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【第8話】世界で一番最低な男


私は、陽子さんの横顔をただぼんやりと
眺めていた
すると 陽子さんは私に 

「これからどうするが?」

私は陽子さんに心配させまいと咄嗟に嘘をつく

「家に帰るよ」

陽子「本当に?約束できる?」

私「たんこぶ 2つ作りたくないから約束は守るよ」

グーパンチでおどけて見せた
陽子さんの顔にエクボが戻った。

くっきりエクボ

(ああ、またそんな嘘を平気でつくのです。
振り返ってみると私はいつもそうだ
相手が喜ぶことならば 嘘をついたりする
それがバレない嘘ならいいと)

それは本当のことを言って
相手が悲しんだり傷つくのなら
本当のことを言わない方が
その人との関係性が上手くいくと思うからなのです。

陽子さんはこんなことを聞いてきた。

「あんた何で家出をしたの?」

「家出の理由は何?」

「いろいろあったんだろうけど、あたしは知りたい。」

「それがわかったらあたしは父を許すかもしれない。」と、

私は心の中で頭を抱えてしまった

ここまでの内容を知っている読者さんなら
○○○○を右に切ったからですと答えると思う

同じように陽子さんにもそう答えたのです。
陽子さんは呆気にとられ、すぐさま
「あんた馬鹿ぁ?」と


私「血迷ったってゆうか、ほんとに発作的にどうでもいいやって
もう終わりにしたかったんよ。
すべてを。」と

私「借金抱えててそんなことも告げず、
側に大好きな人がいて、
悲しませたり、本当の自分を晒して
嫌われてしまうことを目の当たりする不安や恐怖を感じながら
この先もそういったことを隠して
嘘をつきながら生きていくことに、
もうウンザリしてしまった。
逃げている自分にも、、、すべてから
それが正直な気持ち。」

私は本心をさらけ出してしまう

そんな話を 陽子さんにしながら泣いていた
恥ずかしいほどに泣いていた

陽子「うちの父ちゃんもそうなんやろか」
とポツリと呟く、

そして、その途端、嗚咽に変わっていく

「父ちゃんもあんたも一緒やき。」


「あんたら帰らんやろ!そんな気持ちで帰れるわけないが!」


「あんたらの言葉に一言も、、、帰りたいって、気持ちが見つからんき!」





あえて「ら」を付けて返す陽子さん
返す言葉も無かった。

陽子さんのエクボもそれから先見ることはなかった。



程なくして中村駅についた。

私は車から降りてから暫く下を向いていると

陽子さんは車から降りて私の手を握ってくれた。


その手はゴツゴツしてて

とても女の人の掌(てのひら)の柔らかさなんてものではなかった


だが、その掌は充分なほど優しいのだ


弟さんをこの掌が守ってきたのだ



そして自分を守ってきたのだ


そして、私にも。


全てに立ち向かってきた掌なんだ






私はなんて卑怯者で


愚か者なんだろう



この世界で一番最低な男だ










陽子「それでもあたしはあんたが家に帰ることを信じとるき。」


私は頷くしかなかった




陽子「じゃあね!」





震えた声を聞くだけで


陽子さんも泣いていたように思う。





私は顔を上げれなかった

軽トラのドアを閉める音が

すべてを絶ち切る音のようで




私は、陽子さんの背中すら見ることができなかった。

頭を上げた時、軽トラはもと来た道を

ゆっくりと

そして、見えなくなってしまいました。



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