田中事件 が歌う『循環する生命のフォークロア』とはなにか。
延期されたアミュプラザ鹿児島トークイベント用にまとめていたものをライナーノーツとして公開します。
当日はタワレコ鹿児島の司会担当者を交えて、コロナ禍における熊本や鹿児島のライブハウスシーンや『循環する生命のフォークロア』の楽曲についてトークセッションを行う予定でした。
ライナーノーツ - 田中事件『循環する生命のフォークロア』
僕が田中事件のことを認識したのは 2019年10月 1stソロアルバム『Requiem for My Generation』をリリースしたぐらいのタイミングだったのでそれほど昔から知っているというわけではない。
熊本NAVAROに「Art Blakey Fes 2019」を観に行き、ライブを見て僕から声をかけて物販でCDを売ってもらいその時に初めて話したのを覚えている。
まず平成というタイトルがよかった。昭和のはじっこから、平成、令和と三世代を生きてきたのだけど、ノスタルジーを感じるのは平成に対してだ。令和に対して感謝することはまだないが、平成に対しては違う。耳障りの良い言葉だけじゃない、嫌だったこと辛かったこと、人に伝えるのをはばかるおぞましい感情にも、感謝とさよならを告げるrequiemこそが今できることじゃないだろうか。
当時、僕の感想はそんな感じだった。平成から令和になりなんとなくお祝いムードで世間が浮ついていたころ平成を振り返った曲はすくなかったと思う。発想が斬新で面食らったし正直悔しかった。彼の歌をもっと聴いてみたくなった。
田中事件の音楽はいつも僕に気づきを与えてくれる。キャッチーなメロディーと不穏なノイズ。ネットライムで鍛えられた着想と語彙力。ライブで酩酊し いまにも零れ落ちそうな危うさも生きる哲学である。そのどれもに僕ははっとさせられ心を打たれてきた。
それでは、今回のアルバム 『循環する生命のフォークロア』はどうかというと主に3つのテーマで構成されている。民族的な文化のこと。生命の本質。そして生産性に対する言及だ。
『より良いも悪いもきっとないはずじゃないか』
医師として生業する傍ら 音楽をつくり文化に勤しむ日々が、コロナ禍により 音楽を不要不急のものとされ 社会に身を分断させられた悲痛な叫び。
生産性を求め 文化や多様性を軽んじる傾向にあるが、生産性と無縁といえるものこそが生命の本質なのではないか。
そう彼らしく人間讃歌を訴える言葉が胸を打つ。またシンプルな弾き語りによる1stとは異なり、オーバーダブや環境音とSEの使用、ポエトリーリーディングの挑戦と これまでのSSWの枠を飛び出した意欲作になっている。
この渦中だからこそ生まれた名作だと思う。僕が想像できないところまで拡がっていって欲しい。
レーベル元はライブハウス熊本NAVAROから新レーベル“4JC RECORDS”リリース第1弾となる。これから若いバンドのリリースも決まっているみたいなので、こちらも着実に盛り上がっていくことだろう。
余談だが、今回の特典CD『いつかどこかのナイスソングズ』は田中事件発案の熊本の新旧楽曲が収められたコンピCDになっている。こちらは単品として、熊本のライブハウスDjango、FACTOR、NAVAROにて購入可能。売上金はドネーションになる。
いまフィジカルとして音源を形に残すことは、確実に将来その場所の文化活動に貢献することになると思うので他のとこでもどんどん真似してやって欲しい。
ZOKUDAMS ゐとう.bug (2021年5月16日)
以下 ゐとう.bugによる 当てにならないひと言コメント集
1.フォーク
伝承歌。『1人称さえ』定まらないのは人間にはいろいろな立場があるからだろう。あなたがいてぼくがいる。民族の起源はそんなとこだ。
2.一万円
このアルバムで一番好きな曲。テンポチェンジからの犬の歌。この不明さがあがる。
3.生命
音のつくり込みすごく良い参考になる。下のボーカルを入れたのが正解だと思う。ルーリードみたいなかっこよさ。
田中事件 - 生命
4.ソーラー
アコギによるエモ曲。最近よく口ずさんでいる。アルペジオリフとサビメロはそのうちマネしたい。
5.BLUE
この曲の良さは感傷のなかにあると思う。
6.海岸線とエコー
昔のバンドのリメイクらしい。アルバム通して聴く中で良いポジションにある。
7.循環
ギターが良い音している。自虐的な曲だが展開のメロがよくて救われる。
8.BOSHI
BOSSAに合わせた田中事件としては珍しいリズミックな歌唱法。後半のSEも良い。
9.投げ銭で歌いましょう
2020年12月。コロナ禍で何本かライブが流れ、なかなか上手くイベントが組めず困っていたが、cafe 凡から受け入れてもらえて小規模なパーティを企画をすることができた。当時の状況ではチケットを売るわけにもいかず自分としては不本意ながら投げ銭になった。不本意というのは、イベントを企画する側として投げ銭はお客さんに不親切だと考えていたからだ。しかし田中事件にその旨を伝えると「むしろ投げ銭が良いです」とのことだったので、彼の意見を尊重することにした。久しぶりのイベントで2020年最後、やるからには赤字でも音響だけはしっかり出したい。WALKINN STUDIOに協力してもらい最小限で揃え、DIYながら納得のいくイベントをすることができた。お客さんも久しぶりのライブを楽しんでもらい。趣旨をくみ取ってくれて気持ち多めに投げ銭を入れてくれていたと思う。僕としてはコロナも不安だったし挑戦だったが、方面の仲間に助けてもらい開催することができた。そして今もイベントを繋いでいけている。田中事件が『投げ銭で歌いましょう』と言ってくれたおかげだ。
10.生産性のワルツ
バックグランドの広さを感じる楽曲。こういう転調する曲も好き。
11.菜箸日和
丁寧な暮らし。酔いどれている田中事件しか見てないのでギャップがある。
12.YOUTH
不穏な曲。『今のところ』に希望をこめて。
13.きれいなものが滅びた夜に
『みんなの想いがつひとつになったころにひとつになれなかったあなたは非国民』は素晴らしいヴァースだ。間違いなくあなたの心に刺さる。
田中事件 - きれいなものが滅びた夜に
14.コロナ
即興曲。音楽のすべてが不要不急だったと社会から断絶された悲痛な叫び。
15.なれはて
フォークロア。このアルバムのテーマソング。成れ果てよ。
以上
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