還暦男の独り言 第2章 ソノウタノナハ
第1話 手配犯のポスター
電車の中の車窓に映る 私の顔は行きと違いそこになかった
いや、見てられなかったと言うか
車窓に映る私の顔に焦点を合わせたくなかったようだ。
陽子さんのあの言葉が私の心にストマック ブローのように
じわじわ 効いてくる
「あんたら、家に帰る気持ちなんかないやん」
その言霊が、足にきてプルプル震えているのだ。
そして、私は現実に引き戻される。
私は34歳にして家出をし、
四国 高知に自分の死に場所を見つける旅に出ています。
と言いながらだ、未だ 達成ができていない。
つまり、どこか本気でない 自分がいるのだ。
死ぬこともできない愚か者だ。いや、
どんな言葉で自分を責めればいいのか
言葉が見つからない。
電車の中の蒸し暑さと抜けきれていない二日酔いの頭痛とで
酸っぱい胃酸を飲み込みながら
3日前ハンドルを右に切った私を恨んでいるのです。
薄い記憶の中、
私は中村駅から電車に乗って逆回しの動画のように
もと来た道を戻るのです。
私はその電車に乗り込むも、 行く当てはなく
ただ終着駅の高知駅に向かうのである。
長い時間をかけ
高知に降り立った。
私は欲望の 赴くままに
駅のホームの立ち食いそば屋に立ち寄るのです。
「いらっしゃい 。何になさいます?」
30度を超すこの気温の中で私は かけそばを頼みます。
私は逃亡者である自覚があるのか
カウンターに背を向け一心不乱に蕎麦をかきこむのです。
(あ~美味い)
それでもそこに幸福感などはない。
残念ながら、、、ないのだ。
つゆを飲み干していると目の前に
全国指名手配のポスターが扇風機に煽られている
私もその者たちと何ら変わりはないと思う。
指名手配犯など逃亡生活を送っている人間に課される重い社会的制裁を
ざっと思いつくまま挙げてみた。
①健康保険証を作れない。(医療費全額自己負担)
②運転免許証を取得できない。更新できない。
(行けば更新後、別室に案内されます)
③銀行口座やクレジットカードを作れない。
④買い物はすべて現金のみ。
➄貯金はタンスのみ。
⑥持ち家の取得は不可能。
⑦賃貸住宅に契約できないので、ここにも住めない。
⑧不法就労的な職業しか選択できない。
⑨通信会社と契約できないのでスマホを持っていても電話番号を取得できず通信はFreeWiFiしか使えない。(その当時 そんなものはないよね)
⑩年金も生活保護も足がつくので無理だと、、、。うなだれる。
逃亡生活の現実はあまりに厳しい。
だから 読者には お薦めなどしない。
逃亡するということは
大きなリスクがあるということを
承知しておいてほしい。
この物語、第1章まではトントン拍子にかけていたのだが
ここからはどんどんどんどん 躓きながらお話をすることとなりそうだ
記憶も曖昧で前後する可能性もあるのですが 物語を進めていきたいと思う
中村駅で 陽子さんとお別れをして 道中 ずっと頭の中で
リフレインしていたこと
「父ちゃんもあんたも一緒やき。」
「あんたら帰らんやろ!そんな気持ちで帰れるわけないが!」
「あんたらの言葉に一言も、、、帰りたいって、気持ちが見つからんき!」
私には10歳上の 姉の存在がある。
旅館の女将さんの話では 陽子さんが 陽子さんの父親を
私に投影していたという話
私もまた 陽子さんに対し
実の姉と重ねていたに違いない 。
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【野良犬】
私はホームの立ち食いそばを食べ 少し安堵した自分と、
あてもない高知に
降り立って
これからの自分とどう向き合えばいいのか、、、。
アーケード街を漂いながら その街並みはどうしても歪んで見えてしまう。
今思えばどうにもままならない精神状態であったと思う。
二日酔いの頭と額から、だくだくと流れ出る汗が、ねっとりと、
首や背中に粘着して、どうにも気持ちが悪い。
アーケードを抜けると 高知城が 右手に見えてきた
堀を超え古びたベンチがあったので そこに腰掛けてみると
いろんな人が私に声をかけてくる
だが、私はそれどころではない。
挨拶から始まり 私が何者か 認識したいのであろう。
それはそうだ
着ている服も営業マン さながらのサラリーマン
そんな出で立ちなのだがどこか 滑稽に見えているのかもしれない。
思えば陽子さんとの出会いもこんな挨拶から始まったこと。
…もういいかな
(深みにハマらぬようにしようと心に誓うのである)
そうこうしていると 今度は
野良犬の登場である
しっぽを振って こっちに近づいてくる
この辺りに生息する野良犬なんだろう
心優しい人が餌を与えたりしているおかげで
この野良犬は私の方を見て 何か 餌をくれるのではないか
そんな期待を持って上目遣いで見てくる。
ポケットの中に何かないかと まさぐっていると
その野良犬はけたたましく尻尾を振るのだ。
間違いなく 餌をくれると見ているのだ。
「冗談じゃない!」
が、しかし、
そういった期待に 私は弱い。
だがポケットの中に何もなかった。
すると 犬のしっぽは途端に弱々しくなる。
なんと 分かりやすい。
私は犬語が話せるわけではないのだが
その野良犬に
「ちょっと待っとき なんか食べるもん買おてきてあげるき」
覚え立ての土佐弁で話しかける私。
(おいっ!私は、私はいったい何をしている?)
出会う人すべてに私は愛想よくしてきたつもりだ。
人畜無害を目標にしてきたつもりだ。
だが、
最後に手のひらを180度返して
全てを奈落に落としてしまった大馬鹿者だ。
家族や友、そして愛する人を簡単に、、、。
捨ててしまった。
近くに昔ながらのスーパーがあったので
野良犬が食べれそうなものを探してみた。
チクワ、魚肉ソーセージ買って
元のベンチに戻ってみると
野良犬はどっかに行ってしまっていた。
(なーんだ。)
買ってきたチクワを袋を開けて食べてみた。
すると どこからともなく さっきの野良犬が現れた。
犬の臭覚は素晴らしい
1本まるまる あげた。
尻尾を 楽しく 振りながらチクワを咥えると
どっかに行ってしまった。
お礼などなく、そしてそれは私も望んではいない。
今はただ私は、
野良犬になりたい。
私はキミに弟子入りしたい。
そんな気分なんだ。
ベンチから腰を上げ、高知城周辺をぐるぐる廻りながら
今後のことを考えてみる。
そして、元居たベンチでへこたれる。
そこへ先ほど出くわした野良犬がまたやってきて、
またけたたましく尻尾を振って
リクエストしてくるのだ。
「おまえ、俺が今どんな状態か知ってるかい?。」
と頭をなでなでしてあげたのでした。
お楽しみに!