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いつもと違う、聖地の寂しいクリスマス
近年続いていたクリスマスへの歩み寄り・受容
4年ほど前に『イスラエルのクリスマス事情』と題し、歴史的な反キリスト教的アレルギーを克服し、(ユダヤ系)イスラエリーの間でクリスマスへの歩み寄りや文化的体験といった動きが見られると紹介しました。
エルサレムのクリスマスを、皆様に…🎄 (ヴァーチャルツアー的な感じでお楽しみ下さい~)
Posted by シオンとの架け橋 on Sunday, December 19, 2021
その後もユダヤ・アラブ人、ユダヤ・キリスト・イスラム教(+バハイ教)が共存するハイファでこの時期に開催されている「The Holiday of Holidays(祭りの祭)」は、近年ハイファや北部だけではなく、イスラエル全土から観光客が訪れる国内随一のイベントに成長(動画はこちら)。
そして2021年にはユダヤ教色が強いエルサレムでも、旧市街で『クリスマス・マーケット』が行われ、わずか2年(2度)で町の風物詩になっています(上の動画)。
このように、4年前の記事投稿以降もコロナなどがあったにもかかわらず、「クリスマスへの文化的歩み寄り」は続いていました。
しかしそんななかで起こった、10月7日からのガザ戦争により今年2023年の聖地でのクリスマスは寂しいものになってしまっています。
ハイファ:The Holiday of Holidays 中止
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2019年のコラム・2021年の動画でも紹介した、『Theイスラエルのクリスマス・イベント』とも言えるThe Holiday of Holidays(写真)。
去年はなんと国内全土から、35万人以上がこのハイファの祭を訪れていました。
そして今年はイベントとしては30周年、主催者であるユダヤ・アラブの共存を提唱する文化センター「ベイト・ハ=ゲフェン」の創立60周年と、様々な意味で節目の祭となる予定でしたが、戦争の影響を受け今年は中止を決めました。
ベイト・ハ=ゲフェンCEOのアサフ・ロンさんは、メディアへの中止発表の際にこう話しています。
中止に関し様々な熟考を重ねていましたが、(戦争勃発の)直後から今回は全く違うものになるだろうとは理解していました。虐殺(10月7日)の翌日には、12月の末にパーティーをすることはないだろうと理解していたからです。しかしその反面、困難な出来事があるがゆえに町が正常である姿を見せる必要もあります。なぜなら、ハイファは(共存の)象徴だからです。
ここでも全てがバラ色ではなく、緊張もあります。しかし他の場所と比べると、良い環境にあるのです。
多くのハイファ市民は人種・宗教を越えての共存という意味では一致していますが、戦争が続いている中で数十万人規模のイベントを行えば、人口層間の衝突などが起こってしまう可能性も考えられます。
共催者であるハイファ市や軍の民間防衛軍との話し合いの結果、今年はイベントの中止だけでなく、イベントのシンボルとも言えるクリスマスツリーの設置・点灯も自粛することに。
これに対してはツリー装飾を担当する、現地のアラブ人教会/クリスチャン・コミュニティーからも理解・同意があったようです。
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ハイファと言えども、デリケートなバランスの上に『共存』が成り立っている。
(筆者撮影)
しかし、「戦争が来年に終結すれば」という条件付きですが、ロン氏はこんな言葉で来年は開催する強い意志を話していました。
ハイファの人々は共存という雰囲気で生活を送る術を知っています。互いに怒り合ったり、賛成しない時もありますが、生活を共にするという気持ちは何よりも強いですから、来年はこの祭を皆で祝うことになると思います。
ナザレ:閑散とした町にサンタクロースが
ハイファに次いで、クリスマス雰囲気を感じられる町は、アラブ人最大の町のひとつでありイエスが生まれ育った、ナザレです。
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イエスが育った町ということで、例年であれば町はごった返し教会は大混雑、どのホテル・ゲストハウスも満室なのですが… 今年はやはり閑散としています。イスラエル大手紙サイト「Ynet」では、ナザレでの寂しいクリスマスの様子が特集されていました。
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カトリックの受胎告知教会はガランとしており(写真)、教会から町中心部の広場までの通りのお土産屋さんやレストラン・屋台なども臨時休業がほとんどであると伝えていました。
例年であればナザレには、中東最大の高さ約40mを誇るクリスマスツリーが、ギリシャ正教の受胎告知教会前の広場に設置・点灯され、中東風クリスマス・マーケットで賑わっています。しかしこちらもハイファと同様、クリスマスツリーの自粛を取り決めたとのこと。
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同教会の役員を務め家族4台にわたってここに住む生粋のナザレっ子、サミール・グレゴスさんはYnetの記者に対してこう答えていました―
平和になるようにとの願いから、教会に祈りに来ました。
私はここで生まれた、この地の人間です。そしてこの国(イスラエル)に属しており、国に対してリスペクトを持っており、国も私たちに敬意を払っています。アラブ人ですが、私の息子は現在予備役で召集され、ガザで戦っています。
今年は本当に悲しいクリスマスではありますが、全ての拉致被害者と兵士たちが無事家に戻り、平和が訪れるよう願っています
グレゴスさんはそう話しながら、寂しそうに教会の裏にある装飾されていない裸のツリーを見せてくれていました。
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(素材元: Ynet アサフ・カマル記者)
大手国内向けの旅行会社によると近年はクリスマスシーズンに、ハイファやナザレ、エルサレムやヤッフォなどを中心に400以上のクリスマス・ツアーが行われていましたが、今年はその数がたった4つになっているとのこと。
ナザレで個人個人に合わせたブティック・ツアーを行っているベテランガイドの方は、
「コロナの間はロックダウンが落ち着くと国内旅行が盛んになり、それなりにツアーがあった。しかし今回の戦争で海外からの旅行客はもちろん、イスラエル人観光客の数もほぼゼロになってしまった。しかしコロナと同様、この災難からも一致して臨めば抜け出せるさ」
と苦しい状況の中、前を向いている様子を伝えてくれました。
しかしそんななか、ナザレのあるホテルではサンタの「ホーホーホー!!」という声と、クリスマスキャロルが…
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こちらはイエス時代を感じられる体験村ナザレ・ビレッジとカトリックの受胎告知教会のちょうど間にある、「THE BLEND Boutique」というホテルです。
例年であれば聖地で聖夜を過ごす海外からの巡礼客たちでいっぱいなのですが、今年はイスラエル最北の町キリヤット・シュモナ周辺からの避難民と共にクリスマスを迎えています。
海外や日本ではガザをはじめ南部のことがニュースになっていますが、イスラエルはヒズボラとも戦闘状態。ロケット弾だけのガザ戦線とは違い、ヒズボラはより高性能なミサイルや無人航空機を所持しており北部でも多くの避難民が発生し、自治体ごとにまとまってホテルなどへ避難しています。
そんな避難民を受け入れているこのホテルでは現在、ユダヤ市民とアラブ市民の両方が避難生活を送っているのですが、地元教会の若者がサンタクロースに扮し子供たちにチョコレートを配ったりとクリスマス・パーティーが行われていました。
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アラブ人クリスチャンの避難民だけでなくユダヤ人の子供たちもサンタからプレゼントをもらったり、大人もクリスマスキャロルの流れるロビーでクリスマスの雰囲気を感じたりと、2か月以上続くホテルでの避難生活の中での『やすらぎの時』となったようです。
ある子連れの避難民は、こうYnetの取材に答えていました。
私たちはもう2か月以上家に戻っておらず、ホテルでのもてなしには感謝していますが、家に帰りたい気持ちが募り、精神的にも厳しい状態です。
そんななか子供たちはサンタクロースの訪問に感動しています。彼らの笑顔を見て下さい。
このサプライズを企画してくれた、ボランティアの方にお礼を言いたいと思います。
来年は平和なクリスマスに…
今回はハイファとナザレについての紹介でした。
エルサレムでも今年は旧市街のクリスマスマーケットは中止と、ヤッフォではクリスマスツリーはあるようですが、楽しいイベントなどはやはり自粛モードとなっています。
しかしそんな寂しいクリスマスの様子ばかりが目立つ中、ナザレではアラブ人・ユダヤ人の子供たちがサンタクロースの力によりひと時の間、暗い戦争・先の見えない避難生活を忘れてとびっきりの笑顔を見せてくれたというのは、今年のイスラエルでのクリスマスにおける唯一の温かい・明るいニュース。
そしてやはり世界共通の、クリスマスとサンタクロースの魔法を感じます。
来年は、平和なクリスマスが聖地に訪れるよう―
受胎告知教会のサミール・グレゴスさんのように、祈りたいと思います。
メリークリスマス!