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強風の砂浜
この連休は3日間ともよく晴れていた。
せっかくのいい天気なので、わが家に来ていた ルリナ を連れて近場をドライブすることにした。
日本の中では積雪が大変なことになっている地域もあるというのに、私の住む地域では雪が全く降らないので、幸運にも車も走りやすい。
海岸通りの公園駐車場で車を停めて、コンビニで買ったおにぎりやパンをほおばりがら、車の中から海を眺めた。
「砂浜、歩く?」
助手席のルリナが私にそう訊いてきた。
外は風が強いし、かなり寒いだろうとは分かっていたけれど、それでもルリナは砂浜を歩きたいんだろう。
ルリナは自分の希望を「~したい」というふうにストレートに言わないことが多い。
何かをしたいときは「~する?」と疑問形で問いかけてくるのだ。
もしかすると、ルリナは自分が好きなことを「好き」とはっきり主張できない環境に生きてきたのかもしれない。
例えば、シングルマザーとして苦労している母親のマナミを気遣って、欲しいものがあっても、あえて「欲しい」とは言わない癖がついてしまったとも考えられる。
それでもルリナは、私との会話の中では自分の希望や考え方をわりと素直に伝えてくれるようになったと思う。
このままルリナの自主性を育てていってあげることができたらいいなと、私はふんわりと考えていたりもする。
「いいよ。砂浜、歩こうか!」
私がそう言うと、ルリナも大きく頷いて車から降りた。
外は凍るような強風が吹きすさんでいた。
寒すぎるせいか、私達の他に砂浜を歩いている人間などほとんどいない。
歩き始めると、ルリナは私の腕にくっついてきた。
そして、ふたりは無言で寄り添いながら海岸線を歩き続けた。
強風の轟音。
絶え間なく寄せては返す潮騒。
地球上の様々な音に耳を傾けているうちに、いつしか私達ふたりだけが人間世界から離れて 自然と一体になれたような気がした。
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"Two Lungs" (Mogli)