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色褪せないグリム兄弟の魅力が詰まった「星の銀貨」


 「星の銀貨」は、食べ物も住む家も家族もない貧しい少女が、人から貰ったパンと寒さを避ける帽子と着ていた洋服の全てを他の子どもに与えたところ、大量の銀貨が夜の星空から降ったグリム童話です。少女は天から授かった銀貨を拾い集めて、残りの一生を豊かに生きたのだとか。
 助けてくれる人のいない少女が身一つになるまで自分の持ち物を全て他の人に譲ってしまったのは、信心深く神様の力を信じていたからでした。ただ不幸から神様にすがっていたのではなく、本当に神様の心を信じていなければ出来ないような慈善をして信仰心を報いて貰えました。ほとほと困った頃に過去の善行が報われて銀貨を手に入れる夢のような御話ですが、グリム兄弟の現実に根差した価値観では、天涯孤独の子供が親も家も食べ物も無いまま、一欠片のパンと着ているだけの洋服だけで生き残ることは不可能です。神様から銀貨を授かるまで少女には暗い未来しかありませんでした。そして死んでしまうしか無くなった時に手に入れた物はなんであれ、少女にとって星の銀貨だったかもしれません。なにもかも無くした少女が豊かに返り咲けたのは神様に救われたからです。しかし、本物の信仰心があった少女が手にした銀貨とは何だったのでしょうか。
 神様が少女に送った豊かな生活の源は隠されたまま、幾度となく思い出されても色褪せない神秘的な魅力になっているのではないでしょうか。

「色褪せないグリム兄弟の魅力が詰まった「星の銀貨」」完

©2024陣野薫


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