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ピクニック
朝からよく晴れていた。
今日は仕事も入れていなかったし、時間もたっぷりあったので、少し自然の中を歩きたくなった。
マナミ も今日は仕事が休みだと聞いていたので、一緒に軽い山歩きでもどうかな…と思い立った。
娘のルリナも連れて3人で歩いてもいい。
この田舎町にはウォーキングにちょうどいい丘が沢山ある。
日頃から仕事ばかりのマナミにとっても、きっといい気分転換になるのではないかなと思った。
で、さっそくマナミにショートメールを送ってみた。
「もし、お休みでお時間がありましたら、
近場で軽くウォーキングでもご一緒にいかがですか?」
送信してから、いささか後悔した。
いきなり「ウォーキングでもご一緒に」って、何か不自然だろうか。
私の感覚は、いつもどこか他の人間とずれている気がする。
すると、マナミからすぐに返信が来た。
「休みの日はゆっくり休んでいたいのですみません」
・・・ああ、やっぱり、そりゃそうだろうな。
またもや空気も読めずに余計なお誘いをしてしまった。
どうも私は人との距離感がうまく掴めない。
大いに後悔しまくっていたら、マナミから再びメールが飛んで来た。
「もしご迷惑でなければ、
ルリナを連れて行ってくれませんか?
ルリナがすごく行きたがってるんですけど」
なるほど。
この私に娘の面倒を代わりに見させて、マナミ自身はその間に家で一人でゆっくり過ごしたい…というわけか。
まるで私は託児所扱いだな。
そんなふうに考えたら、おもわず私は苦笑してしまった。
しかし、まあ、それならそれでもいいか…とも思い直した。
託児所扱いでも、狂人扱いでも、私自身はかまわない。
こんな私が誰かを多少なりとも喜ばせることができているのなら、それだけでもう少し生きていかれる気がする。
数秒間考えてから、「いいですよ」と返信した。
そして、ルリナとふたりでピクニックに出かけることになった。
ルリナとは3日連続で一日中一緒に過ごすことになったわけである。
車でルリナを迎えに行って丘方面に向かい、麓の駐車場に車を置いて、そこからふたりで緩やかな遊歩道の坂道をのんびりと登った。
単独での山歩きと違って ルリナを連れているわけだから、当然ながら事前にコースをしっかり考えてあって、ちゃんと安全なルートを選んである。
頂上近くの公園には屋根付きの休憩所もあるので天候が急変しても大丈夫だし、そこには清潔な水洗トイレもあるから安心だ。
13時すぎに頂上に到達。
祝日だというのに、私達の他に誰も人はいなかった。
ルリナは混み合う場所が嫌いなので、偶然とはいえ本当によかったと思う。
見晴らしのいいベンチに並んで座って、コンビニで買っておいたおにぎり弁当をふたりでほおばった。
私がほっぺたに米粒をつけたままだったらしく、ルリナがその米粒を指先で掬い取ってペロッと自分で食べてケラケラ笑った。
(なんだか親子っぽい…)と思って、おもわず私も笑ってしまった。
時折吹く風が冷たかったけど、寒さなんか感じないくらいに穏やかで平和な時間がそこに流れていた。
帰り、ルリナをアパートまで送り届けたときは、もう夕暮れになっていた。
「また一緒にピクニック行こうね、甚九郎せんせ!」
ルリナは無邪気にそう言って、バイバイという感じで手を振りながらぴょんと車から降りていった。
(ルリナには、また夏の丘も見せてやりたいな…)
帰り道を運転しながら、ふとそんなことを考えている私がいた。
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