【NHKが】濱津社長、そりゃないよ(セレスティアル航空)【斬り込んだ】

まさかNHKが動くとはね

 これまで各地方メディア見識のある一般人の皆様の情報によるしかなかったセ航空の問題に、ついに大きくメスが入れられた。日本で最大手と言えるメディア・NHKが取材内容を公表したのである。
 その特集タイトルも「ヘリコプターが飛ばなくて」。やるじゃん。
 筆者はテレビを所有しない生活を20年続けているので放映内容はこの目で確認できなかったのだが、(筆者が勝手に)最有力識者(だと思っている所の)方が「記事の内容とほぼ同じ」とツイートされていたのを見て、安心してこのエントリをまとめることにした。
 え、誰だって? 千葉急行バスを見出したあの方ですよ。

「記者氏も責任を感じていた」?

(福井放送局記者 宮本雄太郎・ディレクター 大川祐一郎)
上記記事中に署名あり

 おそらくこの件について、福井放送局で専任担当になっていたであろう宮本記者。記事を読めば、GW明けの段階で「まさかという動揺を持っていたことが分かる。

 今振り返って考えれば、どう考えても安すぎる予定運賃、やや……どころではない無理のある航行時間。それでも福井県福井空港振興協議会等の関係機関にとっては、大義名分である「福井空港の利活用」という面で「具体的なプラン(らしきもの)」を提示してくれたセ航空という存在に一縷の望みを見出さざるを得なかったであろうし、各報道機関もその花のある話題を受けて大々的に報じたくなるのも無理からぬ話。特に地方の報道機関は地元密着型がほとんどで、自慢できることはガンガン取り上げてチヤホヤする傾向が強い。

 そうした状況下で、初弾の一報を争うように発出したNHK福井放送局福井新聞福井テレビの各者にはこれと言った落ち度はないものと、さすがに筆者も考える。

 しかし情報化社会とは恐ろしいもので、ちょっと前(15年くらい?)なら少しキナ臭いと思える話でもそう簡単に馬脚を露わに晒されるようなことにはならなかったであろうことも、「その筋の識者」達がSNS等を通じていとも容易くその根っこを洗い出してしまうのである。おかげで筆者もこんな記述をぶち並べることができている

 この件についての初報段階でちょっと落ち着けと言えるのは、情報の源たる福井県しかいなかったはずだ。それだけ、県担当部局と県幹部には慎重になってほしかったと思う部分がある。いえ、こういうことを書き綴れて個人的には楽しいんですけど

流石の報道機関のフットワーク

NHK宮本記者は、しっかりその後の仕事をしてくれていることが記事からも判る。
セ航空航空会社として未認可夢の直行ヘリが飛ばないと報じられた段階でセ航空本社へのコンタクトを試みている。もちろん、県担当部局にも確認はしているだろう。国土交通省にも(筆者の一連のエントリの記述以上の)確認を取っている
 しかし電話の応答もメールの返信もない。これが「おかけになった番号は、現在使われておりません」とか「MAILER-DEAMON」だったらまるでお手上げだったろう。気が気じゃなかったものと推察する。
 結局、その日のうちに「計画は不透明に」と報じるしかなかったようで、ものすごいモヤモヤを抱え続けることになったようだ。

「福井空港事務所」と「使用機材」

 筆者が現地に行くことが出来たら、きっと同じ行動を取っていただろう。福井空港には自由に見学できる展望デッキがあり、そこから入居しているはずの事務所の部屋を覗けてしまうんだそうである。おハーブですわ
がらんどうだったそうだ。一応賃貸契約はなされていたが、賃料支払いは4月のみであとは未納。詳細は宮本記者の記事を読めば分かるが……。その時の落胆もいかばかりか。空港管理事務所も困っていただろう。
使用機材のヘリの詳細も県に情報公開請求し、所有者に連絡を取った。所有企業は「社員の移動に利用しているので、貸し出すことはできない。(セ航空についても)知らない」という回答。いやぁ、ずんずんと嫌な沼になってきますね。
 こういう内容も、なにげにツイッタラーの皆さんの間では共有されていたりしたもので。しかしSNSの噂程度の、下手をすると与太話レベルではNHKとしても認めるわけにいかない。が、自らの足を用いて得られた情報はそれを裏付けてしまった形になる。だんだん目も当てられなくなってくる。

「飛行計画として可能なのか」

 もう冷汗が止まらなかったのではないか。
 匿名で取材に応じた現役ヘリコプターパイロットの方、情報を宮本記者に提供して下さってありがとうございます。一野次馬からもお礼申し上げます(何のありがたみもない)。
宮本記者には申し訳ないが、ここはまるっと引用させていただくことにする。

記者
「ヘリコプターで福井と東京を片道84分で結ぶことはできますか?」

現役パイロット
「計算上は可能です。2つの地点の直線距離は約181マイル(約291キロ)。試験飛行で使用していた機体の巡航速度は時速130ノット(約240キロ)です。これを計算すると、ちょうど84分になります。ただ、途中には北アルプスなど標高が高い山がある。ヘリコプターが運航する高度は、基本的に1万フィート(約3000m)以下が多いので、高度が高くなるほど気象条件も厳しくなってくる…毎回確実に飛べるかというと、難しいと思います」
宮本記者の取材に応じるパイロット氏。誠実な返答である。
記者
「1人あたり2万2000円という料金は?」

現役パイロット
「そっちのほうが私は信じられなかったですね。よく遊覧飛行で使う定員4人のヘリコプターの料金相場が、1時間で大体18万円くらい。1人2万2000円だと乗客6人で13万2000円。84分の料金なので1時間あたりの単価はもっと安い。定員7人の大型ヘリを使うのに、4人乗りの小型ヘリより時間単価がはるかに安いことになります。常識では考えにくいです」

「フライト料金の中には、当然ながら航空機の運航コスト、燃料、保険代、整備代、人件費が含まれます。人件費にはパイロット、整備士、運航管理などサポートする人たちの費用も入っているので、コストを大幅に下げると安全性が損なわれる可能性があります。安全をお金で買っていると。人、モノ、そういったところにお金をかけることで安全を確保しているのです」
それみたことか、と言いたくなる答えである。

計算上は可能です」、「常識では考えにくいです」……。この相反するようでいてカッチリと結びつく2つの文言が、この一件を如実に表していると言っても良いのではないか。

「県幹部に聞いてみた」

 つぶさに取材を敢行する宮本記者には本当に頭が下がる。もう進めば進むほど絶望感しかなかったろうに。
 県への取材で応じてくれたのは、土木部平林副部長。4月の「大会」で、濱津社長隣にいた人物だそうだ。
 この部分も引用させていただく。

福井県土木部 平林透 副部長
「我々としては4月27日の会見時点で大丈夫だと、予約システムの運用もできあがっているし、ヘリコプターを飛ばす段取りもできていると聞いていました。ただ、航空運送事業の許可が取れていないとか、航空運送代理店業の届出をしていないことは把握していたので、法的な位置づけはしっかりしてくださいということは事前にお願いしていました」

記者
「国の許可を得ていないことを事前に把握していたということ?」

福井県土木部 平林透 副部長
「前日にも、許可の申請や届出を行っていないことは濱津社長から聞いていました。ただ、本人から『すぐ取れるんです』って言葉もあったので、そういうものだと感じていました」
平林土木副部長への取材
県も、会社の説明を鵜呑みにしていた。

今回のヘリコプター事業に対して、県の補助金などは使われていない。
そのぶん会社の事業を精査する姿勢が甘くなってしまった面はあるだろう。

だが、それ以上にセレスティアル航空のプランが福井県にとって魅力的だったことが、大きな理由だと感じた。
それに続く宮本記者の記述

疑わしきは罰せず」ということわざがある。これは、率直に解釈すると「クロだとはっきりしない限りは断罪などできない」という意味である。嫌疑容疑の段階で判決を出すことはまかりならないという、司法哲学の大原則だ。逆を言えば、「探ってわざわざ腹を痛くするのも気が引けるという性善説的心理から、「こう言ってるからそうなんだろうと信じてしまう、そういう点も人間として否むことはできない。
 この件は、そこをうまく突かれてしまったものだろう。
 考えたくない方に考えたくない方に、どんどん思考が陥っていく。それがまた、後段で露呈していってしまう。

福井県土木部 平林透 副部長
「福井空港をどうにかせなあかん、空港を新たな時代のニーズに適合するものにしないとあかんというのが私の仕事でした。その意味でセレスティアル航空は『福井空港を使ってみてもいいよ』って言った最初の会社なんです。忘れられた福井空港が、これから使われる可能性が出てきた、出てくるんじゃないかなと」

衰退する空港や地域をなんとかしたい、その一心で始まったプロジェクト。

だからこそ、もっと慎重に進めればよかったのではないか…。そう問うと、彼は力なく答えた。

福井県土木部 平林透 副部長
「混乱を招いてしまったのは、非常に申し訳なかったと思います」
県担当者としても断腸の思いを禁じ得ないであろう。

 この部分は読めば読むほど遣る瀬無い思いにさせられる。

そして「本社」凸

 おそらく2~3人くらいのツイッターユーザの方が周辺を窺ったであろう、八丁堀3丁目松本ビル宮本記者はついにその現地へ赴いた
 だが、訪問に応じた人物は「無関係だ」「勝手に貼られたもので迷惑している」「一応関係している者が奥の部屋にいることはいる」と胡散臭い応答を繰り返し、濱津社長への連絡・取次ぎやその場の取材は頑として拒否。ええと、日本語って難しいのは存じておりますが、「無関係ってなんでしたっけ
 その後も関係者への取材を試みていると、そのタイミングでとんと返事がなかった濱津社長からメールが来たらしい。あれれ~おっかしいな~

(1) 福井県内で複数の着陸帯(ヘリポート)使用の許可を得ている
(2) 福井空港と東京、大阪を結ぶ運航ルートの整備を進めている
(3) 県内便向けに使用機材の新規発注を行っている
(4) 航空法上の手続きにのっとったうえで、新規事業者の登録とグループの名義変更を行う
(5) 年内に試験フライトを行う
ざっくりまとめるとこんなことを言っていたそうですわ

 いやあ、その痕跡が認められないからこうして聞きに来てるんじゃないですか(宮本記者が)。

インタビューがわりの「A4用紙10枚」

 もうちょっと深掘りしたいとインタビューを申し入れると(宮本記者が)、濱津社長は「その時間は取れない」としたうえで「A4用紙10枚で回答を送ってきたという。物理ペーパー? PDF? 紙……かな。ペーパーカンパニーだけに

セレスティアル航空 濱津社長(文書での回答・原文ママ
延期の理由
「弊社は、私は、就航しますと宣伝したかった訳でもなく、事前より利活用に向け関係住民説明の為の資料作成や県や坂井市に協力し、(中略)福井の空が有効に利用される例を示し発言したものです。現実に4月29日から5月連休の数日は予約が既に入って居りました。(中略)、28日午後から強風など天候が崩れ、29日は朝から強風大雨を避けられないと判断し、29日の便を振替、回転翼は帰京させたものです。その後も連休の天候が回復せず、回転翼での運航を見合わせて居りました。7月まで恐竜館や他の場所への運航予約が御座いました。揚げ足を取れるのは嫌いなので付け加えますが、運航事業者は大手航空会社名です」
A4用紙10枚からの抜粋その1

 濱津社長の言葉を「翻訳」してみる。相当穿って見ているので、齟齬はご容赦願いたい。

「別に定期運航するとか言ってないよ。福井空港を利活用したいっていうから一例を示しただけでさ」

「GWね、飛ぶ予定だったんだけど天気がちょっとね。7月までの間も予約はあったんだけどタイミングとかうまく行かなかったんだよ」

「あ、言っとくけど大手航空会社が飛ばす手筈になってたから」

 いや、そういう話も全部ウラ取ってるんだわ、宮本記者もツイッタラーも。

会社の実績
「国内事業に関しては、守秘義務があり多くを公表して居りませんが、(中略)簡単にご説明いたします。国内実績に関して、ある航空機メーカーと国指定の認定を行って居ります。Flight inspectionと言われる認定事業です。運航に関しては、2航空会社受託関連が御座います。固定翼が主ですが、回転翼に関しては、各メーカーの機材精査や試験が御座います。海外実績に関してですが、グループで台湾、香港、アイルランドから航空機リースを行って居ります。アイルランドは現在24機材を他の地域に移し清算し、別地域での設立予定としています。

(登記上の本社にあったB社は)関東地域での空港格納庫建設に関しての受注、発注済、その他グランドサービス事業一部に関して、この会社が請け負っていくものです。共通する顧客もあり、設立当初の本店が再開発で移転となった為に、仮事務所として登記して居ります。(中略)御社の責では有りませんが、先にお伝えしました通りで、関係者や協力者などお名前を出されるのを嫌がる方も居りますし、執拗に連絡して来る方もいる事から、基本的に取材に関しましてはお断りして居ります」
A4用紙10枚からの抜粋その2

「あんまハッキリしたことは言えないんだけどさ、ま、ざっくり言うと今はメーカーと手ぇ組んで国からの指定を受けようとしてんの。Flight Inspectionってヤツでさ」

「飛ばすのはねー、2つの航空会社とやってるよ、ヘリじゃないけど。ヘリはメーカーの試験とかあるよ?」

「海外じゃそりゃもう、うちらの仲間が台湾、香港、アイルランドで借りモンだけどやってんぜ、アイルランドはいったん手ぇ引くけど」

 ちなみにFlight Inspectionというのは、こういうこと(上記Wikipedia記事)である。
 これに客乗せて飛んだらある種の「人体実験になっちゃうんじゃねえの? それできたらいかんくね?

「B社? あーあれはね、地上のこと色々やってもらう予定でね。お客もカブってるし、日本橋のビル追い出されたからちょっと置かせてもらってんの」

「ていうかさ、大っぴらにしてないとこまで、あんま突っ込んでこないでほしいワケ」

 これは日本橋のビルとも何か一悶着あったな……?

(筆者註:当初「品川のビル」と書きましたが、オービットエナジー社の旧本拠地と混同していました。訂正いたします)

 そしてダメ押しのこれである。

地元の期待に対して
「弊社事業に期待を抱いた方。基本的に他人が行う事業に期待を抱く方はご自身のご都合で期待するだけで、その方々に対して特別のコメントは御座いません」
A4用紙10枚からの抜粋その3

「え、うちはうちでやることやろうとしてるだけで。別にそれで誰がどう思うとか関係なくね?」

 とまあ、こんな具合に……。
 正直、呆れ果てたと言わざるを得ない。
いけしゃあしゃあと(ぬけしゃあしゃあと、とも言うようだが)よくもまあ、というのが飾らない感想だ。
 この文面を見て、宮本記者頭を抱えたのではなかろうか。
 筆者だって、そんないい趣味のことをしているとは到底思っていない。安楽椅子出歯亀もいいところで、好き好んでやっているとは公言しづらい悪趣味だと自覚している。
 だが、この濱津社長には敵わない。何を実利の元としているかサッパリ分かったものではないが、曲がりなりにも法人、それも株式を他人様に請け負ってもらって活動している体の事業体でやっていての、これである。
 たとえ、その回答内容通りのことを今後実践したところで、この最後のコメントを読む限りは個人としてこの事業を信用することはできない
顧客を必要とする運輸サービス事業者から出る言葉ではない。
 タクシーに乗って、「目的地には行こうと思うけど、どこ走ろうが俺の勝手じゃん」とか運転席から言われてみろ。その場で管轄運輸局に連絡入れるレベルだと思うのだが。
こんなに酷いとは……、思っていたけど。それを(WEBサイトとは違って)消せない紙でメディアに送っちゃったのは取り返しがつかないことだろう。
 まあ、どうでもいいのかもしれませんけど。

それでも夢は捨てない

 記事ではその後で、「この件を機に各自治体や団体が福井の空の活用を模索するようになった。あの時降って湧いた夢は叶わなくとも今後に繋がっていくならそれを見守りたい」という旨の健気なコメントで締めている。

 我々のような気にしているレベルの観測者もそうだが、こうして「具体的に振り回されている現場の皆さんの声が届いたことは、とても大きいと思う。またおためごかしつつも本音がチラついた濱津社長のコメントを引き出したことで、宮本記者の功績は相当に大きいものと感じる。

 最後になるが、NHK福井放送局・宮本雄太郎記者、並びに大川雄一郎ディレクターに感謝と労いの意を表して、このエントリを終わりとしたい。
読んでいただいた皆様にも感謝を。ありがとうございました。


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