ユーリー・ノルシュテイン「25日最初の日」の最初と最後
「25日最初の日」は、ユーリー・ノルシュテイン監督のアニメーション第1作で、ユーリー・ノルシュテイン監督が、‘革命的なアニーメーションン作家‘に認められた記念の作品です。
作品の主題の「25日―」は、1917年10月25日のロシア革命の火蓋が落とされた文字通り革命の日です。
ロシア革命を生き伸びた人達や、革命の痕跡に触れながら生きている人達にとって、ロシア革命を主題にした作品が、ただのアニメーション作品でないことは間違いありません。
ですが、監督の名前も、ロシア革命の内情も、25日が何の日付なのかも知らずに、「―最初の日」が示す何もかもに気づかないまま観ても、「25日最初の日」は素晴らしい短編映画です。
とくに、アニメーションでも自然と実録映画と分かる作りは、観た人に評価されるべき作品と頷かれる、取っ掛かりではないでしょうか。
動き過ぎず、静か過ぎず、鮮烈過ぎない、ので作品の創作の可能性は排除されていて、感傷を煽らない無彩色の映像に走る赤色に意味を感じれば(それがどんな意味でも通じると思います)、主題が実録であることに気づける作りになっています。
革命の戦火に燃やされたサンクトペテルブルクは、映写機の画角のサイズに編集されて、10分に満たないアニメーションに集成される歴史ではありません。
それが「25日最初の日」では、ロシア革命中の都市の様子が、革命の町を闊歩した兵士が、絶滅の危機に追いこまれたブルジョワが、パンを求めた市民の勢力が、何に決起して誰と戦っていたのか、流れるように繋がっています。
映画は画角が伸びたり、縮んだり、形が変わったりしないので、ふつう映画を観る人は画角を基準にして映像を解析します。しかし優れた映画人は、画角は映像を収める額縁に留めて、映像同士を比較させる映画を作ります。全てのワンショットが、映画のどこかしらと比較できる映画ともなれば、誰しもが撮れる代物ではありません。
「25日最初の日」は、最初から最後まで映像同士が比較される、優れた映画のお手本のような作品です。唯一無二のアニメーションといわれるユーリー・ノルシュテイン監督の映像作品の中では、既存の映画と同じ常識が通用する最初で最後の唯一の作品で、二作目以降の誰も目にしたことの無かった珠宝のアニメーション作品と合わせて、特別な作品に数えられています。他の映像監督と手腕を比較するのに唯一参考になる、貴重な一本です。
「ユーリー・ノルシュテイン「25日最初の日」の最初と最後」完
©2023陣野薫