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家族のこと

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娘や夫のはなし
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2020年9月の記事一覧

結婚の挨拶

6年前の秋、父と夫が初めて顔を合わせた。

堅苦しくならないよう、けれど、なんとなく落ち着いたところがいいかなと相談して、昼食の時間に和食の料亭を予約した。

私たちは10分ほど前にお店に着いた。街路樹の前で、ぽつりぽつりと話しながら父を待つ。お店の中で待っとくって言えばよかったね。大丈夫?トイレ先行っとく?とか、そんな感じで私ばかりがしゃべる。少しおどけてみたけど、「そういうのやめて」という言葉

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私は、幸せのふりをした妊婦だった

「幸せいっぱいの妊婦」になれなかった私の話。

つわりで体調が悪かった時の描写、妊娠に対して一部マイナス表現があります。苦手な方はご注意ください。

「何ヶ月ですか?」

勤務先から帰宅するバスの中、席を譲っていただいた。お礼を伝えて、濃紺のベロアが貼られた席に座る。ベージュのパンプスを履いて、ワンピースを着た上品女性。

今、8ヶ月とすこしです。
そう伝えると、女性はうなずき、目を細めて微笑む。

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母のわすれもの

母のわすれもの

「かか、今日ね、ほいくえんのコップ、なかったよ」

3歳の娘が、保育園の帰り道につぶやいた。
どきっと心臓が跳ねる。
やってしまった。

この9月から、保育園へ持っていくものがひとつ増えた。

「プラスチックのコップ」

昨日洗ったあと、乾燥させてそのままになっている。

ちらりと娘の顔を伺うも、スンとした顔で前を向いたまま歩いている。
お昼過ぎに降った雨で、ところどころ水たまりができていた。娘は

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おりこうな話を聞かせて

おりこうな話を聞かせて

もっと甘えたい娘と私のルーティンの話。

産まれてずっと、娘は寝るのが苦手。
3歳になった今も、ベッドに入ってから、わがままなような甘えのような時間を繰り返す。

 喉が渇いた、お水がほしい。
 トイレに行きたい。
 体がかゆい、お薬を塗ってほしい。

その時間を終え、寝たくないと泣く娘に聞いた。

どうして、そんなに寝るのが嫌なの?

「だって、寝たら、かかと、一緒のじかんが、なくなっちゃう、ん

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終わりとはじまり

終わりとはじまり

私の言い訳と愛情のはなし。

私に背を向け、すうすうと寝息を立てる娘。頭を乗せているはずの枕は、体の横に投げ出されている。おとな用のシングルサイズの枕の横幅は60センチ。この幅と同じくらいの身長だった頃があった。

涙の跡をいくつもつけた娘がコロンと横たわって、時折しゃくりあげながら寝ている。シーツには、娘の涙が作ったシミがいくつもある。さっきまで真っ白になるほど握り締められていた手は、くたっと緩

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夏の記憶とセミの声

2020年夏、私の一番の思い出は”セミ”。

この夏昆虫に目覚め、どこへ行くにも昆虫図鑑を離さない3歳の娘。

7月から毎週末、セミの抜け殻を探して、車で10分ほど、山の中にある公園へ行く。ガチャ、とドアを少しだけ開ける。その隙間から、ジーーーーギイギイギイギイと尖った虫たちの声と、熱を持った空気がムワリとこじ開けるように入ってきた。重く湿った空気は、キンキンに冷えた車の中を一瞬で満たす。無遠慮に

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3歳の娘は″米とぎ″をお手伝いする

3歳の娘は″米とぎ″をお手伝いする

娘が″お手伝い″に夢中な話。

「娘ちゃん、おはし並べるの手伝ったげる!」

「これ、重いから持ったげよーか?」

「リモコン、ここあるよ!はい、どーじょ」

ありがとう。嬉しい。上手だね。
そんな言葉が聞きたいと思ってくれているのか、それとも、その健気さについ微笑んでしまう夫や私を見たいのか。娘の”お手伝いしよーか?”は止まらない。

本当は、娘の苦手なおもちゃのお片付けや、お出かけの準備などを

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