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HEN OF THE WOODS

〈あまったじかんでなにしよう/あっそれ/まいたけまいたけぐるぐるぐるぐる/まいたけまいたけぐるぐるぐる……〉

 2024年のインターネット空間を席巻した「まいたけダンス」。VTuberの儒烏風亭らでんが生み出したこの愛らしい曲調と振り付けは、若い世代を中心に爆発的に人気が広がっていった。ガジェット通信による『ネット流行語大賞2024』で第1位に輝き、さらにはベネッセの『小学生の流行語ランキング2024』でも「まいたけまいたけぐるぐるぐるぐる」として4位にランクインするなど、その影響力は留まるところを知らない。
 しかし、この現象は単なる一過性のブームではない。実は人類とキノコ、そしてダンスの関係は、はるか太古にまで遡る深い物語を持っているのだ。
 そもそも舞茸という名称自体が、すでにダンスとの深い結びつきを示唆している。伝承によれば、人々が舞茸を発見した際の喜びのあまり、思わず踊り出してしまったことにその名が由来するという。この伝承の由来は平安時代に編纂された『今昔物語集』の「尼共、入山食舞茸語」で、そこには舞茸を口にした人々が「互に舞ひつづけて笑いひける」様子が描かれている。
 そしてキノコとダンスの関係は、さらに昔にまで遡れる。北アフリカのアルジェリアに位置するタッシリ・ナジェールで発見された壁画には、紀元前9000年から7000年頃の人々とキノコの不思議な関係性が描かれている。この壁画には、キノコと共に踊る人々の姿が残されており、ジョルジョ・サモリーニやテレンス・マッケナといったサイケデリック研究の第一人者たちは、この証拠を基に大胆な仮説を展開する。彼らによれば、初期人類は幻覚性キノコを摂取することで、現代の我々が持つような意識構造を形成していったという。
 興味深いことに、「あまったじかん」とキノコという組み合わせは、SF文学の傑作『アルファ系衛星の氏族たち』(フィリップ・K・ディック著)にも登場する。本作には、テレパス能力を持つガニメデ星の粘菌「クラム」と、5分間の時間巻き戻し能力を持つ超能力者が登場する。さらに本作は、Amazonプライムビデオでのドラマ化が予定されているという。PKDのこの作品が再び注目されてるのと同時にまいたけダンスが流行したのは、単なる偶然なのだろうか。
 もし人類の意識が、太古の昔、幻覚キノコとの出会いとそれに伴うダンスによって進化を遂げたのだとすれば、現代における「まいたけダンス」の爆発的な流行には、より深い意味が隠されているのかもしれない。このシンプルながらも魅力的な振り付けは、私たちの意識に何らかの変革をもたらす可能性を秘めているのではないだろうか。
 まいたけダンスは、単なる流行を超えて、人類の意識進化の新たな章を開く鍵となるかもしれない。

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