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『23年ベスト:小説編』

今年読んでグッと来た10作。

なお、単純に今年自分が読み終わった小説から選んでおり、今年刊行された本に限ってません。

1. 乗代雄介 『それは誠』

乗代雄介の作品はここ数年毎度ベストに推してるので評価を厳しめにしようと思いつつ結局今回も著者の企みにやられて泣いてしまったので選出せざるを得ない。
「青春物&時刻表ミステリ」と聞いてて「そんなわけある?」と思って読んだら本当だった。
仮に物語が人工的だと言う理由で芥川賞を獲れないのだとしたら別にそんな賞要らないのではないか。

2. ドン・デリーロ 『ホワイト・ノイズ』

デリーロ通では一切ないから正確な所はわからないけど、読みやすさでは著者随一の作品ではなかろうか。
ヒトラーに心酔・擬態した主人公が繰り返される”波動と放射”の中、果たして死の恐怖を克服できたのかできなかったのか。
「今こそ読まれるべき小説」なんて惹句は山程あるけどこの作品こそそう称されるに相応しい。

3. モアメド・ムブガル・サール 『人類の深奥に秘められた記憶』

エピグラフがボラーニョと言うだけで微笑んじゃう人はもれなく好きになる小説だと思う。
20名弱の主要登場人物がいずれも印象的で特に女性陣のキャラ立ち具合がお気に入り。
複数の語り手が存在する三つの書と四つの伝記素からなる構成はシンプルだけど奥深い。

4.  アラスター・グレイ 『哀れなるものたち』

ずっと絶版だったけど待望の文庫化でようやく読めた。
どんでん返しと言うわけではないけどラスト近くの反転とほんとのラストでのもう一捻りの妙。
このメタメタなメタフィクションをランティモスがどう映画化してるのか今から楽しみ。

5. アリ・スミス 『五月 その他の短篇』

クラリッセ・リスペクトルのエピグラフで心掴まれ、「五月」や「天国」の世界観に浸ってるといつの間にか「始まりにもどる」で季節が一巡。
言葉と戯れ、ストーリーに翻弄されるのも楽しい。
アリ・スミスは短編書かせたらケリー・リンクに並ぶ程、途轍もない作家だと思う。(ジャンルは違うが)

6.  ローラン・ビネ 『文明交錯』

自分は歴史に疎いので色々史実を調べながら少しずつ読んだのだけど批評性とエンタメ性を見事に兼ね備えた歴史改変物。
個人的には第4部が半分くらい占めてくれてもよかった気も。(セルバンテスの歴史改変『ドン・キホーテ』に流れ込んだら最高だった)

7 . 柴崎友香 『ビリジアン』

かなり古い作品ですが今更読了。
十歳から十九歳の日々を綴る小説、いや散文若しくはスケッチか。
ただそれだけなんだけど語られない部分に秘密があったりもする。
めちゃくちゃ凄いことをこの短い小説の中で成し遂げてる気がする。

8 . ウラジーミル・ソローキン 『愛』

私的には『ロマン』より圧倒的に『愛』だった。

9. マリーナ・エンリケス 『寝煙草の危険』

スパニッシュ・ホラー文芸としても現代アルゼンチン文学としてもハイレベル。
同シリーズのエルビラ・ナバロ『兎の島』も甲乙つけ難く良かった。
一生大切に読みたいと思わせる装丁も素敵。

10. カン・ファギル 『大仏ホテルの幽霊』

エミリー・ブロンテとシャーリイ・ジャクスンが出てくる最高に俺得な韓国文学。
騙りの語りをずっと読まされてるようで、実はそうでもないような。
「恨」がテーマでこんなに終わり方するとは。

以上今年の10冊でした。

今年も大して読書をしてないので大層なことは言えません。『火山の下』も『チェヴェングール』も読めなかったので。

ただ常連のリチャード・パワーズや祝邦訳復活のチャック・パラニュークが結果選外になったのはちょっと驚きでした。

あと、SFに属するタイプの小説が入ってないと言うかそもそも読んだ記憶に乏しいのも意外です。来年はイーガンやプリースト本が翻訳されると嬉しいです。

因みにベスト10には入れませんでしたが、ミステリー周辺の小説(主に翻訳物)は今年かなり読みました。どれもハイレベルでしたが以下あたりが特にお気に入りです。

ジョセフ・ノックス 『トゥルー・クライム・ストーリー』
ピーター・スワンソン『8つの完璧な殺人』
ユン・ゴウン 『夜間旅行者』
カトリオナ・ウォード 『ニードレス通りの果ての家』
ジャニス・ハレット 『ポピーのためにできること』
ミシェル・ビュッシ 『恐るべき太陽』
京極夏彦 『鵼の碑』

来年は新作、旧作問わず、もっと貪欲に読書したいと思いつつ、体力・忍耐力の低下もあり、今年以上にどんどん積んじゃうと思います。(開き直り大事!)

-END-

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