してもらっているのですか?」といったご質問をいただくことが多々あります。そこで、今回は工事中の動物たちがどのように過ごしているのか、動物園の工事がどのように進められているのかについて少しだけ裏側をご紹介します。

まず、リニューアル工事にもいろいろな形があります。
新しい獣舎を建てる場合、古い獣舎と別の場所に建てるのであれば、新しい獣舎ができるまで古い獣舎で飼育することができるというのはイメージがしやすいかと思います。しかし、動物園の敷地には限りがありますし、動物園ごとに展示や動物の配置にはコンセプトがありますので、コンセプトに沿ったゾーニングをするためにはどこにどの動物の獣舎を作ってもかまわないというわけではありません。

古い獣舎の建っている場所に新しい獣舎を建てたり、建て替えはせずに、よりその動物種にとって良い飼育環境にするために改修工事をするというケースも少なくありません。そのような場合には、仮の獣舎を建設して一時的にその場所で飼育をしたり、他の動物の空いている寝室を間借りしたり、新しい土地に新設する獣舎を先に建設して引越しを済ませ、空き家になった古い獣舎に別の動物を一時的に飼育してローテーションしながら工事を進めたりというようなことをします。

仮獣舎の建設にも多額の費用がかかりますし、工事終了後に使用用途が無ければ解体費用もかかってしまいますので、ZOOMOの場合は移動が難しい大型動物を除いて後者の方法で工事が進められています。

例えば、ホンドテンとハクビシンの獣舎の改修工事の際には、空きのある獣舎に一時的にお引越しをしてもらい工事に着手しましたが、工事終了後はすぐに元の獣舎に戻すのではなく、次に工事の始まるホンドギツネとホンドタヌキを改修後のテン・ハクビシン舎に引越しさせて、タヌキ・キツネ舎の改修工事が進められています。

(※バックヤードにある空き獣舎で過ごすホンドテン)
(※一部ガラス展示に改修されたハクビシン舎で暮らすホンドタヌキ)

その他にも、ニホンリスや鳥類はバックヤードにある繁殖用の獣舎などに一時的に避難をしました。

(※ニホンリスのお引越し後、ニホンリス舎の工事を行っているときの様子)
(※お引越しをするワライカワセミ)
(※改修後の鳥類舎)

ニホンジカはこれまでのニホンジカ舎の向かい側に新たな獣舎と運動場が建設中です。完成後にニホンジカたちが引越しを済ませたら、旧ニホンジカ舎は土の消毒や一部改修などを行ったのちにニホンカモシカの展示へと変わります。

(※建設中の新ニホンジカ舎と運動場)

“移動の難しい大型動物を除いて”というお話をしましたが、例えばアフリカゾウやキリンはそう簡単にお引越しもできませんし、仮獣舎を作ることも難しいため、大型の重機が入る時など大きなストレスがかかったり、驚いてケガをする可能性がある場合や外壁塗装などのやむを得ない場合には、しばらく運動場には出ずに屋内で過ごしてもらうようにしたり、屋内と屋外を出入り自由にして逃げ込める場所を用意してあげるなどして安全に工事が進められています。
また、ツキノワグマやライオンなどの獣舎も運動場内にテラスや擬木、隠れ場所などが新設される大掛かりな工事が行われているため、工事中は屋内で過ごしてもらっています。(工事は順々に進められていますので、休園期間中ずっと屋内で過ごしているということではありませんのでご心配なく。)

(※工事が進むニホンツキノワグマ舎)
(※ガラス張りのテラスとライオンの隠れ場所が作られている途中のライオン舎)
(※ゾウテラスの工事の合間に運動場に出るアフリカゾウの“マオ”)


(※運動場改修中の為、日中は仮パドックで過ごすポニーたち)

リニューアル工事をするにあたって、たくさんの工事車両や重機などが往来することや工事の騒音などが飼育動物たちに与える影響は、動物種や個体の性質によって大きく異なることから、日々の小さな変化を見逃さぬようこれまで以上に細心の注意を払って飼育管理に努めていますが、飼育スタッフが想像していた以上に動物たちの適応力が高く、環境変化にも短期間で慣れ、穏やかに過ごしてくれています。

また、室内で過ごす時間が増加することによるストレスなどで常同行動等の異常行動が増加することを防ぐために、安全を十分に確認した上で室内にも遊具を設置したり、採食時間を延ばすことで退屈な時間を減らして野生での行動レパートリーと時間配分に近づけるためにフィーダーや自動給餌機を活用した環境エンリッチメントなどにも積極的に取り組んでいます。

これまでもnoteの記事の中で何度も書いてきましたが、飼育動物の状態を評価したり飼育環境を改善する際に重要なことは、動物たちの状態やエンリッチメントの効果を科学的に評価し、実践して満足するのではなく改善を繰り返すということです。
ZOOMOが再生事業計画の中でもキーワードとして掲げている「動物福祉」とは、“動物の心身の状態”のことを指します。「人が動物に対して何をしたか」「人が動物の状態をどう思うか」といった人間側の主観ではなく、「動物の状態がどうであるか」「動物の状態がどのように変化したか」というように動物を主体としてその状態を科学的に評価し、動物福祉の向上を目指して取り組むことが大切です。

リニューアル工事にあたって、工事による動物への影響を正しく理解し飼育環境の改善につなげるために、工事がアフリカゾウやキリンの行動に与える影響と、夜間から明け方の採食時間の増加と常同行動などの異常行動の削減を目的に設置している自動給餌機の効果について、岩手大学動物行動学研究室にご協力いただいて調査を行っているほか、新しい飼育施設に変わることによる動物への影響についてもニホンザルとニホンジカで調査を行っています。
飼育技術の向上とより良い飼育環境を実現するためには飼育動物の調査研究が必要不可欠ですが、飼育スタッフだけで日々の飼育業務を行いながら十分な調査研究を行うことはとても大変なことです。ZOOMOでは今後も研究機関などと連携をしながら動物たちの心身の健康を守るために努めていきます。

さて、今回は動物園の工事がどのように進められているのか、その中で動物たちはどのように過ごしているのか、飼育スタッフはどのようなことを考え動物たちのためにどのようなことに取り組んでいるのか、というお話をしました。日頃のSNSでの発信だけでは伝えきれない動物園の取組みや職員の思いを少しだけ知ってもらえたのではないかと思います。

さて次回は「リニューアル後のZOOMOを語る」シリーズに戻り、草原ゾーン~牧場エリアについてご紹介したいと思います。お楽しみに。

企画営業広報 荒井