ビッグ・ブラックドッグ・シンドローム

　数年前に差別的な発言をした咎で、職を失った奴がいました。２回くらい会ったかもという程度の知り合いです。後に彼は、「あの時、同業者は誰も自分の味方してくれなかった。この業界は異常だ。ひどい」という意味のことをのたまっていました。実際、彼の味方についたのは、彼同様極端に個性的でホモソーシャルなお仲間たちと、いわゆる弱者男性だとか表現の自由戦士だとかいわれる人々だったと記憶しています。私の周囲でも「あの人、やっちゃったね〜（笑）」みたいな反応で、積極的に彼を擁護しようとする人は少ない印象でした。この業界が正常だろうと異常だろうと（異常ではあると思います）、お前の味方をするメリットはまったくと言っていいほどないもんね。野次馬として事態に興味はあるけど自分に累が及ぶのは勘弁してほしいって人も多いんだろうな。当時の私は、「なんかネットで炎上している人がわりと身近にいるらしいが、ダサい奴を追いかけるのはもっとダサい」と逆張りし、騒動を無視していました。今思うともったいないことをしました。詳しい事情をよく知らないであろう部外者や非関係者の同情と団結（笑）によってまんまと職を奪われた奴がいるにも関わらず、全員がダンマリを決め込むのはこの界隈の不健全なところを本当によく表していると思います。いじめられっ子を前に沈黙を保つのは、いじめっ子に加担していると思われても仕方ないのかな、とは思います。

　だからといってなんで自分に何の利益もないのに、今まで積み上げようとしてきたささやかな業績を捨て、自分の過去の発言やネット魚拓に怯えながら、わけのわからんやつに加担せにゃならんのだろうか。潰された表現の自由戦士を可哀想だと思う気持ちがないでもないが、だからといってそこまでお前に味方する気概もない。フェミナチ共に対して私もここで何かしらの声をあげなければいけない、と思わせるほど徹底的にボコボコにされたわけでもないし、これといって哀れな気持ちにもならない。お前がこうして楽しく毎日ツイッターを続けていることが、茶色の朝の夜明けが遠い何よりの証拠だと思う。永遠に就職難の業界で、せっかく手に入れた職をなくしたことは気の毒だと思うが。どうせ死ぬにしても、お前と一緒にキャンセルカルチャー（笑）に巻き込まれて死にたくないんだよ。死ぬなら一人で死んでくれ。
　あと個人的にあまり好きでないので、嫌です。そいつネットでまあまあのアンフェやってるくせに爆美女の先輩を執拗にナンパしてたらしいし。いくら相手が美女とはいえ、アンフェを自称する人間が女ナンパすんなよ。そういう言動不一致や矛盾や一貫性のなさがお前の個性に深みを与えるどころか軽薄で頼りない印象を追加してんの。

　件の爆美女先輩はなんで院なんかに来てるの？というくらい、お顔立ちだけでなく性格的にも非の打ち所がない女性でした。大学院にいつまでもいるやつは大抵精神身体顔面発声価値観行動衛生観念などに何らかの異常があることが多いのですが、彼女は見目麗しいだけでなく、性格も素直で捻くれたところの見られない奇跡のような存在でした。例えば彼女が、「今年は何人もの友達が結婚して結婚式のご祝儀や用意で出費が大変だ」と言っていたので、私が「じゃあ行かなきゃいいんじゃないですか？」と返すと、「でも自分が挙式する時には友人にも参加してほしいしな…」と返されました。結婚式という晴れやかな舞台に自分を呼んでくれる友達がいる、彼ら彼女らと交友関係を保ち、その上でいずれは自身も結婚式を開催する…人生の「正解」を叩き込まれた気分でした。ついでに言うと、彼女は私が朝食にスムージーを啜るのだと思っています。もちろんそれは私がなんかのおりについた嘘です。「私の朝食、スムージーなんすよ（笑）」と行った時、彼女は私の冗談を間に受けて驚いた表情をしていました。きっと爆美女先輩は、爆美女だけど貧乏だし、チー牛の大好きなたのしいピクニックデートでも喜んでくれます。ちなみに今日は蒙古タンメン中本の豆腐スープを飲みました。

　そんな心の清らかな爆美女先輩を誘うこと自体、もっというならば話しかけること自体がおこがましく許し難い。アンフェのくせに身分不相応な女性をモノにしようとし、失敗したらさらに拗らせる。負のスパイラルです。身の丈を弁えろ、鏡見て出直せと、部外者ながらに感じました。美女に拒絶されたことがきっかけで女嫌いになったというのならまだ可愛らしい失恋体験だと思うこともできます。しかし、差別的発言で職を失うほどの元来女嫌いの癖に、ようやく俺の眼鏡に叶う慎ましやかな大和撫子が現れた、きっとこの女性なら自分を受け入れてくれるはずだ、どれ一つこの俺様が相手をしてやろうと身の程もわきまえずに接近するその「甘え」が許し難い。まあ会うこともないので許すも何もないし爆美女とアンフェの間の話なので、私はそもそも関係ありませんが。

　アンフェの皆さんってフェミニズムという思想やフェミババアを嫌ってるだけで、女体そのものが嫌いなわけではないんですかね？女嫌いの女体好きとはもうしますが、シリコンや自分の右手ではダメなんでしょうか？拗らせたアンフェの中にはアンフェである＝女好きではない＝遊んでない＝貞操観念が高い、と自分にとって都合のいい方程式を成立させ、自身がアンフェであることを誇りにしてる痛いやつもきっといるんだろうな。とはいえ彼は、不幸にも自意識を拗らせたものの女体への欲望を捨てきれない中途半端なアンフェたちにとって何かしらの意味で希望なのかもしれない。

　あとインターネットとかいう低俗な媒体で論争ごっこ（笑）とか恥ずかしくないの？せめて紀要とか査読なし論文で炎上しろよ。まあ大勢の人々の目に止まるツイッターとは異なり、訴求力はカスになりますが…。そういう低俗なヒボチュウ媒体に頼るなよ。プライドはないのか。（ブーメラン）