映画『ジャングル・クルーズ』(2021)をめぐるアレコレ
2021年のディズニー映画『ジャングル・クルーズ』を観た。
ジャングルクルーズといえば生井英考『ジャングル・クルーズにうってつけの日――ヴェトナム戦争の文化とイメージ』が真っ先に思い浮かぶのだが、本作はもちろんヴェトナム戦争とも攻殻機動隊とも関係もない、ディズニーアトラクションを題材にした真っ当な秘境冒険ものの映画である。
ジャングルの奥地に咲く不老不死を与えるという幻の花をめぐる大冒険というとまるきり『アナコンダ2』なのだが、20世紀初頭という過去を舞台にしながら倫理観を現代にアップデートし、そこにたっぷりの冒険とファンタジーと悪党の無惨な死を散りばめるという実にディズニーらしい作りをしてるため、隅から隅まで王道のディズニーを堪能できる快作だ。
主人公である〈パンツ〉こと植物学者リリー・ホートンのキャラ造形は、おそらく『ジュラシック・パーク』のメインキャラである古植物学者エリー・サトラーをふまえてのものだろう。
こちらの記事では『ジュラシック・パーク』がフェミニズムに与えた影響について詳しく説明されているので読んでほしい。僕なんて最近までメアリー・アニングも知らなかったほど不勉強なので、女性が活躍する恐竜ものというと草野原々『大絶滅恐竜タイムウォーズ』くらいしか出てこない。なのでこういう広い視野を得ることは大切だ。
ところで映画の舞台となった1916年の英国といえば、ハガードなどの秘境冒険小説の大ブームが起きてた頃である。映画と同じくアマゾン奥地を舞台に「水曜どうでしょう ジャングル・リベンジ」よろしくデブのヒゲに率いられた男四人組が冒険を繰り広げる古典的名作、コナン・ドイルの『失われた世界』が発表されたのが4年前の1912年だ。
『ジャングル・クルーズ』では同性愛者の男性キャラクター(マクレガー・ホートン)が匂わせ程度に登場するが、実は『失われた世界』の準主人公であるジョン・ロクストン卿のモデルとなったといわれる実在の冒険家、ロジャー・ケースメント卿も英語版ウィキペディアによると同性愛者だったそうだ。
コンゴやブラジルで原住民の虐待を調査して多くの命を救い英国より騎士の称号を授かったもののアイルランドのイースター蜂起に関わったとして逮捕、調査の際に日記から同性愛者であることが発覚しそれが決定打となり死刑判決、コナン・ドイルも署名した死刑執行延期の嘆願書も虚しくロンドンで絞首刑となるという、波瀾万丈すぎる人生を送った人物だ。こういう史実があると、マクレガー君のこの先が心配になってしまう。なんとか歴史改変してアラン・チューリングごと救われてほしいものだが……。
それはそれとして、資料によれば映画のようにアマゾンの秘境で幻の花を追い求める英国人冒険家が昔は数多く実在したそうである。山田篤美『黄金郷(エルドラド)伝説 スペインとイギリスの探検帝国主義』(中公新書)には当時の熱狂が詳しく記されているので引用する。
なんというか、多くの絶滅動物の逸話と同じく人類のゴミクズっぷりが伺い知れる話である。同書はこういったブリカスエピソードが事欠かないので是非一読されたし。
そんな大英帝国が南米での活動の拠点にしたのが英領ギアナ、現在のガイアナ共和国なのだが、長らく南米の最貧国だった同国は最近になって突然石油が湧き出たもんだからウッハウハなのだそうである。そんなマンガみたいな展開あるんだ。
そんなこんなでジャングル・クルーズに対する興味はまだまだ尽きないのである。