「怪談の演出」
みなさんは、『怪談』に対してどのような印象をお持ちでしょうか?
令和において『怪談』の立ち位置が分からない
(古いのかまだまだ現役なのか)
のですが、自分にとっては今でもホラーの最前線だと思っています。
ホラーと聞くと、読み物、映像、音声、
今じゃVRなんてものまで幅広くありますが、
どれもこれも始まりとして文章に書き起こさないと、
物語を作ることが出来ません。
その文章の再現性を高めるやり方として一番なものは、
体験させてしまうことなのです。
近年は、
『第四の壁』として創作と現実を融合させる技法が紹介されていますが、『怪談』のほとんどは実話として話されているものばかりです。
いわば、元より『第四の壁』が存在しない。
現実の話なのです。
最近、以前から気になっていた『怪談BAR』という場所に行ってきました。
当然、「生でプロの怪談を聞きたい!!」という気持ちが半分を占めていますが、もう半分は、「友達に紹介できるようなBARに行っておきたい…。」
という小さな虚栄心ゆえに気になっておりました。
彼女と一緒に外でお酒を飲んで、
「もう一軒行こう」という気持ちのいい流れのなか、
私は例の「怪談BAR」を提案してみました
「いいじゃん!行こう!」
と、案外サクッと事は進み、
そのBARが入っているビルまで歩いていきました。
店の前まで行くと、小さなヒモ看板が吊るされていました。
『現在、怪談中のためお入りをご遠慮ください。』
的な文言が書かれていた気がします。
店の前で談笑していると、店の中から「ギャー」「ガタン!」
などとホラー演出でよく聞くSEや音声が聞こえてきました。
「結構、本格的な演出するんだね!」
と怖がりながらも楽しみにしていると、
「お待たせいたしました。」
と店員さんがドアを開け、案内していただきました。
店の中は、間接照明のため暗くなっており、
細部までしっかり見通せなかったのですが、
L字型にソファータイプの席が3つずつ配置されており、
その対面にやわらかいソファークッションのような席が置かれていました。
L字の真ん中の部分に特等席と思われる大きなソファーがあり、
その先にポツンと椅子が一つ置かれていました、
店の装飾も凝っており、壁一面に「般若心経」が書かれていたり、
等身大の人形が阿鼻叫喚の表情で子供の人形を抱いていたりしていました。
特に、多目的トイレの装飾は、ホラーゲーム『P.T』を想起させるような
陰鬱で暗くどこか穢れを感じるような青白い光のなかで、
いたるところに人形や手形があり、彼女はかなりびっくりしたようです(笑)
お客さんはそこまでいなかったので、怪談が始まるまで、
冊子やモニターに映っている店の紹介動画、小道具(人形、神棚)
などを見ていました。
しばらくすると、店員さんから声をかけられました。
「そろそろ怪談が始まりますので、壁側のお席に移動してください」
私は壁側のソファーに腰を掛け、ぽつんと寂しく置かれている椅子を
見つめていました。
次第に照明が暗くなっていき、テーブルの上の小さな電気キャンドルの光しか見えなくなってくると、椅子の上のモニターから映像が流れ始めました。
それは、映画『リング』の呪いのビデオのように怖い映像を重ね合わせているもので、チープなようで作り込まれた映像に思えました。
映像の終わりに女性の青白い顔がアップで映り、「ギャー!」という音声が流れた後に怪談師が登場し、怪しいスポットライトの灯りが彼に当たりました。
そこからは…。
まぁ、正直なんてことない怪談でした。
そういうと、「面白くなかった」「怖くなかった」
と思われるかもしれませんがそういう意味ではなく、
怪談単体がすごい怖いわけではなく、いろんな相乗効果で
ホラーを『演出』していたんですよ。
怪談の特徴は、実話怪談形式で、なんてことない世間話から入り、
その後に知り合いの~、地元の~、ここら辺で~、みたいな語りにつなげる。
正直、怪談を聞きすぎて「どんなパターンかな~」なんてメタいこと考えながら聞いてたんですが、
ここの怪談BAR、要所要所で『恐怖演出』がありまして。
怪談が始まる前に、モニターから流れた映像のように、
ここの怪談BARでは怖いポイントでは、
ある程度ジャンプスケア(びっくり)演出が入るようです。
例えば、下記のようなものが見られました。
光が暗転して、のちに赤い光が怪談師を照らす
「ガタン」という音と共に天井につるされた人形が動く
モニターにノイズが入る
二時間しかいなかったので、まだ色んなパターンがあると思うが、
私的にはここがとても斬新でよかったのです。
正直、怪談にも好みがありますし、初心者からオタクまで楽しめるようにするためには、ある程度こういった演出が必要だと思います。
誰もが出来るだけ怖い体験をできるように考えられたものだと思いました。
そうして、1回目の怪談を聞き、怪談師さんと少し談笑できる時間があったので、彼女と一緒に話していたところ、
「いやー、もうめちゃくちゃびっくりしました!!
あの、店員さんたちが通った時ホント怖かったです!」
私と怪談師さんは、首をかしげました。
「いやーそれは知らないですけどね(笑)」
「えっ!やめてくださいよー!うそだうそだ~!」
「結構、このBARで見えちゃう人とかもいるんで(笑)」
そう言って、他のお客さんのところに怪談師さんは行ってしまいました。
彼女曰く、「体をかがめた人が前を何度か通った」
と言うんですよね。
ただ、わりかし俯瞰的に鑑賞してた私が見逃すか?
しかも、店員さんが前を通るなんていう地味で気が散るような演出をするかな?
その疑問の払しょくをしたいのもあり、
もう一時間滞在し、再度怪談を聞くことにしました。
先ほどの怪談師さんと同じ人が再度務め、怪談が始まりました。
先ほどと同じ演出、違う演出が入り交じるカタチとなり、
最終的に人が通る演出はなく終わりました。
「なんだ、今回はなかったのかな。」と心の中で思い、
十分楽しんだので、会計を済ませ、帰ることにしました。
帰り道、彼女と先ほどの『怪談BAR』の話で盛り上がりました。
「やっぱり、生で聞くと面白いね。」
「ね!特に演出!びっくりした~!」
「そうだね。怖かったね、また行きたいなー。」
「あの通る人たちのお面どうやって光ってたんだろうね~」
私は見ていません。
現実で起こりうる恐怖の演出は、いろんなものがあります。
それは当然、老若男女、誰にもつうじるものにします。
もし、見える人にしか見えない演出というのがあれば、
それはもう演出の域を超えた恐怖そのものだと思います。