【写真短編小説】願え。現になるまで。
1話完結の写真小説です!
お手柔らかにお願いします。
※この物語はフィクションです。
実在の場所などは関係ありません。
「ねえ。私の本音言ってあげよっか?」
「本音?何それ?」
「実は私ね・・・。」
夕日が沈むその間際。
男は涙した。
男は絶望していた。
公園のベンチでちびっ子に見られながら。
20代前半というまだ人生これからという時にだ。
会社という社会的地位から引きずり降ろされた。
引きずり降ろされたというより、自ら去ったというほうが正しいか。
男は病み、身も心もボロボロになっていた。
ポジティブにならなければ、先に進まない。
そんなこと当たり前なのに。
分かっているのに。
この絶望モード中。
毎回考えることがあった。
アイツなら何と言ってくれるのだろう?
見下されるのだろうか?
励ましてくれるのだろうか?
いくら考えても、男はアイツに会えない。
そもそも男は、アイツの連絡先を知らない。
妄想だけが膨らんでいく毎日だった。
人生なんてもう終わりだ。
男はどうでもよくなった。
何かがプツンと切れた自称何もできないという男は、占い師のもとへ行った。
「あんたさぁ、妄想癖強いだろ。」
「え?ええまぁ・・・。」
「その妄想もっと具現化してごらん?」
「な、なんで?」
「決まってるじゃないか。近いうちにその妄想が実現するんだよ。」
「ウソだ~。」
「いいから願え。現になるまではね。」
「は、はあ。」
「ハイ。時間ね。3000円。」
3000円を払い、店を出た。
願えか。
正直信じていなかった。
でも、男は絶対に叶えたい3つの目標を定めた。
理由は単純。
もう人生諦めていたから。
・好きを仕事にしたい。
・自分のペースに合わせて穏やかに生きたい。
そして、アイツに会いたい。と。
そこから2か月願い続けた。
何の因果関係かは知らないが、人生の方向性が決まり始めた。
これが、俗に言う引き寄せの法則なのだろうか。
男は、カメラマンとして歩み出した。
そして、フリーランスとして生きてゆく。
自分らしさというものに覚悟を決めた。
1年半後。
寒さが厳しくなってきた12月中旬。
ありがたいことに仕事を頂けるようになってきた。
そんで、そこそこのお金も頂けている。
ましてや、幅広い人物撮影や創作活動で名前も知られるようになった。
次の夏には、写真展も企画している。
販売もするつもりだ。
自分らしく趣味にも没頭でき始めた。
これこそマイライフ。
でも、これでいいのかと迷う時もある。
自分が嫌になる時だってまだある。
絶望モードは連チャン中だ。
孤独に耐えられないときも。
あの占い師の言う通りだ。
ただ、叶えられていないことがまだあった。
アイツに会いたい。
これだけは、まだ叶えられていない。
やっぱ無理か。
ただ、そんなことを考えていられない。
今ある仕事に向き合わなければ。
そう思い、Tシャツにジャケットを羽織って商談の場所に向かった。
午後1時前。
待ち合わせは横浜駅の中のショッピングモールにある全国展開している喫茶店。
クライアントはまだ来ていない様子だ。
「いらっしゃいませ!」
「2人であとから1人きます。」
「かしこまりました。ではこちらに。」
席に通される。
「アイスティーで。レモンお願いします。」
「かしこまりました。お待ちください。」
10分後。
集合時間5分前に彼女は現れた。
「あ。こちらです。」
女性を呼ぶ。
女性がこちらへ来る。
ワンピース姿の清楚な女性なのに大きいサングラスをかけている。
その女性は機嫌が悪そうだ。
サングラスをかけたまま、席に座る。
「あの。鈴木と申します。」
男が名刺を渡す。
「・・・。」
女性は無言で名刺を渡してくる。
「あ・・・。頂戴します。」
そこには知ってる名前が書いてあった。
しかし、同姓同名さんはよくある話だ。
切り替えて仕事の話に入ろうとした。
女性が怒り始めた。
「鈴木さん・・・。いいですか?」
「はい。何でしょう?」
「まだ気づかないの?」
「え?」
「この名前で。」
その口調。声色で確信した。
「もしかして本当に・・・。」
女性がサングラスを外す。
「遅いよ!もう!」
そこには、願い続けたアイツがいた。
アイツとは腐れ縁だ。
幼稚園からずっと一緒だった。
程よい距離感がちょうどよかった。
時に優しく、時に厳しく接してくれる。
同世代で気兼ねなく話せる1人だ。
「なんでいるの?」
「だって私が依頼主だもん。」
「てことは・・・。社長!?」
「そうだよ。ビックリした?」
「当たり前だよ!」
動揺が止まらない。
「まあ、ビックリするわよねぇ。同世代が社長やってるって。」
「お、おう。」
「まあいいわ。商談に入りましょ。」
「ええ。」
「結論から言うと、非常勤の前撮り専門のカメラマンとしてウチと契約を結んでほしいの。」
「前撮り専門?」
「うん。あんたにはそのスタイルがあってるかなって。」
「どういうこと?」
「ほら高校の文化祭。あんた写真部で撮影やってたっしょ?」
「やってた。」
「その時の撮影スタイルがいいなと思ったのよ。」
「撮影スタイル?」
「そう。基本的には自由に被写体の人とか動いてもらってきちっと撮影するときはする。つまり自由な撮影って言うのがぴったりだと思ったわけ。」
「なるほど・・・。」
「それで、あんたがカメラマンを本格的に始動したって言うのを知ってお願いしたの。」
納得した。
「分かった。やりましょう!」
「ありがとう!」
契約は締結した。
資料を片付けながら、あいつが話しかけてきた。
「ねえ。このあとさ。空いてるかな?」
「ま、まあね。」
「もし良かったら一緒に夕飯までどう?」
「いいね。久々に会えたわけだし。」
「女の子とさご飯行ったことないでしょ。」
「あっあるし!!」
図星だった。
夕飯などのためみなとみらいへの移動中。
アイツが話しかけてきた。
「自分のことクズって思ってるでしょ。」
「もちろん。」
「あんたバカねぇ。だと思ったわよ。」
「バレてた?」
「本当にネガティブすぎるわ。前からずっと。」
「仕方ないだろ。」
「まあね。」
みなとみらいに着き、少し歩くことになった。
寒い。
それが似合う言葉だった。
お腹空かせるために少し歩くことになった。
「ねえ。本音言ってあげよっか?」
「急にどしたよ。」
「実はね、一番最初に告白してくれた時から。つまり小学生の時からずっと好きだったんよ?」
「マ、マジで!?」
でも、あれは断られたはずだ。
「なんで断ったの?」
「簡単よ。あの告白はノリだった。違う?」
「違うと思うんだけど・・・。」
「まあ。無理ないわね。簡単に言えばあんたの裏に黒幕を感じた。あんたをおもちゃにされたんだもの。許せなくてあの時は断ったわ。」
「そうだったんだ・・・。」
「あんたが正直クズでも、ヒモでもいい。あんたらしく生きる応援をさせてほしいの。」
「そ、そんな迷惑かけられないって。」
「いいの。あんたは1人になった時こそ輝けるの知ってるし。」
「えっ?」
「あんた、誰にも優しくしすぎ。そんでチーム作業で気を使いすぎる。」
「うぅ。」
「あと、自分のことクズって言ったでしょう。怒られることややらかしとかは多いかもだけどクズじゃないわよ。真面目過ぎるのよ。」
「は、はい・・・。」
「甘えていいんだよ?何年の付き合いよ。」
男は涙腺崩壊した。
「ほ、本当は誰かに甘えたかった・・・。でも、自分が変なこととか空気読まないからぁ。グスッ。」
「ほらやっぱり。私は味方だよ。」
笑顔で言い放つ。
「あんたがミスしたとき、みんな尽力してくれたりもしたこともあったわね。その時に手伝った人が何て言ったか知ってる?」
「えっ?仕方なくでしょ。」
「違う。あんたの優しさで借りが出来た。自分たちが救わなきゃってね。」
「ウソだ。」
「人間不信のあんたには、これを言っても信じないと思った。ただこれだけは言える。ひとりじゃない。見てる人は見てるんだよ。」
「うーん。」
「まあ信じなくてもいいわ。でもあんたは自分らしく生きなさいよ。」
その一言で、何かが変わった。
「ありがとうな。」
「いいのよ。」
2人は、ビジネスパートナーだけでなく人生のパートナーへと変化していった。
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