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交換条件
仕事で大きな取引をした。
失うものと、得るもの。
この社会はそんなことに明け暮れている。
なんとなく気分が疲れたので、今日は早めに仕事を切り上げて、まだ明るいうちからバーボンをグラスに注いだ。
そのときに、ふと思った。
人間は何かを得るたびに、必ず何かを失うようにできているものなのかもしれない。
それはおそらく原始の時代からの不文律で、一方的に得るだけの人間や失うだけの人間ができないように何らかの大きな力によってコントロールされているのだろうと考えられる。
すべては、ある種の交換条件なのだ。
例えば、今の私がこうして安穏と暮らすためには、それなりに大切な存在を幾つも失わなければならなかったのだろう。
私の家族がこの世から全員消えてしまったことも、
結局のところ一緒に生きる伴侶を私には持てなかったことも、
多くの知人や友人が私の不器用さのせいで離れていったことも、
今まで失ったすべては、私自身のささやかな幸せを維持するために必要なことだったのかもしれない。
そうだ。
客観的にみれば、今の私は不幸せではないのだ。
もし、これ以上の幸せを夢みてしまえば、きっとまた何か大切なものを失ってしまう。
"The Sheltering Sky"(Ryuichi Sakamoto)