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「原曲至上主義」にこだわっていた僕が変わった瞬間があった
月刊Pianoの原稿を編集部に送った。
2014年1月号から続いているから、11年目に入るところ。
物価や、需要の影響で連載開始時には650円だった月刊Pianoも990円になった。僕が中学生の時は500円(!)だったので、ほぼ倍だ。でも、この雑誌がまだ続いていること自体にとても感謝している。
音楽を生活の大事なところに置くようになって長い時間が過ぎたけど、音楽に対して「考え方が変わったな」と思う瞬間が人生で何度かあって、面白いことにその瞬間のことは明確に覚えてる。
簡単に言えば、昔の僕は「原曲至上主義」だった。
そして、いくつかの瞬間を体験して、そこから抜け出した。
これが一番の変化。
たとえば◯◯という曲をライブで演奏しようということになったら、過去の僕は、可能な限り作者が作ったものと同じになるように求めていた。
「完全再現を望んでいる人なんてほとんどいないんだ」ってことが、少しずつ分かってきたんだ。
ピアノアレンジの楽譜を作る仕事においても、この考え方の変化による影響は大きかったと思う。どうしてもたくさんの音数を書き込みたがっていた自分が徐々に落ち着いてきているのが、10年分の連載の譜面を見れば分かる。
どうやったらもっとシンプルで効率的に「その曲っぽく」なるだろうかと考え始めるようになったのだ。
本当に必要な音以外を思うがままに詰め込むのは簡単だし、もちろんそれによって曲の再現度は上がる。しかし演奏レベルも比例して上がってしまう。
この仕事に求められているのは「ユニバーサルデザインな譜面」なのだ。
写実的な似顔絵を描くより、単純な線でも誰だか分かる似顔絵を描くことのほうが高い技術が必要なように、どこまで音符を消すことができるかがとても重要ということ。
もう8年くらい前になるかな。
ある日ピアノアレンジの大先輩であり尊敬しているK女史に編集部で会ったとき、アレンジの相談をしたことがあった。
その時Kさんがポロっと
「ま、あとは事務員さんが弾きたいほうでしょ」
みたいなことを言ってくれたときに、僕は確実に目からウロコを落とした。
Aの弾き方と、Bの弾き方。どっちがより正しいのかを追い求めていた僕は、それが違ったと気づく。ショックだった。良い意味で。
「どっちのほうが、実際に譜面を手にした人にとって弾いてて嬉しいか」だったのだ。それは、同じピアノを弾く身である自分なら当然わかる。
そうか。正しいものを当てていく作業じゃなくて、こう弾いてみてはどうですか?と弾き手に良い提案をしていくという仕事だったんだ。
文章だけ読んだら「当たり前じゃん」って思われちゃうかもしれないけど、これに気付けなかったのは経験的に未熟だったからだと思う。
その言葉で僕は「ピアノアレンジ譜面作成」という仕事への考え方が変わったのだ。
本当に奥の深い仕事だと、今でも思っている。
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