終わったことではなく、過ぎたこと|ドラマ感想
これは、以前使っていたブログに当時観ていたドラマ『Woman』から感じたことを投稿した文章。読み返して今も大切だと思い、色あせない言葉が散りばめられたドラマだったので、改めてnoteに投稿することに。
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『Woman』の第8回では、いろいろとモヤモヤすることがあった回だった。相関図はこちらに。
少し長めのブログになった。なるべく言葉を選び短い文章で簡潔にと思うけれど、かえって言葉足らずになってしまうので長くなった。次の5つのことについてふれていく。
● 紗千の心の揺れにあった想い
● 栞が陸くんに言ったコトバ
● 栞の最後の言葉の意味
● 家をでることを決めた小春が何故家に残ることを決めたのか
● 「過ぎたこと」という言葉の表現
紗千の心の揺れにあった想い
「怨んでくれていい。我慢してほしい。」
小春(満島ひかり)が紗千(田中裕子)に迫ったとき、なぜ紗千は小春に、この言葉を言ったのか。
栞(二階堂ふみ)を守りたい気持ちもわかるけれど、あまりにも身勝手に聞こえた。紗千が守ろうとしたのは、栞だったのか。
何か違う気がした。階段で小春を抱きしめた姿と栞が家を去る前夜に抱きしめた姿が重なった。そしてお風呂場でつぶいやた。
「娘に、“また” 捨てられた」。
紗千が守りたかったのは、“捨てられることの怖さ” だったのではなかったのか。そう思えた。
それと栞が家を出た夜、健太郎(小林薫)が紗千に言った言葉も残っている。
「一番の子育ては、親はもう必要ないと子どもが思うこと」
紗千にとって、もう娘に捨てられたくないので、過保護と思えるぐらい依存したと思う。栞が紗千に依存しているようで、実は逆に感じた。
栞が陸くんに言ったコトバ
信(小栗旬)の好きな歌のことではないかと思う。朝の食卓で、「Believe」の話があった。あのシーンで、小春の顔がUPになった後ろの栞の顔が何故か気になってしまった。それを聞いていた栞が、部屋にいけばお父さんの好きな歌が聞けることを言った気がした。実際、望海ちゃんと陸くんが二人揃って聞いていた曲名は、「Believe」だった。
それと、栞は何故か陸くんのことが好きではないかと思う。それは、自分と似ていると思っているのかもしれないから。
栞の最後の言葉の意味
栞の旧友が紗千に言った栞の姿は真実だと思う。
「一番いい子、一番やさしく、一番マジメで、一番人の気持ちのわかる子」、「ふつうの子だったらよかったのに」。
ふつうの子のような感性であればよかったのが、あまりにも研ぎ澄まされた感性だったから心を閉ざそうとしたんだと思う。「逃げだしたかった」のは、過去の自分のような気がした。「いい子」であることに疲れたのかもわからない。
これは栞だけでなく、誰もがそう。今、子どもも若者も多くの人が現実の辛さ、寂しさから逃げたいと思っている。「自分だったら逃げない」というのではなく、そのような人がいることも知ることも大切だと思う。
以前の私も、自分基準の嫌な人間だった。退職して、教育や社会についていろいろと知ることで、自分がどれほど無知であるかを痛いほど知った。
お祭りのときの栞の笑顔が寂しく感じた。これが家族とのそして過去の自分との別れになると思ったんだと。最後のお店での笑顔も自分を誤魔化す笑顔に見えた。以前、ファーストフードかどこかで高校時代の級友に会い、愛想笑いをしたときと同じ風にみえた。
家をでることを決めた小春がなぜ家に残ることを決めたのか
小春は祭りが終わったら、家を出ることを決めていたと思う。しかし、祭りの後の望海ちゃんと陸くんの笑顔などを見てから残ることに決めた気がする。リンゴ飴のシーンでの、紗千と子ども2人の仲睦まじい姿をみて。
子ども2人にとって、どこで過ごすのが一番幸せなのか。小春にとって、今生きている全てが子どものことだけ。子どもが安心して笑顔で過ごせる居場所を小春は作りたかった、そんな気がしてならない。
「過ぎたこと」という言葉の表現
台詞の中で、「終わった」でなく「過ぎた」という言葉の表現が一番気になった。「終わった」といえば、次はない。「過ぎた」は、通過点であり、次がある。紗千、小春、栞3人にとって、それぞれ過ぎたことはある。
紗千 : 小春に捨てられたこと
小春 : 信を失ったこと
栞 : 信を小春から奪ったこと
小春は今までその過ぎたことに対して、逃げずに向き合ってきた。お風呂場での小春の言葉が心に遺る。
「許すとかではなく、どれでもない、どこにもない」
小春は強い女性だと思う、それ以上に強い母だと。紗千は、“捨てられる怖さ”に縛られていた。栞を守ることで捨てられないと思ったんだと思う。
紗千は小春の病を聞きに行った帰り、突然走り出した。着いた先、そこは小春の仕事場。走っている時に流れた歌詞があまりにも印象的だった。
「いま未来の 扉を開けるとき
悲しみや 苦しみが
いつの日か 喜びに変わるだろう」
栞を失い、小春の病気を知って、「小春を失いたくない」という想いに変わった気がする。小春といることが喜びに変わればという願いのように聞こえた。
栞は、過ぎたことと向き合うことの辛さと向かうことができずに、苦しんできた。その結果、家族を、過去を、そして自分から逃げようとした。栞が弱いとは決して思わない、それは、誰もが見せる人間の姿でもあるから。
来週、健太郎は、自分の過去を栞に話すと思う。すべての出演者にそれぞれの「過ぎたこと」があり、健太郎にもある気がする。誰よりも業を背負っている気がする。それを聞いて、栞が「過ぎたこと」から逃げるのではなく、向き合うことを選ぶことを願いたい。
切ったつながりを小春のドナーになることでもう一度つながることができる、そう思う。改めて、この回は、今を生きている私たちに対するメッセージだった気がする。
「逃げるのではなく、向き合うことの大切さ、そして難しさ」