その怖ろしき似て非なるもの

 似て非なるもの。

 例えば、ババロアである。

「ババ」が付いている以上、これは意味的にウンコ系だと誰でも思うだろう。だが、ちがう。

 ウンコだと思って食べてみたら、なんと甘くておいしかった。名前はもちろん、見た目も下痢便を固めたようなものなのに、まったくちがうものなのだ。

 似て非なるものの代表が、ババロアだと言っても過言ではない。

 キンポウゲという植物がある。黄色い可憐な花を咲かせる双子葉植物キンポウゲ目に属する植物である。私が散歩をする河原でもよく見かける花だ。

 これも似て非なるもののひとつである。頭の「キ」を「チ」に変えてみたまえ。なんと、「チンポウゲ」となるのだ。美しさなどみじんもない。

「まあ、チンポウゲだわ。きれいな花だわねぇ」などと深窓の令嬢が言ったりするだろうか。絶対に言わないのである。まあ、ちょっと言わせてみたい気はするが。

 さらに、キンモクセイという植物がある。秋になると、その薫りが町に漂う。私が幼少の頃育った町では、たいていの家にキンモクセイがあり、ツツジとともに四季を楽しませてくれたものだ。

 だが、これも似て非なるものの一面を隠している。

「モク」を「タマ」に変えるだけで、なんと「キンタマセイ」になってしまうのだ。漢字にすると「金玉製」である。いったい金玉で何を作ろうというのか。考えるのもおぞましい。

 いやいや、もしかすると「金玉星」なのかもしれない。

 着陸した円盤から現れた宇宙人が「ワレワレハ金玉星人ダ。コレヨリ地球ヲ侵略スル」などと言ったって、地球人は顔を赤らめるだけなのである。

 この世には、似て非なるものがあふれている。日常は、たやすく非日常に姿を変える。言葉を扱う者として、自戒せねばならない。



いいなと思ったら応援しよう!