サッカーU20W杯でのイスラエル旋風―
アルゼンチンで行われているサッカーのU20W杯。
10人になったイスラエルにまさかの逆転負けし敗退するなど、日本にとってはほろ苦い大会となりましたが、逆転勝ちしたイスラエルはその勢いに乗りアジア王者のウズベキスタン、そしてブラジル代表も延長戦の末3-2で撃破し、なんと初出場にしてベスト4入りを果たしました。
この快挙はイスラエル国内でも大きく取り上げられ、10日後にはA代表の試合(ユーロ予選のベラルーシ戦)があるのですが、注目や期待度などで見ると「U20代表>A代表」といった形になっています。
今回はそんな若いイスラエル代表を、いくつかの視点で紹介したいと思います。
ブラジル相手にも『サッカー』を
サッカー超大国との試合ということもあり、「押し込まれて防戦一方の試合だったのでは」と思われるかも知れません(実際に日本のSNSやニュースのコメント上にもこんなコメントが)。
しかしイスラエルはブラジル相手にもいつも通りの布陣で臨み、なんと
ポゼッション率(55%-45%)
シュート数(21―20)
パス本数(449―340)
などでブラジルを上回っていました。
特に前半はべた引きせず、ハイプレスからのショートカウンターでチャンスを作るというシーンが、何度か見られました。個々のタレントの差はもちろんブラジルに軍配が上がりますが、イスラエルは組織的なビルドアップやプレスを生かし、互角の戦いを展開。
メディアもですしイスラエルのサッカー系Youtuberも、
「サッカーをきちんとプレイしての、正当な勝利」
と絶賛していました。
イスラエル躍進を支える、アラブ人選手たち
このゲームでは計17人がプレイしたのですが、そのうちの3人はアラブ人選手でした。
1-0となった4分後に同点ゴールを決めた、アナン・ハライリ選手(FW)はマッカビ・ハイファのユースチームに所属する、アラブ(パレスチナ)人選手。
彼は前の試合ウズベキスタン戦でも、97分に劇的なゴールを決めており、『イスラエルのエース』的な存在です。延長戦開始直後に1-2とされたその2分後に、同点ゴールを決めたハムザ・シブリ選手(MF)。
彼は遊牧民族ベドウィン系アラブ人選手で、ハライリ選手と同じマッカビ・ハイファ・ユースでプレイしています。85分から途中出場し、115分の2本目のPKではキッカーを任されたアフマド・イブラヒーム選手(FW)。
彼はエルサレム南部にあるアラブ人地域、ベイト・ツァファファで生まれ育ったアラブ(パレスチナ)人選手で、ハポエル・エルサレムのユースチームから昇格し今シーズンからはマッカビ・ネタニヤでプレーしています。
ハイファのアラブ人にベドウィン系アラブ人、そしてエルサレムのアラブ人と、それぞれルーツの異なるアラブ人選手を擁するこのU20イスラエル代表は、まさにイスラエルの写し鏡。
この試合の3得点を、①アラブ人 ② ベドウィン系アラブ人 ③ ユダヤ人という3つの異なる人口層が、まさにイスラエルを代表するように得点し勝利を挙げたことから、SNS上では「イスラエルではユダヤ人とアラブ人が共存している」というメッセージとともに、バズっていました。
イスラエル代表におけるアラブ人選手の活躍は、今に始まったことではありません。
そして今回のW杯でのアラブ人選手の活躍を見て、今後より多くのアラブ人サッカー選手が生まれるかも知れません。
サッカーのイスラエル代表を、『共存』という角度から注目+応援するのも良い/楽しいかも知れません。
従来の路線を行く保守的なアラブ世界は、相変わらず―
実は今回のW杯も、アラブ世界による歴史的な「イスラエル・ボイコット」から始まったものでした。
もともと今回の大会はインドネシアでの開催が予定されていたのですが、イスラエルと外交関係がなくイスラム教国であるインドネシアでは、ヨーロッパ予選を準優勝という形で突破したイスラエルのボイコット・出場禁止を求める声が。
その結果を受け3月末に急遽、インドネシアでの開催が撤回され、アルゼンチンでの代替開催となったのです。
そしてそんな保守的なアラブ世界のメディアでは、イスラエルの躍進をどのように報道するか、頭を悩ませています。
そんななかイスラエルでもニュースになっていたのが、中東有数の携帯電話会社ザイン・グループのイラクのサイトが発信したこちら。
国旗のところを見ると、ブラジルに勝利したのが謎の黄色の国旗を持った国になっています。
このイラクの同サイトは、ベスト4が出揃った際にはこんな投稿もしています。
これによると、今度は決勝の座をかけてウルグアイと対戦するのが、真っ黒の国旗を持った国になっており、国の名前のところも点線になっています。
イスラエルでは
などと皮肉交じりに、そして面白おかしく取り上げられていました。
しかしこれも、メディアと大衆の間ではちょっとした温度差もあるようで、
「私たち(の知性)を、おちょくっているのか?」
「馬鹿馬鹿しい」
といった声も。
例えば今回のUEFAチャンピオンズリーグにはマッカビ・ハイファが出場し、中東でも人気があり世界的な強豪であるパリ・サンジェルマンやユベントスと対戦し、その試合は中東でも放送されました。
その時には、
などと、イスラエルのクラブ名を言わないように、そして選手たちの名前も伏せながら、上手に放送していました。
チャンピオンズリーグもですし今回のW杯と言い、無理やり過ぎる『イスラエル無視』に対しては、反対する声が上がりつつあるようです。
まとめ―
少し話があっちこっちに行ってしまいましたが、こちらに住む者としてはイスラエル旋風が続いて欲しいですし、ぜひ決勝に進出した場合のアラブ・メディアの対応を見てみたいなと思います。
そしてスポーツにおいてイスラエルが取り上げられる際は、アラブ人選手の活躍やアラブ世界の取り上げ方などに着目しても、面白いかも知れません。
そして何より、イスラエルが普通にどの国とも正々堂々と戦い、それが何の問題もなく、取り上げられる日が来ますように…
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