【前回のお話】
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私に、何か一つでも取り柄があるのだろうか。
皆が寝静まった夜、私はぼんやり天井を見上げながら考えた。
隣の部屋からルームメイトの寝言がぽつりぽつりと聞こえる。
そういえば、親友は卒業後、実家に帰って店の手伝いをするとか言ってたっけ。
同級生達は次々と進路を決め、既に理想の会社から内定をもらった子もいれば、大学院を目指そうと試験勉強を始めた子もいた。
卒業後、出会った彼氏・彼女とそのまま結婚し家庭を持ちたいと言う友達もいた。
私は......
瞼が段々と重くなり、意識が朦朧となっていく。
夢の世界。
会社の内定を手にし、嬉しく家族に報告している自分がいた。
友達からはおめでとうとお祝いされ、明るく暖かい雰囲気に包まれていた。
明るい未来。
自身に満ちた私の姿。
ああ、どうか目を覚まさずに......
このまま......
翌朝。
はっと気付いて時計を見ると、既にお昼近くになっていた。
携帯がチカチカ光っている。電話だ。
寝惚け眼で画面を見ると、「母」と表示されていた。
「もしもし」
「なぁに今起きたの?何回もかけたのに全然出ないと思ったら」
電話越しに不満そうな声が聞こえてきた。
「まあ良いわ。ところで、就職についてなんだけど」
(何だよ......)
イライラする気持ちをおさえながらも、無言で聞き続けた。
「お母さんに日本人の知り合いがいてね、仕事を紹介してくれるそうよ。ある日本の会社に通訳が出来る人が欲しいみたいで、あんたどうかなって。
連絡先送るから、コンタクトしてみて!じゃあね」
(相変わらずすごい行動力だな......)
電話を切ると、早速ショートメッセージが届いていた。
メールアドレスと電話番号、それに相手の名前。
(通訳か......この前面接した会社に日本語力をボロクソ言われたばかりだけど、私に出来るのだろうか)
でも、悩んでいる暇はない。
いちかばちかでも行動しないと、このままだと正真正銘の「ニート」になってしまう。
パソコンにスイッチを入れ、拙い日本語でメールを打ち、送信した。
その日の夜、返事が来た。
さすが母の知り合いだけあって、こちらもすごい行動力だった。
話は着々と進み、早速面接をすることに。
しかも当会社の社長が直接面接してくれるのだそう。
出張で丁度私の住んでいる地域にも寄るので、せっかくだからそのまま会ってみようということだ。
そして3日後。
一張羅を身に、履歴書が入ったカバンを握りしめ、私は約束の場所へと向かったーー
(つづく)