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「過剰消費にうんざり」のトレンド
私が使うパソコンは、何年か前に買ったDell Inspiron 1台だけだ。スマホはiPhone 12 miniのままで、タブレットはiPad miniを売って中華格安ミニタブに変えた。Steam DeckはもちろんLCDで、寝室のテレビのリモコンにはアナログ放送のボタンがついているし、フリマで3000円くらいで買った古くて防水未対応のKindleはずっとお風呂でも使っているけど壊れない。
といった、「新しいものを何も買っていない」を自慢げに示すのが米国でトレンドなのだそうだ(THE WALL STREET JOURNAL - The Americans Pledging to Buy Less—or Even Nothing)。
事実、「no buy challenge」の検索は前年比で40%増加して「no spend challenge」は過去最高を記録し、アメリカ人の20%が「no cost challenge」をしたのだと。
お金払って購読している海外のnoteのようなマガジンも、新製品推しが目に見えて減っている。むしろ、古くなったモデルからおすすめを選び、それらをいかに安く、賢く手に入れるかといった方向にシフトしているようだ。M4 MacBookが出たら、「整備品が499ドルのM1 MacBookがいまでも最高な5つの理由」みたいな記事をバンバン出してくる。
そう、米国ではもはや修理できないくらいぶっ壊れでもしないと「MacBook Pro買いました」とか「新しいiPad miniのレビューです」なんて見せびらかすことはできない。「2024年に買ってよかったもの」などの定番コンテンツは、あーまた無味乾燥な一等賞リストのご披露ですかあ、と「買い物をしない」と誓ったトレンドに敏感なひとから見られるようになっているんだ……たぶん。
これはまたありがたいトレンドだ。冒頭が冗談の類ではなくて、悲しいことに実話の私が、noteでこれからもケチケチした記事を書くことの後押しをしてくれる。しかも、なにやら「すでに所有しているものに集中する方がいいと気づいた賢そうなひとたち」に仲間として混ぜてもらえそうだ。
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とはいえ、「お金ない」といった経済的な理由があるにせよ、だれだってこんなストレス高めなチャレンジを長く続けられるはずがない。欲しいものはなんだって手に入れたいのが人類で、その欲望だけで進化してきた生き物だ。
「自然や身体が外部化されてニーズや欲求が人為的に創出される」のが資本主義の一面で、次に来るのがニーズや欲求に依存しない世界という論がある。よくわからんけど、ともかく、いまさらこんなどうしようもない人類の派生として「物欲ゼロ」が枝分かれして、そんな「物欲ゼロ」同志が遺伝子を残し繁栄していくシナリオってやつが想像できない。
ある種の思想なんかを原動力にした「物欲ゼロ」は実現できるだろう。けど、子孫を残す、つまり、子どもを育てて、社会に送り出すまでのプロセスとの相性は最悪だ。そもそも「なにもないのが幸せ」なひとが、「でも、子ども欲しい」「でも、パートナー欲しい」ってなるのか。一世代で自然淘汰……ではないのか。
まあ、世界でも裕福なアメリカ人がやってるチャレンジは、外からみたら単なる金持ちの道楽だ。「プランク100日チャレンジ」の次に目に付いたからやっている、くらいかもしれない。
ビーガンを標榜しながら「酒飲むし、寿司食ってる。スマホの画面はハンバーガー」だった坂本龍一。ビーガンが当たり前になったころにビーガンやめて「肉のうまさ」を語るアン・ハサウェイ。同じように、ファッションのひとつとして消費されていきそうだ。
WSJも「TikTokでちょっと話題なこと」レベルでお気楽にとりあげているわけだけど、とはいえ、短期的にもアメリカ人が本気で「no buy challenge」をすると、資本主義経済の崩壊につながり、その前に第三次大戦の勃発となりかねない。
そう、これは「合成の誤謬(ごびょう)」のお手本のようなトレンドで、ひとりひとりが自分にとって最適な選択肢を選んでいった結果、全体としてみたときに最悪の結果が待っているかもしれないんだぞ、ってやつだ。しかも、それじゃあと欲求にしたがってこのままでいると「人類や地球に不幸と破滅がもたらされる」わけで、どちらの選択肢にも未来がないという。
とまあ、新しいの買わないですむようにMacBookのメモリ増設が簡単にできるようにならないかなあ、iPhoneのバッテリー交換が5000円くらいになるといいなあくらいしか思ってないのに、とりあえず記事を書いていたら人類の未来みたいに話広がって自分でもびっくりした。