創作詩「靖国にて」
神門をくぐると
そこは静謐な空気に包まれていた
さっきまでビル街を歩いていたはずなのに
いつの間にか
異空間に迷い込んでしまったよう
柄杓を取り 手水で両手を清める
意外にぬるい
何人もの参拝客とすれ違う
ここに訪れる人は
皆それぞれ どのような物語を抱えているのだろう
戦争は悪である
いや 追い詰められた者に残された 最後の抵抗手段である
平和は善である
いや 隷属を強いられるだけの 形だけの“平和”などいらない
ありとあらゆる正義が
ありとあらゆる思想が
ありとあらゆる神が
人の数だけ存在する
しかし
あの静謐な空気の中においては
すべてが塵と化す
命を散らした人々の眠る場所で
何を語ることがあろうか
あの戦争で 日本は悪いことをした
いや あれは自衛のための仕方のない戦争だった
むしろ アジアの解放へとつながる正義の戦争だった
そもそも戦争において
片方を正義で片方を悪とすることが適切なのか
戦争に正義も悪もない それさえも画一的な見方ではないのか
そこに正義はなかったのか
そこに悪はなかったのか
すべてを疑い すべてを信じる
この矛盾を乗り越えた先にしか 真実は見えてこないのだろう
私はあまりにも無力で
この手に真実などつかめそうにない
ただ事実として分かることは
あまりに多くの命が失われたということ
そこに眠る数多の魂を
称えるべきなのか 痛ましく思うべきなのか
私には分からない
言葉にできない感情を抱えたまま
私は再び神門をくぐり
あの静謐な空気を後にした