「目標設定」をしなければ成功しないと思っている人に知ってほしい話
先日、知人からこんな質問をいただきました。
例えば、サッカー選手でほぼ才能が同じの場合、目標設定が上手な方が活躍する気がします。目標設定が上手な人と下手な人は、何か違うのかな?
世の中には、目標設定を絶対的なものとして位置付けている人が多いですが、まず一つの手段だと認識する必要があります。確かに目標設定は、目的を叶えるために多くの場面で使われ効果を発揮していますが、しないほうが効果を発揮する場面があります。また、誰かが成功したやり方を、そのまま真似さえすれば成功するというものでもありません。
例えば、ある人に効果のあった目標設定法を、別の人に試したところ上手くいかなかった。ということはよく起こります。
・東大生の目標設定と勉強法を教えてもらったけど、上手くいかなかった。
・ダイエットに成功した人の目標設定とやり方を真似したけど、上手くいかなった。
・他の選手が上達した目標設定のやり方を真似したけど、成果が上がらなかった。
などは度々起こります。なぜこれが起こるかというと、人の過去の経験、脳や身体の状態により適性が異なり、それぞれに合う合わないがあるためです。
質問であった「目標設定が上手な方が活躍する」を考えた場合、言葉の定義としては「自分自身の成果が出る手段を知り得て、実施した方が活躍する」が最適な表現となります。
「目標設定」を外した理由は、人によってはそもぞも目標設定をしないほうが、パフォーマンスの上がる方もいるためです。
多くの人が、成功者の目標設定法に囚われ過ぎている
例えば子どもの頃に、ある目標設定のやり方を無理強いされ、それが原因で知らぬ間に精神的外傷を負った方の場合。その方が、職場で目標設定の仕方を教えてもらって仕事を進めようとすると、なぜかやる気が出なかったり、逆に行動が億劫になる場合があります。
こういった方に、他の人に効果があったからといって、同じ目標設定法を進めても成果は出ません。酷い場合は体調を崩すこともあります。(しかしその原因がそこにあるとは、中々気づきません)
教えた側からすると、「せっかく自分に効果のあった目標設定のやり方を伝授したのに、なぜこの人は成果が出ないんだろう?」と苛立ったり、悪い評価をしてしまいがちですが、単純にその人にとっては成果の上がるやり方ではなかったというだけです。
また、「強制でも良いのでこの方法でやり切ってさえくれれば、成果が出ると思うんです」という方が以前いらっしゃいましたが、目標設定の前提条件として、設定することによりワクワクして思わず歩み始めてしまうもの、目標に向かって歩みやすいものというのが、その人に一番合った手段です。
目標設定をしたのにやる気が出なかったり、歩み始めたけど進めにくいという場合は、手段が最適ではないという検証結果です。そこで仮に無理強いさせて、短期的に成果が出たとしても、長期的には良くならない場合が多いです。
また、そういった精神的外傷が無くても、人や状況により目標設定してもパフォーマンスが上がらないこともあります。
例えば、目的(ゴール)から逆算して因数分解したものを目標設定し、超えられる単位のサイズに分割して実行すると成功する。という逆算思考は昔から言い伝えられており、実行されている方も沢山います。実際にそれで上手くいっている方も多くいるため、絶対的にものとして語られていることを度々見かけます。しかしこのやり方に関しても合う合わないがあり、実は万人や全ての状況に最適なものではありません。
人や状況により、目標設定が逆効果になることがある
経営者、アスリート、アーティストで、そういったことをせずに成功した人は沢山います。そういった方が、巷の目標設定のやり方を真似すると、逆にパフォーマンスが落ちることが分かりました。実際に脳を見てると、なぜか働きが低下するのです。
そういった方の行動を具体的に調べると、目的も何もかも決めずに、一瞬一瞬の知的好奇心、感性の赴くままにどんどんトライすることにより、成功を収めている方。大きな目的(ビジョン、ミッション)は決めるが、細かい目標設定をせずに進めたほうが成果の出る方などで、ご本人もそのことを経験上理解されていました。
また事業創造など、環境要因で変化しやすいものの場合は、世の中の状況ですぐに変数が変わリ、過去に立てた目標設定が意味を成さなくなることがあります。
にも関わらず、一度決めたことに人は囚われやすいという心理的な側面と、そのバイアスが掛かった状態では、その状況変化にも気づき難く目標設定を次々に変えられないという側面があります。
その場合、仮にその目標を達成したとしても、目的には近づけない、成果があがらないということが、企業では度々起こります。
こういった世の中の変化の影響を受けやすいものに関しては、大きな方向性(目的)は変わらずとも、それを具現化するために立てたマイルストーン(目標)は変わりやすいため注意が必要です。人の心理的側面が考慮すると、時には無いほうが囚われず、成果があがりやすくなります。
一方、個人で完結するスキルアップなど(筋力トレーニング、ダイエット、受験、資格など)は、世の中の影響を受けにくいため、事業創造よりも目標設定しやすい類です。
誰でも人生で最初に経験するのは、学校で個人完結型の目標設定を学ぶので、どちらかというとそちらに慣れています。その影響から、社会人になってもついそれを適用してしまいがちですが、上記の通り、状況により最適な手段は異なります。
また、同じ状況であっても、人によってその目標設定のやり方では上手くいかないことがあるため、人に自分のやり方を教える時は考慮が必要です。
成果があがった経験を持ち、ある目標設定法を絶対的なものとして崇拝している方々には衝撃かもしれませんが、それが有効かどうかは、人や状況により異なることを念頭に置いていただくと良いでしょう。
脳は、人によってどれくらい違うのか
とくに盲点なのが、脳や身体の状況は、一般の方が思われている以上に大きく異なります。
例えば目の見え方でも、目の良い悪いという視力の違いはあっても、自分と同じように皆見えていると思われている方が殆どですが、実際には人によって大きく違います。
写真加工アプリをよく使う方はイメージ湧きやすいかもしれませんが、加工項目に明るさ、コントラスト、露出量、レベル補正、カラーバランスなど色々あると思います。あれで調節したような感じで、明るさや色合いなど、見え方は人によって様々です。実際に人の目を通して同じ認識を体験することは難しいですが、見えている世の中は実は異なります。
また同じ人であっても、体調や環境によって、見え方が日々微妙に違っています。
他の五感に関しても同様で、味覚に関しても、驚くほど感じ方に個性があります。例えばトップバリスタの方が、エチオピアのシングルオリジンコーヒーを飲むと、「ベリーやワインのような芳醇な香りで、ストロベリーのような独特の酸味、甘みとコクを感じる。あと舌触りが…」というような表現をしますが、
一方、そこら辺のおじさんが同じコーヒーを飲んでも、「このコーヒー美味しいけど、ストロベリー感は全く感じないんですけど…」ということが起こります。
味覚が優れている人と味覚オンチな人の精度は、驚くほど異なります。以前ある方を調べた中では、前者と後者で100倍以上の味覚領域の働きの違いがありました。
また、よく「味覚は訓練すれば感じられるようになる」という話もあるのですが、実際には色んなものを食べて訓練しても、味覚そのものは鋭くなりません。
※味覚の感度を高める手段はあるのですが、これは脳の味覚領域の働きの低下、身体の舌自体の感受機能、そこに至るまでの神経などに何かしらの問題がある人の場合は、その原因を治療するという行為により味覚が変わります。また、過剰な味付けや偏った食事に慣れてしまった方で、体内の亜鉛量が不足し、味覚を正しく認識できない味覚障害があらわれている場合があります。味覚をキャッチする舌の味蕾細胞は、10日間程で生まれ変わるため、過剰な味付けをストップしたり、無添加の食材から亜鉛を取り込んだりすることで、味覚をリセットすることが可能です。そうすることで、味蕾細胞が正常に戻り、元々持っている味覚を取り戻すことができます。
以前バリスタ見習いの方で、色んな産地やお店のコーヒーを沢山飲んで訓練したら、味の違いがわかり表現できるようになった。という方がいますが、これは味覚そのものが良くなった訳ではありません。数多くのコーヒー経験することにより、味の違いを理解したり、感じている味を言語化して表現できるようになっただけです。
違いの見極めや表現が豊かになった方の脳を、定点で診てみると、脳の味覚領域の働きは前後で全く変わっていませんでした。
数多くのサンプルを学習することにより、味覚領域で感じた知覚に対してタグ付けが起こり、それらが記憶領域に蓄えられます。それにより、今まで何もわからず言語化もされず、ただ味覚で感じるだけだった何ものでもない感覚が、感じた瞬間に「これは◯◯◯だ」と表現できるようになるため、あたかも味覚が鋭くなったように本人は錯覚します。
しかしその味自体は、言語化や意味付けがされていなかっただけで、以前から味覚が感じていたものです。ゆえに脳の味覚領域の働きに変化はありません。
以前、コーヒーの飲み比べの実験をやったときに、エチオピアのコーヒーがどんな味だったのか感想を言ってもらったところ、「美味しい」「すごく薄い味がする」「若干酸味がある」などのコメントがありました。
そこで、「このエチオピアのシングルオリジンは、ストロベリーのような酸味があり、、」という味についてのレクチャーを行い、もう一度飲んでもらうと「確かにそう言われてみると、ストロベリーのような味な気がする」というコメントが出始めました。
これは、脳内で味に対しての意味付けがされたことになります。これにより、この人たちはそれ以後、同じコーヒーを飲むとストロベリー感しか感じないと言っていました。
一方、その中で何度飲んでも「全然ストロベリー感を感じない、、」という人がいました。日を変えて何度飲んでも感じず、その人は以後もずっとストロベリー味を感じることはありませんでした。
この方は、他の人より味覚感度が低い”味覚オンチ”の方で、コーヒーに限らず色んな味に対して鈍感でした。 仮にこの方にいくらコーヒーを飲んでもらったとしても、元々のインプットがないため、意味付けが難しく、味の見極めや表現をすることは出来ません。
こういったことは上げればキリがありませんが、身長差や顔の違いなどの表面的な違いとは比べものにならないほど、脳や臓器などの精度は、人によって千差万別です。
ゆえに目標設定だけに関わらず、手段、人、食べ物、周りのあらゆる物質など、様々なものに対して合う合わないがあり、人により異なります。
然し乍らこのことを多くの方は知らず、自分で上手くいったもの・合うものは、他の人にも合うはずだと捉え違えてしまうため、色々な場面で事故が起こっています。
巷で流行っているハウツー本を、ただ真似しても意味がない
とくにダイエットは分かりやすい例です。多くの人が課題を抱えており、Amazonでダイエット本を調べると30,000冊以上出てきます。きっとそれぞれの著者が成功したやり方であり、真実が記載されているとは思いますが、それが読者にもフィットする可能性は極めて低いです。
だからこそ、世の中にはダイエットに失敗して、日々ダイエットビジネスの餌食になっている方が沢山いらっしゃいます。
とくに食べて痩せると書いてあるものは、注意が必要です。食べ物は人によって合う合わないが千般で効果が異なるため、真似して上手くいく確率はかなり低いです。
ゆえにライザップとかは完全に割り切っているので、体内に入れるものを減らし燃焼を増やすという、単純明快なやり方で進めています。おそらく万人向けということでしたら、一番成功確率が高いことでしょう。
但しこのやり方は強制モデルのため、檻の外に一歩出て自由になると、その生活習慣が保てず、すぐリバウンドします。
このような目標設定は、長期的な施策としては向かないかもしれません。
以前話題になった、大谷選手の目標設定
エンジェルス大谷翔平選手の「高校時代にやっていた目標設定のやり方」が、以前シェアされていました。
大谷選手が生まれたやり方なら間違いない。と多くの方が思われたようで、実際にSNSでは「うちの会社でも取り入れてみよう」「真似してみよう」とシェアされていた方が沢山いました。
一方、大谷選手の状況にマッチした目標設定法だからといって、他の人や状況にもマッチするとは限りません。実際に行った方に、しばらく経ってから聞いてみたところ、とくに成果は上がらず、今までのほうが良かったと前のやり方に戻されていました。
ゆえに試して合わないものは、どんどん変えていったほうが良いです。ここで変に「成功した人のやり方だから間違いない」と、自身にバイアスを掛けてしまうと、負のループに陥ってしまうことがあります。
成果の出る手段を知り得ることが、上手な人と下手な人の違い
最後に、「成果の出る手段を知り得るのが上手な人、下手な人の違い」については、脳と環境、二つの要因が考えられます。
脳の前頭前野、被殻、帯状回、黒質などがよく働いている人は、好奇心旺盛で創造力もあります。アイデアも湧くし、色々行動したり検証したりもするので、その中で自分に合う手段を見つけやすく、成果を上げる確率も高くなります。
一方、脳の働きが低下している人は、上記とは真逆です。もし両者が、全く同じ環境で仕事をした場合、その成果は一目瞭然です。
環境に関しては、親、友人、メンターなどそういったことを教え気づかせてくれる存在や、成果を出すのに必要な情報に、出会いやすいかどうかです。ゆえに脳などその人自身の状況と、環境のかけ算により、最適な手段を知り得るかどうかが決まります。
冒頭でお伝えしたような、過去の苦い経験がトラウマとなり、それと同等のアプローチを実施すると、なぜかモチベーションが下がってしまう。嫌な気持ちが沸き起こるなど、心の状態から合わないものも出てくるため、世の中で良いとされているものに囚われず、自分に合うやり方を探っていくことが大切です。