五十嵐一輝の『歪み』について
これはリバイスを追っていた時、五十嵐一輝に対して考えていた事を書いた記事です。
『歪み』の話ですが、一輝全肯定・大好きな人が書いてます。
※以下本編内容のネタバレ・偏見や持論など独自解釈を含※
■始まりの違和感
2021年9月5日に『仮面ライダーリバイス』は始まった。
ライダーシリーズ50周年記念作品、新たな主人公は銭湯屋しあわせ湯三兄妹の長男、明朗快活な人気者、熱いお節介焼きの五十嵐一輝!
そんないかにも主人公的でヒーロー然とした、太陽のような眩しいキャラクター像。
本当にそうだろうか?
上のプロフィール、一見好青年に思える。なんでも受け入れようとするなんてヒーローらしくてとても良い人っぽい。
一方で、どこかふんわりしてる上にわざわざカッコに補足がある。
嫌いなものがないって、無自覚に「他者の期待に応え良い人でいたい」とか「『嫌い』という自然な感覚を歪め自分を殺している」「『嫌い』という感覚が鈍感になるほど自身に関心がなくなっている」人の心理の裏返しでもある。
そんな一輝の悪魔は陽気で賑やか、子供のように正直に自由に振る舞うバイス。
作中での『悪魔』がフロイトのいうid/es(イド/エス)のような快楽に忠実な存在で、その言動は宿主が無意識に隠し持つ負の一面だとしたら、一輝は「しっかりしなきゃいけない・良い子でいるべき・不満がある・正直に自由になりたい」……など、抑圧されたものを抱えていることになる。
放送前から界隈では弟の大二が闇落ちしそうと賑わったけど、兄の方も大丈夫?闇抱えてない……?
とはいえ子供向け番組のフィクションのキャラクター。考えすぎかもしれない。
違和感を覚えながらも予想を超えた厚みを持つキャラクターたちに出会えることをまだ知らず、 令和3作目の新しいライダーが誕生するその日を今か今かと待っていた。
■『家族と銭湯』への執着?
1話ラストで戦闘後に狩崎へ、「俺には…銭湯を守るという使命がありますから。」とベルトを返した一輝。笑顔でベルト返しちゃった主人公…。爽やかすぎて受け入れそうになったがこれは興味深い。
実力があるにも関わらず一輝がプロサッカー選手の夢を諦めた理由は濁され、弟の大二もそれを知らない。
その後実に4話後半まで、FENIXとの契約を持ちかけられて大二から仮面ライダーになるよう嘆願され本気喧嘩に発展するも、頑なに銭湯と家族を優先した。
「家族を大事にしているキャラだから」と言われればそう……。
ライダーになり戦う=命の危険等リスクも大きいので拒むのもわかる。弟のようにFENIX入隊を志願した訳でもなく、兄は今まで一般人だったからだ。
だけどこの一般人、体が先に動くし責任感も強く、2話では”生身で戦い(変身せず)自分の命を人質に悪魔に言う事をきかせる”という荒技をみせていて、怖いほど自分の命に執着がない。
母の幸美は同2話で「銭湯は家族で守れるけど、世界はあんたしか守れないのよ。」と諭しており、家業の銭湯を不本意に継ぐ事になりサッカーの夢を諦めた訳ではなさそう。
人を幸せにするにはまず一輝自身が一番幸せになるよう助言していたり、むしろ一輝が銭湯から離れ前に進む後押しをしているようにも思える。
■足りない『自己愛』
一輝大好きな悪魔バイス。超カワイイ。時たま悪魔的な怪しい笑い方をするが、1話から見返すと本当にもう頭からしっぽまでたっぷり一輝大好き!
そんなバイスは一輝から生まれた分身だけど、一輝自身の自己愛が強いという訳でもなくむしろその逆。分身が「アイジョーちょうだい!」と騒ぎ「愛情なんてこれっぽっちもない!」と言い返したり適当に相手をしたり命をかけた無茶をしたり、自分自身に対する愛情が希薄・自分を大事にできていないらしいことが窺える。
弟の大二から見れば明るい人気者で常に皆の中心にいて、羨まれ深い嫉妬を受けるほどの兄ちゃんなのに……。
この「後々爆発しそうな歪み」「本当にこれで良いのか?と視聴者に感じさせる不穏さ」がリバイスの面白さの一つで、特に序盤はなんかゾワゾワしてスリリング、続きがすごく楽しみという中毒性があった。
この時はまだ一輝の内面がわからず、明確に好きというか強い興味と危うさをひたすら感じていたので、この主人公無性に気になるけどいつ爆発するんだろう?彼は何を抱えてるんだ?と見守っていた。
■敗者とエゴイスト
序盤のお悩み相談手伝いの中で、一輝はバイスタンプ使用者にお説教をする。
それがなかなかの正論キックであり、お節介を焼いた人たちの人生をプラスへ向ける手助けになるのと同時に、後々そのお説教が一輝自身の状況に特大ブーメランとして返ってくるのがしんどくもヒーロー番組として興味深かった。
(本来家族の事情に他人が首を突っ込む権利はないし(政府特務機関下のライダーなのでバイスタンプ使用者を制裁する権限はある)、他者を批判する時自身の欠点に目を向けるのは難しいという矛盾を扱っている。
でも家族問題は第三者が入ることで蟠りがとけたりもするから、『お節介』なキャラの効果と介入したことで彼が負う責任が機能してる。)
特に6話では、弁護士の工藤に対して「弁護士になれたんだから賢いはずだろ?どうしてちゃんとした努力をしなかったんだよ。」と呼びかけて彼に激怒され執着され、14話ではブーメランで直接殴りに来られることになる。
上記は戦闘中のセリフだが、一輝はここで戦いの手が止まるほど激しく動揺した。
熱く直向きに行動した結果良い方向に行ったものの、今までのお説教で見られるように確かに彼は他者の敗北感劣等感や挫折に疎いようで、うまく寄り添えていなかった面もある。それについて本人にも自覚があり、密かに悩んでいたらしい。ただの無神経な人間ではなかった。
生まれつきの性質なのか、後天的なものなのか? この時点では色々わからないがどちらにせよ、ここで自覚があり悩む姿を垣間見せたことで五十嵐一輝という人物に作られたキャラクター以上の厚みを感じ、自分の中の五十嵐一輝熱が静かに大爆発した。
だがその後「お節介で何が悪い!」「エゴイストで何がいけないんだよ!」「一輝は一輝の好きにやればいいんだよ。」というバイスの言葉(自己肯定?)によって一輝は気を取り直し工藤に勝利する。
対外的には何も解決しておらずバイスの不穏な笑みもあり、本当にそれでいいのかな?と思わせるやり取りだったが……。
■からっぽのヒーロー
14話を機に五十嵐一輝への興味が好きに変わってから、ジワジワと重大な精神状態が明かされていく。
ボルケーノバイスタンプによって炎上し火傷を負って入院した18話で、狩崎から次は「最悪の場合死ぬかもしれない」と忠告されるが、一輝はオルテカたちと悪魔(フェーズ3デッドマン)を分離することを諦められない。
ひとりきりになった病室で、一輝は自分の悪魔バイスに衝撃の告白をする。
自らの口から、命がけお節介の理由と自分への関心の希薄さを打ち明けた。いつもは「兄ちゃんにまかせとけ!」と明るく笑う一輝が、親しい人や家族にも言えないような深刻な秘密を、自分の悪魔だけに……。狂う……。
心身ともに強い恵まれた勝者という訳でも、ただ単に自己犠牲的な善人という訳でもない。自己存在を他者から求められることのみで満たし、”お節介”ヒーローの裏面には”メサイアコンプレックス”(に近い精神状態)が潜み、本人の口からそれが語られる。
4話の時点では一輝から「変身できないからって、俺に当たるなよ!」と言われた大二に同情したが、ここにきて大二のセリフが適確かつ同時にお互いの地雷を思いっきり踏み抜いていたことが判明し頭を抱えてしまう。この兄弟最悪と同時に最高すぎて泣けてくる。
ちなみに、17話放送時に発表された一輝&バイスのキャラソン『VOLCANO』の歌詞を聴くとこの辺りの一輝の内面の解像度が爆上がる。曲自体もムチャクチャ良い上に、今までのモヤモヤした予想の答え合わせみたいな凄まじい威力をもってる。ぜひ聴いて五十嵐一輝への思いを滾らせながら頭を抱えてほしい……。(各種音楽アプリでも配信中)
■ミッシングリンク
『銭湯と家族への執着』『敗者の気持ちがわからないエゴイスト』『アイデンティティのための命がけのお節介』など、次々に一輝の内側の深すぎて表出しなかった闇が浮上し、どうして・どこからそうなった? という疑問がやまなくなってくる。
炎上入院時に「いつからか…」と言っていたので恐らく何か原因になる出来事があるはず。
物語を追う中で、それらの”歪みが本編前に記憶から消されていた2大トラウマに起因していることに辿り着く。
(※2/12追記編集)
1つ目は25話で明かされた幼少期の『18年前の五十嵐家の火事』。
生家を焼き落とす父親の姿をした何か、倒れた弟とまだ見ぬ妹をお腹に宿した母親。生まれ育った家と家族を失う壮絶な恐怖、生命の危機を感じた当時4歳の一輝は、ここで初めて自分の悪魔バイスと対面し、契約を結び助けられた。
契約通りバイスによってこの事件の記憶は消されていたが、その強烈なトラウマの断片と「僕が家族を守る」という意志は、銭湯や家族への強い執着となって残っていた。
更に、2つ目の『親友を大怪我させた事件』が現在の一輝の”歪み”を形作る大きな要因になっている。
一輝は過去、高校の部活のチームメイトだった親友の浩二・ジーコを練習中怪我させてしまい、彼のプロサッカー選手の夢を絶ってしまう。
夢を背負い代わりに自分が必ずプロになると約束し、一輝は大きな罪悪感から練習に没頭したが、次第にプレッシャーに押し潰され、バイスがその記憶を消した。
(※これは変身の度に記憶が消える契約とは別で、バイスが意図して記憶を消したもの。「あの時は一輝の力になりたくて…」と謝っていたが、バイスの独断ではなく一輝自身「本当は俺が願ったんだ。何もかも忘れたいって」と告白してる)
この事件が判明する前回の30話、ラフレシアデッドマンの能力で「もう乗り越えた」はずの弁護士工藤との戦闘の記憶が繰り返される。
一輝が生まれつき強く才能に恵まれた勝者であり、大きな失敗体験がなかったからじゃない。工藤や大二も経験した、努力ではどうにもならなかった自身の中で重要な挫折の記憶を消してしまったから『敗者の気持ちがわからないエゴイスト』と言われ悩むようになった。
記憶が抜け落ちたことによって自分の動力の根源や、なぜ自分が打ち込んでいた大好きなサッカーをやめたのかがわからず、前進できなくなり自身への興味が薄れ、他者を救う事で自らの存在を満たす『アイデンティティのための命がけのお節介』をするヒーローが爆誕した。
(これは本編にはない仮説だが、この事件を当時の母・幸美の視点から見てみると、一輝が頑なに銭湯・家族に執着していたことや、それに対する母親の言動も納得できる。
息子が親友に大怪我させてしまい保護者同士で話す機会もあっただろう。事故以来日夜練習に明け暮れていたのに、ある日ぱったりサッカーをやめてしまった息子から「……浩二くん?ジーコがどうかしたの?」と真っさらな笑顔で言われたら……。
夫・元太のことも見守ってきた人なので、息子も心を壊したのではと察し、一輝がやりたいことを見つけるまで、しあわせ湯を彼の精神を守る暫くの拠り所・居場所にしていたんじゃなかろうか?)
■真のエゴイスト
バイスに記憶を消してもらったことでトラウマを忘れ、一輝は今まで生きてこれた。一輝自身は「逃げた」と言ったけど、その時はその選択が良かったんだと思う。”忘れる”ことは自己防衛でもある。心は一度壊すと永く治らない。
一方で、記憶を消したことで後々”歪み”が生じ、弟や親友、彼自身が大切に思う人たちを深く傷付けることになってしまった。それを一輝は真摯に受け止め、一度は逃げた”歪み”の根っこと傷付けた人たちに必死に向き合った。
見ているのは簡単だけどぜんぜん簡単なことじゃない。自他の中にあるあらゆる歪みを自覚し、受け止めて懸命に、真面目に優しく生きようとするなんてなかなかできない。
実際五十嵐一輝はエゴイストではなかったと思う。人のために心を磨り減らして、もっと自己中心的に利己的に、自分を大事にしたっていいくらいの人間だった。
五十嵐一輝………。苦しんだ分思いっきり報われて、彼のペースでこれからちょっとずつで良いから前進しながら、時々無意識の夢の中でバイスと遊んで、おいしいもの食べて笑ってほしい。
今回は五十嵐一輝の精神構造のここが好きという超基礎で、ここを前提に五十嵐兄弟についてとか、サンダーゲイル、最終回辺りの一輝の記憶喪失、バイスとのバディと成長、『バトルファミリア』でのアヅマとのやり取り、FSでの一輝、冬映画やVシネでのセリフについてとかまだまだ深めにいいよね………と言いたくなるテーマがたくさんあるけど、文字数がおそろしいのでまた今度したためるかもしれません。
ここまで読んでくださった方もしいらっしゃったら本当にありがとうございます。記事の解釈は個人の受け取ったもので、これが正解だと思って書いてはないので、もっともっとリバイス・一輝大好きな方の色んな視点からの意見が聴けたら嬉しいです。
放送後2年…2年……?!?以上たってもリバイスについて考える毎日が続いてるので、度々爆発した時はお付き合いいただけるとありがたいです。