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同窗契友ーー懐メロと、思い出の同級生

(2072字・この記事を読む所要時間:約5分 ※1分あたり400字で計算)

【同窗契友】

ピンイン:tóng chuāng qì yǒu
意味:古くからの友達・同級生。

『懐メロと、思い出の同級生』

 会社帰り。

 とあるカフェの窓辺を通りかかったところ、席でくつろいでいる人々の中に、なんと大学院時代の同級生だったN氏を見つけた。

 目が合った瞬間、向こうも私だと分かったらしく、興奮気味に手を振る。

 小走りで店に入り、「久しぶり!」と挨拶を交わす。
 5年ぶりの再会だ。


 「どお?」と私が先に口を開いた。
 「上手くやってる?」

 「ああ……ハハハ」とポリポリ頭を掻きながら笑うN氏。
 「実は仕事が不安定でさ、まさに今次の仕事を探しているところなんだ」

 デスクに目をやると、注文したてのコーヒーの隣にノートが広げられていた。

 (昔と変わらないな)


 N氏と私は、同じ大学院、同じ研究科の出身だ。

 当時、私達を指導していた教授はノートを取ることにうるさく、授業中も「ノートを取れ、思いついたことはすぐに書き残せ、思考整理をしろ、答えを探せ」とくどくど言うような人だった。

 そのおかげで、私もN氏も今となっては立派な「ノートテイカー」だ。

 考え事や悩みがある時も、取り敢えずノートを広げてひたすら思考を文字にする。
 箇条書きに要点を整理したり、マインドマップを作ったり、次々と脳内に思い浮かんでくるモノを殴り書きしたり。

 そうすることで、徐々に考えがまとまり、気持ちが落ち着くのだ。

 だからN氏が今このようにノートを広げているのも、きっとこれからのことについてじっくり考えようとしていたところなのだろう。


 「あれ、Nって何の仕事していたんだっけ」
 「外国の子供達に日本語を教えているよ、今はオンラインだけど」
 「へぇー!大学院の頃からずっと目指してきたことじゃん。それが本当に仕事になったって、すごいよ」
 「いやー……でも」

 Nはいくつかのキーワードがポツポツと書かれている紙面にチラッと目をやり、話を続けた。

 「不安定なんだよね。案件がある時は良いけど、それが一旦終わってしまうと次の案件が来るまで待つしかないし、それまでは全く仕事が無いんだ」

 ふぅっとN氏が長いため息をついた。

 「時々、就職した方が良かったのかなって考えることもあるけど……」

 そして、ある限りの元気を振り絞りだそうとするかのように、にっこりと笑った。

 「それでも、やっぱりなんとか日本語教育に関する仕事をしていきたいなぁって」


 痛々しい笑顔だった。

 さらっと言っているけど、きっと来る日も来る日も悩んで迷走して、どうしたら良いか分からずひどく苦しんでいるのだろう。


 でも、何故か輝いていた。

 「辛い、けど仕方がない、諦めたくないから」と言っているような、そんな笑顔だったからだ。


 思えば、N氏は昔からよく笑う人だった。

 悩んでいても。
 嫌なことがあっても。
 課題の締め切りに追われて忙殺されそうになっても。

 本心は辛くても。

 とにかくとにかく、笑っていた。


 何より、N氏の笑顔は本当に魅力的だった。
 皮肉めいたような自虐的な暗い笑い方ではなく、ぱぁっと光出すような、そんな笑顔なのだ。

 この笑顔を見ていると、「今は大変かもしれないけど、Nは絶対になんとかなる、大丈夫だ」と思えてくる程だ。


 (これもまた、昔と変わらないな)


 面白いと思った。

 地元の大学院の一角にある、あの小さい研究室で出会った頃のN氏が、そのままそっくり目の前にいるようだった。
 仕草も、話し方も、真面目なところも、全く当時のまま。

 強いて変わったところをあげるとしたら、服装がTシャツからスーツになった、ということだけだ。


 カフェの入り口から初夏の風が吹いてくる。

 ふと、自分はまだ研究室にいて、今にも崩れそうな資料の山に囲まれていて、N氏と研究論文について語っているような、そんな錯覚が起きた。

 他の仲間達もいる。
 データ分析に没頭している子もいれば、2-3人集まってお喋りしている子達もいる。

 忙しそうにガーガーと鳴るコピー機。
 カタカタと響くキーボードの音。

 修士としての課題を全うした、最後の夏。

 ずっしりと製本された研究結果。

 学会発表終了の拍手と共に、四方八方に旅立ったあの日ーー


 「ま、お互い頑張ろうぜ」

 N氏の一言でハッと我に返った。

 「お、おう、頑張ろうぜ!」


 結局、あの日はお互いに忙しくて、多く話せず分かれることになった。


 帰路につく。

 電車に揺られて大学院生だった日々を一つ一つ振り返りながら、ふと思った。


 「ああ、そういえば、私は同窓会が嫌いだ」、と。


 当時の面影もない、ほぼ赤の他人と化したクラスメイトが集まっても、懐かしくも何も無いからだ。
 かえって記憶が上書きされ、昔の思い出が薄れていくようでとても怖くなってしまう。

 だから卒業後も、(ずっと付き合っている仲は別として)かつての同級生に会うことはずっと避けてきた。
 不安にしかならないからだ。

 でも、N氏と話していて全くそんな気分にはならなかった。


 ちなみに、懐メロを聞くとその曲が流行った頃を懐かしく思い出すのは、当時のメロディーが何年経っても変わらずにいるからなのだそうな。

 思わず「ふふ」と笑ってしまった。


 数年経ってもあの頃のままである同級生もまた、一つの懐メロだったのだ。

📚せめて同窓会の時だけでも、昔のままの姿でいられたらなぁ


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