#2.病理診断
妻の術後状態は安定、それだけは救いだった。「脳腫瘍」という言葉だけが私の耳に残り、生検の結果を待つ数日間はネットで情報を必死に探した。
その後の数日間は生きた心地がしなかった。仕事も手につかず、時間があればネットで脳腫瘍に関する情報を探していた。食事や睡眠もまともに取れていなかったと思う。妻は手術3ヶ月前に長女を出産していた為、母乳が出ており、胸が張ると言っていた為、搾乳機を買って病室まで持っていったことを覚えている。
数日後、主治医から電話があり、病理診断の結果含め話をしたいと言われた。仕事終わりにすぐに病院へ向かった。病室横の家族向け説明を行う部屋で、妻と一緒に主治医の話を聞いた。
主治医は「誠に残念ながら…」という前置きの上、「病理診断の結果、diffuse midline glioma(びまん性正中グリオーマ)グレード4 histone H3-K27M変異ありです」との話だった。聞き慣れない言葉で、素人の私にとっては理解できない内容だった。ただ主治医の「誠に残念だがら…」という前置きと「グレード4」という内容は、少なくとも「とても悪い」という事は理解できた。但しその中でも妻が死ぬことなんて想像できなかった。
主治医から「手術による摘出は病変の場所から現実的ではなく、リスクが非常に高いために行う事はできないと思います。すぐに放射線と抗がん剤治療を行いましょう。まずは治療計画をたてる為、MRIを撮った上で今後の放射線の当て方等を放射線科と共に打ち合わせします」と今後の治療スケジュールの説明を受けた。その治療内容が正しいのかどうなのか、私がその場で理解できるわけもなく、ただ私は「よろしくお願いします」としか言えなかったことを覚えている。
その後、自宅へ帰り主治医から言われた病理診断の内容や今後の治療についてネットで調べた。ただ調べれば調べるほど、主治医から言われたことが、聞き間違いではなかったのかと思うほどネガティブな内容しかなく、不安や恐怖だけが積み重なっていった。その日は眠れるわけなく、ただ悲しくて涙が流れた。