創作 新宿三井ビルのど自慢
株式会社三井不動産リフォーム 相楽春子(29)の場合
どう考えてもPerfumeだ。女子3人で歌うなら、それしかない。
ベタにいくなら「ポリリズム」だし、盛り上げるなら「チョコレイトディスコ」だ。
夏の夜に舞うシュレッダー紙吹雪の中、合いの手の大合唱が、目に浮かぶ。
先週、バッサリとショートにしたところだから、のっち役は私だろう。
「いや、春子先輩、それは違うんすよ。それじゃ、マクロミルに勝てないっす」
岩橋は、めんどくさい後輩だ。「いや、でも」とか「わかるんですけど」とか否定から入るタイプで、言っていることが的外れでもないからこそ、めんどくさい。
「確かにいい曲だし、僕も好きですよ。でも、会場のお客さんと審査員の年齢層思い出してくださいよ。僕らより年上のオジサンたちでしょ?数字で言うと日本で一番CDが売れたのが1998年。宇多田ヒカルがデビューした年です。やっぱり、平成前期から1998年までか、昭和歌謡が鉄板なんすよ。平岡さんから、過去5年の決勝進出者のリストもらって確かめたんですから、間違いないっす。」
「平岡さんって誰よ」
「いや、22階のマクロミルの平岡さん知らないんすか?『三井ビルのど自慢』に異様な情熱を捧げてる人がいるんすよ。もっと勉強してくださいよ。決勝行きたいでしょ?」
「歌いたい曲、歌っちゃダメなの?カラオケってそういうもんじゃないの?」
「正論は聞いてないです。僕は、勝ちたいのか、勝ちたくないのかって聞いてるんです。」
まったく目線を外さない。なんだ、その情熱は。ちょっとは、それを仕事に向けろ、バカ。
「なんで、キャンディーズの『春一番』にしましょう。みんな知ってて、キャッチーで、合いの手も入れやすい。先輩の声質的にも絶対、合います。俺、好きなんですよ、先輩の声。フロアのメダカに話しかけてるときのちょっとハイトーンな声もいいですよ。よく聴こえるんですよ、席的に。」
あー、めんどくさい、めんどくさい、めんどくさい。勝手に聞き耳立てんじゃねーよ。
「もう、わかった。わかったから。でも、曲は変えよう。」
「何にするんすか?」
曲名を伝えると、ニヤリと笑った。うざいが、エクボと泣きぼくろのバランスはいい。
「なるほどですね・・・ 先輩、これ、間違いなく決勝です。忙しくなりますよ」
あいつは あいつは かわいい 年下の男の子