第13回 連帯保証
1 対象会社保証提供の原則
ノンリコースのファイナンスであるLBOファイナンスのスキームでは、ローンの貸付人である金融機関が債権回収に関して対象会社の債権者に劣後する構造が生じます。そこで、LBOローン契約では、そのような構造的劣後関係を解消するため様々な方策が取られ、対象会社財産の担保提供が要求されます(全資産担保の原則)。
また、LBOファイナンスは対象会社の生み出すキャッシュフローを引き当てとしたファイナンスですから、借入人だけでなく、キャッシュフローを生み出す対象会社グループ会社についても担保を差し入れることが要求されます。この対象会社グループを「クレジット・パーティー」と呼んでいます。
クレジット・パーティーは、「保証人」としてLBOローン契約上のコベナンツの制限を受けて行動が制限されるため、借入人としてはその範囲を狭めるよう交渉します。その結果として対象会社グループの一部がクレジット・パーティーから除外された場合、除外された会社へ資金が流出してしまっては貸付人の債権回収に支障が生じます。そこで、クレジット・パーティーとそれ以外の対象会社グループ会社間での資産譲渡やICL等の取引が禁止されるのが通常です(このような規定を「リング・フェンス条項」と呼びます。)。
2 取締役の善管注意義務との関係
会社法上、株式会社の取締役には善良な管理者の注意をもって会社経営を行う義務(善管注意義務)があるとされます。そのため、会社の利益、ひいては株主の利益を損ねる行動があれば損害賠償請求を受ける可能性があります。
LBOローン契約においてクレジット・パーティーとなった会社(の取締役)は、買収SPCという、いわば他人のために保証契約を締結しますから、(親会社の借入によって、保証するに見合う利益がもたらされるのでない限り、)形式的には当該対象会社の株主の利益を損ね、善管注意義務に違反するのではないかという問題が生じます。
そこで、対象会社の取締役の善管注意義務違反が生じるかがクレジット・パーティーとなる会社の範囲を決定する重要な要素となります。すなわち、対象会社の株主が借入人のみである会社(借入人の完全子会社)をクレジット・パーティーとするのが原則になります。そのため、二段階買収により対象会社を完全子会社化するスキームの場合、少数株主をスクイーズアウトしてから保証・担保が提供されるのが原則です。また、買収SPC以外の株主の同意を得ることによっても善管注意義務違反に問われるリスクに対応できると考えられます。
3 普通保証か根保証か
保証が普通保証となるか根保証となるかは、物的担保と同様に被担保債権の性質によって決され、タームローンのみの場合には普通保証が、コミットメントライン(限度貸付)のみの場合には根保証が設定されます(詳しくは第12回を参照)。
典型的なLBOローン契約は、タームローンとコミットメントラインの2つのファシリティで構成されることから、保証の方法は①タームローンとコミットメントラインの両者をカバーする根保証をする、②タームローンに対する普通保証とコミットメントラインに対する根保証をそれぞれ設定する方法の2通りが考えられます。
このうちどちらを選択するかは、貸付実行後の貸付債権譲渡の予定を考慮する必要があります。シンジケーションや債権回収の方法として、タームローンにかかる債権が譲渡されることが予定されている場合には、随伴性に争いのある根保証では譲渡手続が煩雑になることが予想されるからです。
連載一覧
第1回 “LBO”・“LBOローン”とは
第2回 LBOのストラクチャー(買収プロセス)
第3回 LBOのストラクチャー(SPC)
第4回 ローン契約総論
第5回 レンダー選定
第6回 LBOローン契約総論
第7回 前提条件(CP)
第8回 期限前弁済
第9回 表明保証
第10回 コベナンツ
第11回 期限の利益喪失
第12回 担保契約