ハンガー 飽くなき食への道

2023 Netflix

バンコクの下町、家族経営の食堂で働く主人公オエイは有名シェフ ポールが働くハンガーにスカウトされる。
予約一年待ち、セレブらが芸術だと称賛する料理の数々。
ハンガーに赴くオエイ。
そこはポールが独裁する世界だった。

https://www.youtube.com/watch?v=h61PbLOmyY0

※以下ネタバレ

ポールの美しい料理の描写にやたらと客が音を立てクチャって食べるのも、料理をするときあえて不快な音を入れるのもすべてポールの料理が復讐を幼いころに芽生えたセレブの復讐心を元に作られている、と考えると納得がいく。
客に美味しく食べて欲しいとか幸せに味わって欲しいという気持ちはなく、美味い料理を作る一流シェフであるわたしにお前たちがひざまずけと見下しながら料理を作ってる。
その背景は幼いころのポールのエピソードで明らかになるわけですが、だからわざわざ将軍に血の滴る肉を出したりする皮肉めいた悪意だってやってみせる。
そんなことも気づかず貪り食う客を見てポールはほくそ笑む。

キッチンには民主主義ではなく独裁主義しかない、というセリフはポールのパワハラ描写に繋がってるんでしょうが、オエイも渇望を突き詰めた結果、同じところに行きついてしまうというのは何とも皮肉。
深淵を覗くものはうんぬんかんぬん。
でも同じやり方では同じところにしかたどり着かない。


最終決戦、セレブの誕生日パーティで直接対決する二人。
オエイが自慢の料理を出すがポールは演出でその上を行く。
肉を天井から吊るして刀で切りつけるとか料理の味じゃなくライブパフォーマンス対決になってますがな…。
絶対、お肉冷えてるし。
オエイが懐かしの味で対抗するが、それに対するポールの切り札がここまで伏線でいろいろあったスープって辺りがなかなか憎い。
料理は渇望だというポールにオエイは勝てなかった。

敗北したオエイ、盤外戦術によって潰されるポール。
オエイをスカウトした中東系の彼がどんどん株を下げていく。

マッチメイク自体、ポールを社会的に抹殺するやり方もオエイの料理ではポールに勝てないと予想していたからこそ仕組まれていたわけで。
色々なものを切り捨て、孤高にならなければ生きていけない世界。
オエイは勝負に負け、そして仲間が自分を信頼していない事実を知ったからこそ一流シェフとセレブの華美で空疎な世界と決別することができた。

単なる料理エンタメに終始せず貧困や格差の問題もぶち込む。
もうちょっとポールも悪役に徹したりしても面白かったかもしれないし、オエイの恋愛要素はいらんかったなーと思いますけど、なかなかよくできていたのではないでしょうか。
ただ料理描写は(格差の象徴だから)徹底して美味しそうではないので観た後でおなか空いたなーとか豪華な料理食べたいなーって気分にはならないかもしれない。

★★★★☆

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