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【検証】最近のボカロ曲には本当に"高度な編曲"がないのか?(一部修正済)


【追記:2024.12/18】
公開後のご指摘を受け、本記事及びスプレッドシート内における誤解を招きかねない表記・文章表現を数ヶ所修正させていただきました。












ボカロPのジヲと申します。
皆様、いつも本当にお世話になっております。

今年のあたしは、SNSを中心にいつにも増して下品なお騒がせをしまくりな一年だったと、わざわざ振り返えらずとも思います。漢字一文字で表すとするならば、間違いなく"恥"を書くことでしょう。




さて。

こちらは、#ボカロリスナーアドベントカレンダー2024への参加記事となっております。



あたしの記事の投稿予定日は12月10日。普通に大遅刻でございます。理由については、記事を読み進めていってもらえれば、なんとなくお察していただけるかと思います。(だからといって開き直るつもりは無いですホンマにすいません)




ちなみに、今回の記事、いつもよりかなり真面目です。
結構真剣に語りたい内容だったので、皆さんにもいつもより真剣に読んでもらえると嬉しいかもです。

…前回記事公開したのいつだよっていう正論は受け付けていません。ご了承くださーい。









はじめに



今回は、様々なメディアから調査したデータとあたしの独断と偏見を元に選んだ300曲以上のボカロ楽曲を対象に、音楽の構成及び演奏技法に焦点を当てた統計・検証と、その結果から感じた"最近のボカロ曲"に関する考察記事でございます。

なんて、それっぽく言うてみましたが、普通に暇人が気まぐれと勢いでまとめた拙いお気持ち文みたいなもんだと思ってくれて全然結構です。




というのも。

11月某日、Xにて「近年のボカロ系楽曲には高度な編曲の作品をあまり見かけない」「フィルがない、キメがない」といった意見のポストが投稿され、中にはプロの音楽講師の方からもそのような意見が上がり、界隈にて少々話題になりましてね。


近年のボカロ系の編曲面、シーケンスでとにかく埋めるような手法が多すぎて、ストリングスアレンジやブラスセクション、歌メロを縫うような掛け合いといった高度な編曲はあまり見かけない。広い意味でDTM/DAWの普及の弊害というか。彼らの盲点や弱点はそこだな。

https://x.com/dtmkoupenchan/status/1853597455671275676

フィルがない、キメがない、このあたりもぜひ研究してみてくださいー。

https://x.com/hidetakumi/status/1853784266565677350


あたしは元々ボカロ文化が大好きで、自分自身もボカロPとして音楽制作をしていたり、ボカロ楽曲をレビューするニコニコ半公式企画"ぼかれびゅ"に所属し、様々なボカロ楽曲をレビュー・紹介する活動をしていたりしています。

ボカロ曲は(当たり前ですが)とにかく曲数が非常に多く、1日に数百以上の新曲が投稿されています。まだまだ出会うことができていない作品への申し訳なさと、己のディグり力(ぢから)の限界値を自覚しつつ、それでもおそらくは通常よりも沢山の量のボカロ楽曲に触れてきた自信があり、それを誇りに思っています。

しかしあたしは、ここ最近のボカロ曲に対して上記にあるような印象を持ったことは一度もなく、むしろ「最近のボカロ曲って編曲がすごい作品がわんさかあるよな〜」とさえ思っていました。

一体どんな流れやキッカケでこのような印象がついてしまったのか。そして、近年のボカロ曲には本当に"フィルやキメがあまりない"のか。
「研究してみてください」と仰られていることですし、純粋に自分の耳や感性で確かめたいとも思ったので、実際に統計をとって検証してみることにしました。




この記事を通して、「音楽にはこんな技術や工夫があるんだ…!!」っていう発見を感じ取って、歌詞やメロディだけじゃない、普段とは違った角度からの音楽の楽しみ方感じてくれたら嬉しいです。

また、現状「ボカロ楽曲には高度な編曲があまりない」というイメージをお持ちであるにも関わらずこんな記事に興味を示してくださる方がいらっしゃるのならば、今回の記事内容や検証結果を経て、ボカロ楽曲の楽しさ・面白さをほんの少しでもお伝えすることが出来ればいいな〜、と心から願っています。






定義・前提条件



まず初めに、何よりも大切で揺らいではいけないものとして、

別に"高度な編曲の基準"とか存在しないし、それをあえて定める意味も必要性も全くない

ということを前提条件とします。

わざわざ定めておくようなことでもないんですけど、音楽に限らず、「良い」と感じる感覚や価値観ってマジで人それぞれすぎるので、こういうのしっかり明言しておかないと"自分の好み=善し・悪しの基準"で考えている人がいたら、今回の話をうまく理解していただけない可能性があると思いまして。少なくともこの検証に関しては、ハッキリと表明しておきたいと思います。




また、今回の検証はあくまでも「ジヲ」という個人が行った主観に基づいたデータ・考察であるという部分につきまして、予めご了承ください。

説得力のある記事を書きたい気持ちは大いにあるものの、如何せん一人で孤独にやってる検証なので、無意識のうちにも個人的な解釈がたくさん入ってしまっています。この後何度もお伝えすると思います。




そして、この検証内容をよりわかりやすく楽しんでいただくために、「フィル」とか「キメ」とかってなんやねんってのを、以下にまとめておきます。

普通によくわからん専門用語ばっかりで話されても、つまらんし鬱陶しいからね。




- 「フィル」って、なに??



一般的に言う音楽の「フィル」というのは、一定パターンのリズムやフレーズを繰り返す際の繋ぎ目や途中にある、ちょっとしたアクセントとなる変化をつけたフレーズのことです。

主に、ドラムの演奏技法を指します。他の楽器の演奏に用いられることも、もちろんあります。英語の意味で言うと、"埋める"。Wikipediaには、"即興的な演奏"とも書かれています、


フィルイン(Fill-In、「埋める」の意)とは、主にドラムセット(広義ではギターやピアノ等の伴奏も含まれる)における演奏技法である。 一定のパターン演奏を繰り返す中でパターンの最後、もしくは楽曲の繋ぎ目の1~2小節で即興的な演奏を入れ、変化をつけることを指し、楽曲のスパイス的な意味合いから日本ではオカズと呼ばれる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%82%A4%E3%83%B3


が、正直個人的には、文字で解説されても全然わかりにくくて「なんのこっちゃい」って思うので、実際に聴いて確かめてみましょう。



このドラムでは、

ドン パッ ドンドンパッ

っていうリズムパターンを8回繰り返しています。とってもシンプルでわかりやすい基本のリズムです。

これだけでも全く問題はないんですが、たった8回繰り返しだけでも、途中から少しずつ「同じリズムだから退屈だなぁ…」って感じてくると思います。




続いて、こっちのドラムも聴いて見ましょう。



さっきのリズムの途中(4回目と8回目)に、

ドン ドパッ ドドチパボコ ダバドゥ〜ン


っていう別のパターンが乱入してきました。

①のただ繰り返すだけのドラムと比較して聴いてみると、②は「ドドチパボコ ダバドゥ〜ン」っていうフレーズの違いがあることで、最後までリズムに飽きることなく聴けたと思います。

この「ドドチパボコ ダバドゥ〜ン」が、フィルです。




「ドドチパボコ ダバドゥ〜ン」が途中に入ってくることで、その前まで繰り返されてきた「ドン パッ ドンドンパッ」というリズムにアクセントが生まれるってことです。

フィルのフレーズには様々なパターンがある、というか、手前まで繰り返されていたリズムと違うパターンならどんな感じでも全然OKなので、「ドン ドパッパッパッ パドド ボ〜ンボ〜ン」でもいいし、「ドン パッ ドンドドッ ドコドコドコドコパッ」でもいいし、「ドカドカドンドン ジャ〜ン ドパッ ドコドコッ 」でもいいし、「レレジギ ガガガガガガガ ギガギガフンフン ガガガガガガ〜」でもいいです。




『"即興的な演奏"で、繰り返しのリズムの退屈さを"埋める"役割』といった感じにまとめてみましょうか。

↑書き手がドヤ顔で「フッ、キマったな…」って言うてるのが透けて見えて、とってもウザイですね。




- 「キメ」って、なに??



続いて、「キメ」についてです。こちらは、楽曲中で鳴っているボーカルメロディや伴奏楽器の全て(またはほとんど)が、同じリズムで重なりあっている部分のことです。

大抵はメインのメロディラインのリズムに合わせて重なっているものを指します。逆に、伴奏隊の全てがキメのある演奏をして、メインメロディだけ好き放題動き回ってることもあります。

これも絶対に耳で聴いてみたほうが理解しやすいです。



こちらの曲の途中に、全ての楽器で、

ダン!ダン!ダン! ダッダーン!

ってやってるところがありました。
多分この数十秒の中で一番印象的で、なんとなく聴いていても頭に残る部分だったと思います。

この「ダン!ダン!ダン! ダッダーン!」こそが、キメと呼ばれる部分です。

「ダン!ダン!ダン! ダッダーン!」がある事で、メロディのリズムが強調され、曲の中にキャッチーでインパクトのあるポイントが生まれるのです。




また、よく聴くと最後の方にも、

デンッ! デレッデンッ!

っていう感じで、ピアノ・ベース・ドラムでキメているところがあります。

さっきのより少しわかりにくいのは、メインメロディの音が、後ろで重なっているピアノやドラムたちと別の動きをしているからです。
こういうタイプのキメポイントは、キャッチーさに加えて楽曲全体の一体感を増してくれます。




ちなみに、キメはアニソンにめちゃくちゃ多く使われている傾向があります。
一番わかりやすいのは、"ルパン三世のテーマ"です。「デデデッ! デデッ! デデッ! デデデデッデッデデッ!」のところとかもう、ハンパなくキメにキメまくってます。




- 今回の検証で対象となるボカロ曲の条件



ここからは、"最近のボカロ曲"の条件を確認していきます。

ただの個人的な解釈による検証ではあるもののかなり多くの情報を集めたので、自分がわかりやすいようにまとめてみたのですが、思ってるより長くなっちゃった。特に気になることがなければ、全然飛ばしてもらって大丈夫です。

そして、何度も言いますが、これはどこまでいっても個人的な主観によるデータです。








まず最初にして最難関であった、「最近」ってどこからどこまで問題。

今回の検証では、普段からボカロ曲をよく聴いているリスナーの方々や音楽制作をしているボカロPやアーティストの方々にはもちろん、音楽に関する知識をそこまで重要視していない人、ボカロ曲をあまり知らなかったりそもそも触れてこなかった人などなど、世代や界隈を問わずたくさんの方々に見てもらいたいと思っています。

その辺りも踏まえつつ皆様にとっての「最近」とはどれくらいなのかを考えてみると、昨今のSNSの流行り廃りは恐ろしいくらいスピーディーで、1ヶ月前のネタですらちょっと古く感じることだってあるだろうし、逆にあたしより何十年も長く生きてきた方々にとっては、たかだか数年なんてあまり変わらないよって感覚も十分に理解出来ます。




そういった感じでいろいろと悩みまして、なるべく沢山の人に納得してもらえる検証にするために、

2022年1月1日 〜 2024年11月30日の約3年間で、YouTubeまたはニコニコ動画にMVが投稿された作品

という範囲条件でやらせていただこうと思います。
なかなかちょうど良い塩梅じゃないでしょうか。




ちなみに全然どうでもいいですが、あたし個人は3ヶ月〜半年くらいのことを「最近」判定してることが多い気がします。音楽については1年ちょいくらいまで範囲が広がるかも。

あと、シャルルとかエイリアンエイリアンとかって、もう8年前の曲らしいです。
まだ全然最近の曲だと思ってたのに…時の流れって恐ろしい…。








それから、どのボカロを"ボカロ"とするかというところについても明言しましょう。

ボカロ文化にあまり触れていない方々にとっては、一体何を言うてはりますのんって話なのですが、ちょっとややこしいので念の為。




"ボカロ""ボーカロイド"という呼び方は、実は様々な歌声合成ソフトウェアの総称で、実はいろいろな種類があります。(厳密には、"ボカロ"も"ボーカロイド"もYAMAHAが商標登録しているので、ハッキリと「これが総称である」と明言することは出来ません。多分"™"とかつけないといけない。)

YAMAHAが開発元の「VOCALOID」(初音ミク、鏡音リン・レン等)、テクノスピーチ等が開発をした「CeVIO シリーズ」(IA -ARIA ON THE PLANETES-、音楽的同位体 可不等)、Moresamplerが開発の「Synthesizer V」(重音テト、小春六花等)、ユーザー個人で開発・公開されている「UTAU」(重音テト、足立レイ等)…。

他にもめっちゃくちゃいっぱいありますし、最近だと重音テトのように複数のソフトウェアから歌声データベースが販売・公開されているボカロもたくさんいるので、その辺りまで正確に説明をしようとすると、全然10万文字くらいまでいくと思います。当たり前に大変なので、詳しいことは省きます。気になる人は調べてみてくださいね。




と、ややこしいことを言いましたが、実際今回の検証においてここはあんまり重要ではないことなんですよね。だって、本当にややこしいので。

従って、『ボカロ=インターネット上に公開・販売されている全ての歌声データベース=広義ボカロ』みたいな感じにまとめさせていただきます。で、『ボカロ曲=ボーカルにそれらを用いて制作された音楽』的な。

とにかく、ボカロ文化に慣れている人にとっては共通認識ですし、あまり触れていない方々に説明してもごちゃごちゃしてわけわからんくなるだけなので、特に気にする必要ないです。








次に、対象とする楽曲の基準を決めます。
「3年間で投稿された楽曲全てを対象に〜」とか、普通に無理すぎますからね。

また、ここでも改めて失礼しますが、この基準はあたし自身の主観も多く含まれています。








まずは、YouTubeから。

YouTubeは、皆様ご存知の通り全世界のユーザーが動画を投稿・閲覧出来るので、そりゃあもうありえん量のボカロ曲があるわけです。この中からどうやって基準を設けようか…。

公式でまとめられているランキング等はありませんし、「ボカロHits」というプレイリストはありますが、こちらは週替わりかつ投稿日時は関係なく話題のものをピックアップしている形式なので、今回に関してはあまり参考には出来ません。




そんな中、夏昆布 様が個人的にまとめられている、再生回数が多い順に並べられた年単位でのボカロ曲リストがございました。

こんなことするの絶対めんどくさいはずなのに、それでもこうして熱心にまとめられているのは、確実に愛に溢れた行動力であるとあたしは考えます。本当にすごい。





こちらの素敵なプレイリストの力をお借りして、YouTube上では、

夏昆布 様が作成した、

「2022年 ボカロ 再生数順」
「2023年 ボカロ 人気 ランキング /Best of VOCALOID」
「2024年 ボカロ ランキング」

の3つのプレイリストの中から、それぞれ再生回数が多い30曲
を対象とさせていただきます。

(夏昆布 様に直接ご連絡が取れそうなメールアドレスやSNSアカウントを見つけられなかったので、"引用してご紹介"という形で失礼致します。)



これ多分なんですけど、手動で設定してるっぽいです。マジで本当にすごすぎます…。








続いて、ニコニコ動画。

ニコニコ動画には、「タグ検索」という機能がございます。基本的にどの動画にも、内容に関連するジャンルやカテゴリを分類分けするための"タグ"が付けられていて、動画投稿者だけでなく視聴者も自由にタグを付けることが出来ます。で、その中で特定のタグがつけられている動画を検索できるよっていう機能です。

これがですね、能動的に音楽を探しに行くための手段として本当に最適で素晴らしいんです。
YouTubeにも「ハッシュタグ」は存在するのですが、話題になっているものや注目されそうなものしか引っかからなくて、(個人的には)使いこなすのはなかなか困難です。

しかし、ニコニコ動画の場合は、タグがつけられている動画"全て"を表示してくれます。また、投稿日時の範囲設定や、「再生回数が多い順」「投稿日時が新しい順」など、表示方法も様々。隅から隅まで探しに行きたいあたしにとって、これは本当に大満足すぎる機能です。




というわけで、ニコニコ動画ではこのタグ検索機能を使って、

「VOCALOID」タグが付けられた動画の中から、2022年・2023年・2024年それぞれの再生回数が多い30曲

を対象とさせていただきました。

マジで検索しやすいので、特にボカロ曲をディグりたいときはニコニコ動画を強くおすすめします。
また、「ボカコレ」という、無料でバックグラウンド再生が出来る音楽に特化したアプリもリリースされてるので、そちらも要チェックです。









そしてこの"ボカコレ"というのは、アプリ名だけではなく、ニコニコが開催するボカロ文化の祭典「The VOCALOID Collection」というインターネット上のイベント名としても使われています。
なんなら、アプリよりこっちがの方が先です。



2020年から始まったこのイベントでは、"ネット最大級のボカロ楽曲投稿祭"と称し、開催期間中にボカロP達がたくさんのボカロ曲を一斉に投稿、それらをたくさん聴いて楽しんで、めっちゃ盛り上がろうぜ〜!っていうことが、年に2回行われています。

期間中に投稿されたボカロ曲のランキングや、スマートフォン向けゲームアプリ"プロジェクトセカイ カラフルステージ feat.初音ミク"をはじめとする様々なメディア・企業とのスペシャルコラボなど、リスナーだけでなく曲を投稿するボカロP側にも嬉しい企画がたくさんあり、毎回本当にすんごい盛り上がりを見せています。




その様々な企画の中から、"ランキング企画"に注目をしていきます。

このランキングでは、開催期間中に投稿された全てのボカロ曲が対象となる「TOP100」、動画投稿を始めてから2年以内のユーザーだけが参加出来る「ルーキー」、既存のボカロ曲をRemixアレンジした曲が対象の「Remix」等、多種多様なランキングが存在します。

こちらは、ただ再生回数が多ければ1位になれるという訳ではなく、その動画へのコメント数や、動画への「ギフト(投げ銭的なやつ)」の量、その他いろいろな事象を含めた、イベント独自の集計方法で順位が決まるそうです。そのため、楽曲への人気や評価に対する信憑性・説得力が非常に強いランキングとなっており、今回の検証においてとっても有益な情報源になると考えました。




てなわけで。

イベント「The VOCALOID Collection」にて、過去に開催された、

・2022 Spring
・2022 Autumn
・2023 Spring
・2023 Summer
・2024 Winter

の5回のうち、ランキング企画「TOP100」「ルーキー」の最終ランキング結果上位10曲
も統計の対象とさせていただきましょう。



2024年は、KADOKAWAへのサイバー攻撃事件の影響で、夏の開催予定が中止となってしまいました。寂しい。
しかし、見事に復活してくれたおかげで次回以降問題なく続いていくそう。本当に楽しみです。

ちなみに、あたしもボカロPとしてほぼ全てに参加しております。ランキングの褒賞がかなり豪華なだけあって、お祭りだって言うのに、ボカロP側だけ毎回殺伐とした雰囲気になっていたりします。
ボカロP達よ、みんなで生きて帰ろうな…。








また、カラオケサービス・DAM公式から発表された、今年カラオケで歌われた楽曲のランキング「DAM 年間カラオケランキング 2024」の中に、"今年発表ボーカロイド楽曲"という部門がありました。こちらに掲載されている50曲も対象とさせていただきます。



ちなみに、2023年以前のランキングにもボカロの部門はあったのですが、配信されている全てのボカロ曲を対象とされているランキングだったので、今回は2024年版のランキングのみを対象とさせていただいてます。同様の理由で、JOYSOUNDのランキングも対象外です。




その他、TikTokやYouTube Shorts等のショート動画の音源として楽曲がよく使われている印象があったり、コアなリスナー達の中で「この曲・ボカロPはアツい!」という声が多かったりする曲を、独断と偏見で個人的に数十曲程ピックアップしてみました。

この辺りは明確に出来る部分が少ないので、人によっては「この曲も話題だっただろ!」とか、「この曲は正直そこまで話題にはなってないんじゃね?」とか、あると思いますが。

うるせー!!個人的な独断と偏見だから許せー!!全部良い曲だから聴けー!!

という気持ちでやらせていただきやす。






検証結果



というわけで、ここから本題です。大変お待たせいたしました。




まずは、今回の統計についての前提条件を簡潔にまとめておさらいします。以下の通りです。


《フィル》
一定パターンのリズムやフレーズを繰り返す際の繋ぎ目や途中にある、ちょっとしたアクセントとなる変化をつけたフレーズ

《キメ》
楽曲中で鳴っているボーカルメロディや伴奏楽器の全て(またはほとんど)が、同じリズムで重なりあっている部分

※補足
キメの箇所は、曲中のおよそ8割以上の楽器が同じタイミングで重なっているものをカウントしています。

《集計範囲》
MV投稿日=2022.1/1~2024.11/30

《対象基準》

①YouTube 夏昆布 様 作成プレイリスト内 再生回数が多い楽曲30曲

②ニコニコ "VOCALOID"タグ検索 再生回数が多い楽曲30曲

③ボカコレ 過去に開催された5回のTOP100・ルーキーランキング 上位10曲

④DAM年間カラオケランキング 今年発表ボーカロイド楽曲 TOP50曲

⑤その他 個人的な主観に基づいて選定した曲




この条件に当てはまる、合計321曲のボカロ曲を対象に、あたしの個人的な主観による解釈の元、楽曲中の「フィル」と「キメ」の有無を一曲ずつ全て確認しました。

フィルとキメについてだけでなく、どういったイベントや企画に参加・投稿されている曲なのかとか、個人的にこのプラットフォームでこの曲よく見かけたな〜とか、その辺りも色分けして分類してみました。主観に基づいたデータであることを踏まえたうえで、「めちゃくちゃ頑張ったんだなぁ」という生暖かい目線でご覧下さい。





そして、この検証の結果、それぞれ以下のような割合になっていることがわかりました。




《フィル》
ある 223曲(69.5%)
ない 98曲(30.5%)

※個人的な主観に基づくデータ


《キメ》
ある 207曲(64.5%)
ない 114曲(35.5%)

※個人的な主観に基づくデータ




どうやらフィルもキメも、全体の3分の2くらいの楽曲に使われているっぽいです。見かけないどころか、なかなかに多い方ではないでしょうか。

あくまでも、一人のユーザーによる己の耳と感覚を頼りに行われた、正確性に欠ける統計ですので、皆様の耳で実際に聴いてみたら、「これにも使われている」「これには入っていない」という意見は必ず出てくると思います。まだまだ音楽的な知識・経験共に未熟者でございます故に、今後より一層精進して参ります。




また、先程の結果をもうちょっと細かく分けてみた表もあります。(グラフ作る為にインストールしたアプリの中にこのタイプの表のテンプレートが見当たらなくて、アイビスペイント使って一から作りました。クッソめんどくさかったです。)


※個人的な主観に基づくデータ


このように細分化してみたとき、フィルもキメもいっぱいある・わかりやすく使われている曲が一番多いという、非常に嬉しい傾向を発見出来ました。

そして、フィルもキメもあまり使われていない曲も思いの外高い割合を占めているというのも、大変興味深いポイントです。

また、何度も何度も言いますが、これはあたしの主観と解釈でしかないデータなので完全には信じないでくださいね。別の方が全く同じ検証を行ったら、あたしの取った統計結果とまるっきり真逆になることだって全然ありえます。




それから、この統計を取っていく過程で、楽曲中のフィルやキメについて個人的に新しく発見があったり、より理解が深まったりした曲がたくさんありました。
ここからは皆様への楽曲紹介も兼ねて、いくつかピックアップして解説していきますね。




- 解説・この「フィル」がすごい!!





創造 / RED
(投稿日 2022.10/7 フィル⋯◎ キメ⋯ - )


まずは、この321曲の中で一番わかりやすくフィルが使われていたな〜と思った楽曲です。

ボカコレ2022秋 ルーキーランキング10位のこちらの楽曲は、洋楽のポップスを彷彿とさせるイケイケでくっきりとしたサウンド感のポップスです。

0:52、2:06に入っているスネア中心のドラムフィルは、シンプルなフレーズながらサビへの期待感を最高潮に引き立てている、格別なアクセントとなっています。

また、このフィルが入るとき、ドラム以外のほとんど全ての楽器がいなくなるので、より一層フィルが目立っていてマジで本当にカッコイイです。"引き算の美学"とは、まさにこの曲のこの部分のことを言うのではないでしょうか。








カルチャ / ツミキ
(投稿日 2022.10/15 フィル⋯◎ キメ⋯◎)


初音ミクの公式YouTubeチャンネル"39ch"書き下ろしの楽曲。作曲は、音楽ユニット・NOMELON NOLEMONとしても活動するツミキさんです。

ツミキさんは元々ドラマーであり、NOMELON NOLEMONのライブでは裸足でドラム演奏をするスタイルで、沢山のファンに親しまれています。

そんなドラマーが作る楽曲ですから、当然ながらフィルもキメも沢山入っています。特にカッコイイのは1サビの最後のフィル。クラッシュシンバル(バシャーンってやつ)を大きく鳴らすロックなフレーズのフィルが入ります。そこからさらに、サビからの熱狂を継続させつつも利き手が体を揺らし続けるのに退屈しないビートへの変化が続きます。

"誰も識らないミュージックに踊れや"という歌詞の通り、バンド主軸の構成ながらダンスナンバーとしてのパワーも兼ね備えている、打撃力の非常に強い楽曲です。









サイバーパンクデッドボーイ / マイキP
(投稿日 2024.2/4 フィル⋯◎ キメ⋯◎)


続いてもドラマーの方が作るボカロ曲。マイキさんはドラマーシンガーとして様々なメディアで活躍しており、YouTubeチャンネルでは、初めて聴く話題の楽曲に合わせてアドリブでドラム演奏に挑戦する"初見でドラム叩いてみた"シリーズ動画が人気を博し、先日チャンネル登録者数100万人を突破されました。おめでとうございます!

また、ゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ feat.初音ミク」内の音楽ユニット・ワンダラーズ×ショウタイムへの書き下ろし楽曲でもあります。

タイトルにあるようにサイバーパンクな雰囲気が特徴的なこの楽曲は、とにかくドラムの目立ち方がとてつもないです。ほぼ全セクションでドラムフィルが入るので、最初から最後までリズムに一切飽きることがありません。言わば、フィルのバイキングみたいな曲です。あたしの好きなフィルは、2:59辺りのラスサビの中間にあるやつです。

さらに凄いのが、マイキさんはドラムはもちろんのこと、ギター・ベース・ピアノ&キーボード演奏もお手の物、MIXやマスタリングと言ったサウンドエンジニアリングからMV動画の制作までご自身で行う、ガチ最強マルチクリエイターなのです。最早、末恐ろしい。








バカ通信 / のすけ
(投稿日 2023.5/12 フィル⋯◎ キメ⋯◎)


フィルが多いのはロックな楽曲だけじゃありません。こちらは、インターネットミームてんこ盛りの"なんか楽しくなってきた"気分を存分に味わえるチップチューンテイストの楽曲です。

「チップチューン」というのは、ざっくり説明すると、ファミコンやゲームボーイ等の懐かしコンピュータゲームBGMみたいな音楽ジャンルのことです。のすけさんも以前、同人でオリジナルゲームを自主制作されていて、そのゲーム内BGMも自作されていたそうです。(多分まだPCでプレイ出来ます。)

そして、チップチューンの難しさでもあり面白さでもある特徴として、"音数が極端に制限されている"というのがあります。これは、昔のコンピュータやゲームのデータ容量がめちゃくちゃ少なかった為に、BGMもなるべく少ない音で制作していたという歴史に由来していて、そういった少ない音数で音楽的な工夫を凝らしていくのが楽しいジャンルなのです。

この曲も、他と比べて音色の種類がかなり少ないです。しかし、フィルを各セクションに大量に配置することで、同じ音色でもキャッチーな疾走感を生み出しているのです。すんげえ。







一輪の詩 / Project Lumina
(投稿日 2022.10/7 フィル⋯◎ キメ⋯◎)


今回の検証のきっかけとなったXへの投稿には、フィルやキメについての他に「シーケンスで埋めるような手法ばかり」といった意見もありましたが、これはまさにその逆で、一つ一つの言葉・音色を物凄く大切にされている一曲です。

Project Luminaは、現在はソングライター・hotalさんのソロプロジェクトです。この楽曲投稿時は、元々hotalさんと共にバンドメンバーとして参加していた3人のグループとして活動されており、楽曲中のギター・ベース、ドラムはそれぞれ、旧メンバーのcuumさんとサポートメンバーのNagiさんによる演奏です。

邦楽の王道を征くサウンドには、楽曲全体を通して盛り上がりの"押し引き"がよく見受けられます。その際、引きのタイミングではドラムはいなくなったりほぼ叩かないことが多いのですが、この曲の2Aメロではアコギが生み出しているグルーヴへのアクセントとして、ドラムから静かなフレーズのフィルが組み込まれており、本当に全ての音が協力し合ってこの一曲を創り上げているんだなと感じる愛しいポイントです。

満月のようなあたたかい輝きを感じる楽曲の中には、全ての世代間の人にこの"詩"を届けるための、ささやかな工夫が施されているのです。








メズマライザー / サツキ
(投稿日 2024.4/29 フィル⋯◎ キメ⋯ - )


そして、シーケンスを埋める手法は、DTM(デスク・トップミ・ュージック)において最大級の強みであり工夫。弱点とはつまり、長所でもあるのです。この曲はまさに、フィルという言葉本来の"埋める"という意味を存分に体現していると思います。

イントロ・サビ終わり〜感想の間にある、目の前がチカチカするような激しく整えられたパートは、楽曲全体のフィルとしての役割を果たしていて、強烈なインパクトを残す大きな要因として機能しています。

また、少し無理やりな論かもしれませんが、このキャッチーな楽曲とchannelさんの描くキャッチーな映像が重なり合って"キメ"として作用することで、バズりの爆弾に火をつけたのではないかとあたしは考えます。

2024年のボカロ最大のスマッシュヒット作。1億回再生というこんなにもデカい数字を、まさかサツキさんが叩き出すとは…。2020年頃からの一ファンとして、本当に本当に嬉しく思います。涙。




- 解説・この「キメ」がすごい!!





愛包ダンスホール / 幽世55番街
(投稿日 2023.12/16 フィル⋯◎ キメ⋯◎)


キメについても、おすすめを紹介していきます。まずはこちらも、321曲の中で一番わかりやすいキメが沢山ある楽曲から。

2018年から活動するバーチャルYouTubeユニット・HIMEHINAのオリジナル楽曲の、作曲・幽世55番街さんのチャンネルから投稿されているVOCALOIDバージョンです。こちらも、2024年は大バズりでしたねぇ。VTuber文化も大好きなあたしにとって、2024年は本当に感慨深いバズりが多かったです。

この曲最大の凄さは、なんと言ってもそのキャッチーさ。楽曲の全セクションがサビなんじゃないかってくらいに、毎秒頭に残るメロディとリズムが展開されていきます。

サビ直前のフレーズ「パパッパッパッパパ パイ!♥(パイ)?」、サビの途中にある「頭んなかパッパラッパッパー」等、一番キャッチーにいきたい部分の全てで期待を遥かに上回るキャッチーがやって来るので、めちゃくちゃ計算し尽くされてるんだなぁ…と、恐れ慄いています。








ふぁんぶる! / 藤原ハガネ
(投稿日 2024.5/30 フィル⋯〇 キメ⋯◎)


2024年のバズといえば、こちらも。重音テトが本当に強い年でしたね。個人的には正直意外すぎる流行で、今も尚驚き続けている最中です。

オーケストラヒット(荻野目洋子さんの『ダンシングヒーロー』のイントロで使われてるシンセサイザーの音)風の音色を使った独特な圧のある疾走感が特徴なこの曲は、サビで面白い手法を使ったキメが採用されています。

1サビで解説していきます。中間地点にある「傷んでるネイルを突きつけて」の部分、『突・き・つ・け・て』の"・"にあたるところだけ、ボーカル以外全ての音量が一瞬にして0になります。しかも、徐々に小さくなったり余韻を残したりすることなく、完全にブツ切りしています。これは間違いなく、打ち込みのDTM作曲でしか出来ないキメの手法であり、時代の特色の一つでもあります。

新時代発祥の奇抜なやり方には、どんな事象にもイロモノ扱いの怪奇な目が向けられます。しかし、そんなくだらない価値観に臆することなく、そのやり方と意志を"モザった中指で貫く"ことで、時代の流れや象徴が確立されていくのです。








ざらざら / ハイノミ⌘
(投稿日 2022.4/22 フィル⋯〇 キメ⋯◎)


DTMらしさのあるキメといえば、やはりハイノミ⌘さんのサウンドでしょう。なんとこの楽曲投稿時、作曲歴1年だったらしい。バケモン。

一番わかりやすくてキャッチーなのは、Bメロのキメ。「まだ足りないです 足りないです」でキメた後、時計の針の音だけが響き渡るという、なんとも粋なパートです。

また、ラスサビの導入部分にも、伴奏隊のキメとスタッター(一部分を断片的に切り抜いてループさせて、印象的な効果をつけられるエフェクト)を組み合わせた、グリッチのような印象のバッチバチにかっこいいところがあります。

あたし自身が長い間こういう音楽を聴いて音楽への理解を培ってきたというのもありますが、ハイカラでハイセンスな音楽をちゃんと「かっけぇ」って思える人間で良かったな〜と、この曲を聴いていてつくづく感じます。








フューチャー・イヴ / sasakure.UK
(投稿日 2022.6/17 フィル⋯◎ キメ⋯◎)


こちらは、クリプトン・フューチャー・メディアとTOKYO MXが主催する一大イベント、初音ミクを取り巻く創作文化の発信を行う"ユーザー参加型文化祭"・マジカルミライの2022年テーマソングであり、同イベントの10周年アニバーサリーソングです。

初音ミクという文化から始まった創作の形は、少し歪で、それが堪らなく美しく、我々はそこに未来への希望を見出している。そんな気概を感じ取れるこの楽曲には、テクニカルなリズムのキメがあちこちに散らばっています。

「3連符」という、1小節を3等分するシンプルながらも合わせるのが難しいリズムでのキメが、イントロやサビ前にたっぷり。複雑なのにキャッチーって、なんて素晴らしいんでしょう。

ちなみに、演奏はsasakure.UKさんがコンポーザーを務めるバンド・有形ランペイジの方々によるものです。マジで意味わからんくらいテクニカルなことしまくりの最高なバンドなので、こちらも要チェックです。








あちこちデートさん / 駄菓子O型
(投稿日 2024.2/22 フィル⋯◎ キメ⋯◎)


テクニカルな楽曲とくれば、最近は専らこの"あちこデ"に夢中です。

こちらは、"ちょっと変わったポップス"をリリースするインターネットレーベル・ゆくえレコーズの発端であるコンピレーションアルバム「合成音声のゆくえ」収録楽曲です。2023年春のリリース直後からコアなリスナーの間でひっきりなしに話題となっていて、満を持してMVが投稿された日はお祭り騒ぎでした。

コード進行の組み合わせとそれに込められている意図が本当に尋常じゃないレベルで細かくてヤバいのですが、今回は1サビ終わりの間奏パートについて。ここでは、ドラム以外の全ての楽器がユニゾン(複数のパートが同じ音程で歌ったり演奏したりすること)をしています。キメは、主にリズムにメリハリをつけるテクニックなのですが、ジャズ系のオシャレ極めすぎ楽曲には、こういうやり方のキメもあったりします。

そして、なにより凄いのが、この楽曲がボカコレ2024冬 ルーキーランキング第1位に輝いたということです。これだけインターネットと打ち込み系の技術の近くにある音楽ジャンルの祭典で、達人的テクニックてんこ盛りミュージックがスマートにテッペンを掻っ攫っていく気持ち良さったらないです。今後のボーカロイド音楽への素敵な影響も、確実にあることでしょう。








百花繚乱☆スターマイン / 雪乃イト
(投稿日 2023.8/4 フィル⋯◎ キメ⋯◎)


先程、キメについての解説をした際に、これはよくアニソンに入ってる技術なんですって話を少しだけしましたが、この曲を聴けば、その傾向に納得がいくと思います。

サビの終盤で2回もキメポイントがあります。AメロBメロにも、欲しいところにしっかりとキメが入っています。リズム作りというか、そもそもの曲作りが本当に上手すぎます。

あとこれはフィルもキメも関係ないんですが、アウトロでかき回し(ライブとかでよくある、曲の終わりにジャカジャカドコドコバッシャーンって鳴らしまくるアレ)をしないで、オシャレな余韻を残して終わるセンス、マジで半端ないって。

これはもう、Synthesizer Vという音声データベースを持つ3人のキャラクター、小春六花・夏色花梨・花隈千冬が主人公の青春学園アニメのOPです。一番の問題は、そういったアニメが存在しないこと。次に問題なのは、雪乃イトさんはこの記事が公開された時点では、まだアニソンのタイアップをやっていないことです。許せない。世のアニメ制作会社は一体何をしているんだ。




- フィルもキメもない曲って、どんな感じ??



ここまで、たくさんのフィルやキメについての考察(半分くらい好きな曲についてのオタク語り)をしてきましたが、じゃあフィルもキメも全然使っていない場合の曲って、一体どんなものがあるのでしょう。








キッカイケッタイ / メドミア
(投稿日 2022.7/31 フィル⋯ -  キメ⋯ - )


メドミアさんの代表曲の一つ。しっかり聴くと1〜2回だけスネアでドコドンとやっていますが、おそらくこの中ではかなりわかりやすくフィルもキメもほとんど入っていない楽曲だと思います。

しかし、この楽曲にはそれを必要としない、メロディラインの吸い込まれるような魅力があります。イントロ・間奏・アウトロが全くない構成なので、楽曲として聴き応えを生み出すにはビートにもっと工夫を凝らす必要があるという考えに陥りがちですが、純粋にめちゃくちゃキャッチーなメロディとボーカルがあるならば、実はもうその問題は解決出来るのです。

また、サビの後半では転調(楽曲全体のキーが上下どちらかに平行移動すること)をしています。これをすることで、フィルもキメもなくたって、いとも簡単に楽曲の雰囲気をコントロールさせられます。そして、その繋ぎ目にキャッチーなメロディが被さることで、違和感のない変化の流れが実現可能になるのです。

ボカロ曲にはもちろん、世の中にある身近な音楽の多くにはボーカルがいます。そして、ボーカルは楽曲の中でも特に目立ちやすく、ボーカルを目立たせる曲作りというのもあるくらい重要なポジションです。それ以外は不十分でも良いということは断じて有り得ませんが、ボーカルの力量で申し分のない魅力が完成されたのなら、その他の露骨な業は逆にノイズになったりもしますから、この編曲にはそういった真相があるんだろうなと考えます。








みなごろし / なきそ
(投稿日 2024.2/7 フィル⋯ -  キメ⋯ - )


ダークな曲調と重たい負の恋愛感情の世界観に定評のあるなきそさん。こちらの楽曲も、フィルもキメも全く入っていないことが伺えます。

この曲に限らず、なきそさんは毎回EDMの楽曲構成をされます。ヴァース(=Aメロ)で相手に呼びかけ、ビルドアップ(=位置的にはBメロ、EDMのだんだん盛り上がっていく感じのパート)で不安定な感情が露出し、ドロップ(位置的にサビ、EDMの一番キャッチーなフレーズが来るパート)で吐き捨てた後、ラスサビで一気に詰め寄るのが定番です。

楽曲自体の構成と確立された世界観を一番感じさせてくれる要因が、音数の少なさ。この曲のドロップ部分では、全部合わせても僅か5種類程度の音しか使っていません。これこそが、なきそさん特有のLike a メンヘラな"内なる狂気"。このバランスこそが、黄金比率なのです。

表現のために音や構築を追加することもあれば、取り除くこともあります。この楽曲は、間違いなく後者の作品です。そして、それは見事に大成功し、唯一無二の魅力として沢山の視聴者の心を揺さぶっているのです。








世界で一番幸せな死に方 / 故歌
(投稿日 2023.3/19 フィル⋯ -  キメ⋯ - )


先程の2曲とは打って変わって、優しく伝う涙のようなピアノバラードです。あたしは最近、バラードがとても好きです。皆さんも、こういう特定のジャンルのブームが来る時って、あると思います。

この曲は聴いての通り、そもそもピアノ以外の楽器使っていません。なので、ドラムで使われる技法を持ち出してどうのこうの言うことすら、野暮な話です。リズムのことに関して何か語るのであれば、リタルダンド(だんだんゆっくりにしていくこと)とかその辺りです。

ボカロ文化の視聴者層は、10〜20代が確実に多いはずです。その中でも、10代前半の方々は、インターネットやSNSの普及によってここ最近特に増えていることでしょう。そんな思春期真っ只中の不安定な心や感受性に、共感したり背中を押してくれたりするこの曲のような雰囲気も、一つの"ボカロらしさ"として確立されていたりします。

ボカロ曲の良さを他人に伝える時、あたしは毎回、「ボカロが使われていれば、それはもう"ボカロ曲"なのである」という話をします。ポップスでもロックでもテクノでもバラードでも、なんでも引っ括めてしまえるチート的特性と受け皿の広さは、このジャンルの最大級の魅力の一つなんです。





考察





ここまで膨大な量の楽曲に対して、特定のポイントに焦点を当てた聴き方をしていると、なんとなく傾向が見えてきたり、そうなっている理由を探りたくなったりするもんです。

あたしの拙い考察を、いくつか皆さんに共有させてください。




- そもそも必要が無い



「そんなに狂ったように熱心に調べて、行き着いた考察がそれとはどういうつもりだ!」と怒られてしまうかもですが、寧ろこんなにいっぱい聴いたからこそ言えることなんです。




ここ絶対にフィルを入れられるだろってタイミングとか。ここにキメがあったらめっちゃ良さそうな雰囲気とか。
ボカロPとして、そういう「入れるか入れないか微妙なラインだな〜」ってポイントを感じる楽曲が、個人的にですがそこそこありました。

でもそういう場合って、大抵要らないんですよね。一旦それを作ってみて、「やっぱ違ったわ」ってなって元に戻す。作曲あるあるだと思いますし、音楽以外でもこういうこと多いでしょう。

頑張って最高なものに仕上げようと色々と工夫を凝らしてみて、突き詰めて突き詰めて、最終的に出来上がったものが、結局シンプルな形に行き着くという経験、皆さんの中にもしたことある人いると思います。




フィルもキメも、音楽をより良いものにするための小さなテクニックの一つに過ぎません。大量にぶち込めばいいってもんではなく、"足りないところに足していく"くらいのスタンスである方がちょうど良いです。

甘いのが好きだからといって砂糖の塊を投入したら、それまで丁寧に拵えてきた全ての味付けは無に帰し、口に入れれば舌が痺れ、無理に飲み込めば糖尿病は免れないでしょう。つまりそういうことです。




- 「ブレイク」という技法



それから、この321曲を聴いている中で、フィルとかキメとか関係なしに一つ、めちゃくちゃ強く感じたことがあります。

それは、"ブレイクが使われている楽曲が非常に多い"っていうことです。




「ブレイク」というのは、曲中で全ての音が鳴っていない時間のことです。全部の楽器の演奏を一斉に止めるって言い方の方が伝わるかも。先程ピックアップした曲の中だと、『カルチャ』『メズマライザー』『ざらざら』『みなごろし』辺りはだいぶわかりやすいと思います。

音が突然消えるというのは、非常に強烈なインパクトを与えることができる上に、リズムやグルーヴだけでなく、それまでの流れや雰囲気も全てリセット出来るので、シーンチェンジとしての効果も遺憾無く発揮されます。

特にサビの直前や終わり際に、フィルやキメの代わりとして、全ての音がバサッと消えるタイミングがある楽曲が多かったです。これはなんとなくの印象ではなく、マジで大量にありました。




フィルやキメと同じように、こちらも編曲をする際の細かなテクニックの一つです。ただ、2つと違って"音を減らす"というタイプの手法なので、音楽経験の有無を問わないDTM音楽の文化圏では特に、初心者でもプロでも試してみやすいという意味で多くの楽曲に使われているんだと思います。

もちろん、タイミングや無音の長さによって良くも悪くも印象が違ってくるし、マシマシに入れすぎたらくどいし、思ってる以上にバランス感覚のあるセンスが必要かもしれないです。"無音こそ、音楽"といった考え方もアーティストによってはあるくらいですから。





- 【※追記あり】消費も供給もスピードが加速している



ここから先の考察並びにその文章表現は、公開後、大変多くのご指摘・ご意見をいただいた部分になります。あまりにも歪曲した表現を使ってしまった一部を削除しておりますが、残っている文章は原文そのままです。

以下に続く原文において、クリエイターの皆様の楽曲制作に対する拘りや熱意を軽視したり、"フィルやキメがない曲は、コストパフォーマンスを重視して作られている"という解釈を伝えようとしていた訳では決してないと言うことを、強く明言させてください。

そのまま残している理由と致しましては、「自分で勝手に始めた、"自分自身の主観・価値観・解釈に基づいたデータの結果"に対する考察であったから」です。

修正後に特に繰り返してお伝えしている「個人の主観に基づくデータと解釈である」という部分を承知の上、私自身の配慮が欠如しているという前提の元、「このような形で表現をしてしまい、沢山のクリエイターの皆様の"楽曲制作に対する熱意"を軽んじるように受け取られてしまう事実があった」という観点で閲覧ください。




これは芸術としてはもちろん、商品としての話でもあります。

利き手が、能動的かつ気軽に音楽に触れられる場所は、今の時代だとSpotifyやApple Musicといったサブスクリプション音楽配信サービスが一般的です。また、TikTokをはじめとするショート系の動画に音源として利用されているのがキッカケで、広く認知されていく流れも多く見受けられます。

この2つの共通点として、どちらも自らの意思で視聴の取捨選択が出来るという特徴が挙げられます。
音楽以外にも、多種多様なコンテンツに比較的容易く触れることが出来てしまう現代では、好きなものすらも整理しながら楽しんでいかなければ、意識せずとも情報過多で脳がパンクしてしまいます。直感的に引っかからなかったものを指一本の一動作でスルー出来るのは、そんな現代の情報社会において合理的な機能です。




そんな現代ですから、消費スピードは凄まじいですし、それに伴って供給側も必然的にスピードアップしていかなければなりません。

作曲の段階で出来る工夫として、ループ的な要素を多用したり、予めテンプレートとなる構成を用意したりして、制作の効率化を図っているのではないでしょうか。そして、歌モノの要であるメロディラインとボーカル自身の歌声の特徴を扱って個性を出していく、というスタイルが今後もっと増えていくのではないかと、今回の検証を踏まえて感じました。





まとめ・感想



さて、今回の検証でわかったことを、簡潔にまとめていきましょう。

2022〜2024年のボカロ曲について、あたし自身が個人的にめちゃくちゃ理解を深めることが出来ました。

この記事って、本当にただただ一人で好き勝手にやったことを好き勝手にまとめて、ひたすら自己満足してるだけでしたね。


・"最近のボカロ曲"の6〜7割には、ちゃんとフィルやキメといったリズムに関する技法・テクニックが使われている

・その中でも、フィルとキメの両方がわかりやすい形でたくさん使われている楽曲が多い

・ブレイクが用いられている楽曲が、フィルやキメの有無を問わず非常に多い

・フィルやキメが使われていない楽曲には、そもそも使う必要性がないくらいにアーティスト性や楽曲の世界観が確立されているものが多い




この検証を始めるきっかけとなった件のポストに対して、「そういう見方も全然あるし、そこまで熱心に興味を持ってないことなら仕方ないよね〜」と広い心で受け止めてはいるものの、正直内心ではブチギレ散らかしていました。だからこそ、こんな狂ったことを自ら進んでやり始めたんだと思います。

そんな稚拙な感情からスタートしたとはいえ、こんなにも大掛かりな研究・検証をしたのは、生まれて初めてかもしれません。

本当にただの個人的な主観に基づいた正確性に欠けるデータであり、専門的な知識への理解度はまだまだ浅いながらも、「好きなジャンルについてのことならば、ここまで本気になってあれこれ考えられるんだ…!!」と、あたしの中にあったオタク的探究心とそれを確かめるための行動力に、あたし自身が一番驚きました。こういう気持ち、歳を重ねてもなるべく忘れたくないものです。




また、今回の記事の執筆にあたり、ボカロリスナーの「め」さんにフィルやキメの定義についての添削を、ボカロPの藤原ハガネさん・Project Luminaのhotalさんにそれぞれ、ピックアップ紹介文の確認と添削を、ご協力いただきました。お忙しい中、本当にありがとうございました…!!

ボカロPお2人の新曲や今後のご活躍、心から応援しております。また、「め」さんは今回のアドベントカレンダーに記事の執筆で参加されていますので、こちらも是非、チェックしてくださいませ。




最後に、今回の検証結果を経て考えたあたしなりの結論を、大きな大きな声で発表ドラゴンさせていただきたいと思います。






最 近 の ボ カ ロ 曲 に は 、

高 度 な 編 曲 が 、

い っ ぱ い あ る ! ! ! !










孤独なオタクによる、長い長いお気持ち表明大検証に最後までお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。こんなもの丁寧に読んでる暇があるなら、絶対にもっと有意義な時間の使い方が出来たはずですよ。何してるんですか、勉強してください。

今回みたいに、ボカロに関する話題で個人的な興味が沸き立つようなことがあったら、またこうやって20000を超える文字数の超スーパーウルトラ巨大記事を書くかもしれません。


え、あたし20000文字も書いたの…!?!?
やっば、キッショ。普通に引くわ。

多分もうやらないです。解散。






以上、大漠波新の偽物、偽漠波新がお送り致しました。

バ〜クバクバクwww
これがありのままなのバクよ〜www

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